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「国民民主党結成へ~国政への影響は」(時論公論)

安達 宜正  解説委員

新党・国民民主党が結成されることになりました。民進党と希望の党に所属する、国会議員すべてが参加すれば野党第1党となります。ただすでに新党への不参加を表明する議員が相次ぎ、最終的にどの程度の規模となるのかが焦点です。新党結成の背景や、国政に与える影響を考えます。

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 希望の党の玉木代表と民進党の大塚代表は今夜会談し、大型連休明けの来月7日、国民民主党を結成することで合意しました。新党は穏健保守からリベラルまでを包摂する、「中道改革政党」とし、当面は玉木・大塚両氏が共同で代表を務めることになります。現在、希望に所属する国会議員は衆参あわせて54人、民進は党籍を離脱している、参議院副議長を除いて52人です。すべてが新党に参加すれば106人。立憲民主党の62人を抜き、野党第1党となります。幹部は「自民党に代わる、新しい受け皿になる」としていますが、野党第一党となるかどうかは今の段階では見通せません。

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希望、民進ともに分裂の動きがあるからです。まず、希望です。衆議院選挙公示直前の去年9月、小池東京都知事ともに結成をした時の、発足メンバー。細野元環境大臣や松沢参議院議員団代表らが新党への不参加を表明。小池知事も「こんな形になるとは残念」と述べ、新党から小池カラーは完全に消えることになります。松沢氏は党内の保守系議員の一部とともに、希望の党の再生を図る考えです。一方の民進党。衆議院の会派・「無所属の会」で活動する、岡田元副総理が新党参加に慎重姿勢で、衆議院側では新党に参加しない議員が多数を占める見通しです。また、参議院でも小川参議院議員会長らリベラル系議員が立憲民主党に入党したいとしているほか、無所属を選ぶ動きも出ています。国民民主党は自民党に対抗する野党を目指しながら、野党第2党の希望と、野党第3党の民進がともに分裂し、発足するという、皮肉な旅立ちとなります。

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それでは、党の分裂という状況を生みながらも、なぜ、新党の結成に踏み出したのでしょうか。2つの理由があります。1つは民主党を再建したいという思いです。こうした思いは国会議員ばかりではなく、支持団体の連合にもありました。連合は今月28日にメーデーの中央大会を開催します。大型連休前の合意に拘ったのは、連合との連携を継続させるためにも、メーデーより前に新党の形を示す必要があったためです。
そもそも、この新党は希望と民進だけでなく、立憲民主党や、小沢元民主党代表が率いる、自由党まで、大きな結集を目指したものでした。2009年から3年間、政権についた民主党が分裂。国会議員の数では同じ程度の3つの政党が並立しています。かつて、民主党に所属していた国会議員が再結集すれば、自民党に対抗する、政党を作れるという思いです。しかし、立憲民主党の枝野代表は「数合わせは国民の理解が得られない」と、新党には参加しない方針を早々に示し、小沢氏も歩調を合わせました。結果的に希望と民進だけの新党となりました。

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ただ、新党の政策。例えば安全保障関連法。当初、「憲法違反と指摘される部分を削除する」としていたのを、最終的には「白紙撤回」と改めたほか、原発政策についても、「2030年代ゼロ」と明記しました。ほぼ民進党の政策で、立憲民主などとの連携を視野に入れたものと見られます。

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2つ目はこのままでは選挙が戦えないという不安の声が、両党から出ていることです。来年4月の統一地方選挙まで1年を切り、その年の夏には参議院選挙が控えています。民進党では地方議員が離党。立憲民主党への参加や、無所属での立候補を目指す動きが出ています。その背景には支持率の低迷があります。NHKの今月の世論調査。民進党の支持率は1.4%です。幹部が地方に行くと、「民進党はまだあるのか」と聞かれることもあるといいます。去年の衆議院選挙に候補者を擁立しなかったことで存在感を失ったという指摘です。一方の希望の党。支持率は0.3%です。小池都知事の小池ブームの風を受け、一時は政権交代かとも言われた、政党とは思えない数字です。民進党、希望の党という党名を捨ててでも出直し、存在感を示したいという思惑があります。ただもっとも、野党には両党の支持率を足しても、2%足らず、立憲民主党はおろか、共産党にも及びません。新党の影響力は限定的だという冷ややかな指摘があります。

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次に新党の結成が国政全体に与える影響を国会運営と国政選挙の両面から考えます。まず、国会運営、安倍政権と野党の関係です。国会は衆参両院ともに与党が過半数を大きく超え。野党が再編されるだけではこの状況は変わりません。しかし、安倍政権の国会運営は巨大与党を基盤に、野党のうち、政権に是々非々の姿勢で臨む、日本維新の会などの協力も得て、国会を乗り切ってきました。希望は自民党出身の小池知事の呼びかけで結成された経緯もあって、保守系議員も多く、政権与党には今後の憲法改正議論などで、協力に期待を寄せる声もありました。安倍政権は森友学園や加計学園をめぐる問題などで支持率が低下傾向にあります。希望から保守系議員が離れたうえで、国民民主党が結成されると、今後、政権に対峙する姿勢を鮮明にしてくると見られます。安倍政権の政権運営には逆風となる、という見方があるのはそのためです。一方で、新党に参加しない保守系議員には維新などとの連携を探る動きもあり、それが実現すると安倍政権に是々非々で臨む勢力も再編される可能性があります。

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次に国政選挙への影響です。衆議院の解散がなければ、もっとも早い国政選挙は来年夏の参議院選挙です。焦点は全国32の定員1人の1人区の勝敗と言われています。1人区について、与党側は自民党の公認候補を基本的に公明党が推薦し、統一候補の形で臨みます。一方の野党側。前回はすべての選挙区で民進党、共産党、自由党、社民党の4党が候補者を一本化。与党が21、野党が11の選挙区で勝利しました。与党の強い組織力に対し、野党が対等以上に戦うには野党候補の一本化が欠かせないというのは、各党の共通した認識です。ただ、去年の衆議院選挙。共産党は立憲民主党や社民党と候補者を一本化しましたが、希望の候補者には対立候補を擁立し、野党が分裂する形になりました。しかし、保守派系の一部が希望から離れて新党が結成されれば、共産党も含めた、野党統一候補擁立に向けた話し合いの余地できたという見方もあります。

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以上、見てきましたとおり、国民民主党の結成は野党側の再編だけでなく、今後の国政に一定程度の影響があることは間違いありません。政権与党、自民党に対抗する野党には、一定規模の勢力を確保することが重要なことも、確かです。しかし、安倍政権の支持率が低下傾向にあっても、自民党の支持率は大きくは下がらず、野党7党を足しても、与党に遠く及びません。上昇の気配さえもありません。この現状をどう認識し、どう打開するのか、政権与党、自民党とどこが違い、どういう将来像を描いているのか、野党各党はそれを国民に示し、そのためには、いま、何をなすべきかをかたること、それが何よりも重要ではないでしょうか

(安達 宜正 解説委員)


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