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「戦場になる学校」(時論公論)

別府 正一郎  解説委員

【はじめに】
シリアやイエメンなど世界各地で紛争が激化する中で、今、新たな問題が深刻化しています。学校が軍事攻撃で破壊されたり、学校が襲撃されて子どもが連れ去られたりするなど、ますます多くの学校が紛争に巻き込まれるようになっています。本来、子どもたちが安心して学び、成長する場であるべき学校までもが戦場になっている現代の紛争地帯の実態と課題を考えます。

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【解説のポイント】

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①    まず、学校が紛争に巻き込まれている実態を見ていきます。
②    次に、なぜ学校が戦場になっているのか、原因を分析します。
③    最後に、国際社会がどう向き合うべきかを考えます。

【シリア内戦】

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シリアの首都ダマスカス近郊の東グータ地区では、そこを拠点にする反政府勢力に対して、政府軍が大規模な軍事攻撃を続けてきました。今月上旬、化学兵器の使用が疑われる攻撃があったとされるのもこの地区です。戦闘は地区のあらゆる場所に及び、多くの学校も破壊されました。
ここで去年10月に撮影されたと見られる映像では、幼稚園が政府軍によると見られる空爆を受けて、子どもたちが通学路を逃げ惑う様子が写っています。
一方で、反政府勢力側も、この地区から政府が統治するダマスカス中心部に向けて砲撃を繰り返し、学校に着弾し、子どもが犠牲になることも相次いでいます。
国連によりますと、政府軍・反政府勢力の双方の攻撃によって、去年1年間だけで、シリア全土であわせて89校の学校が攻撃を受けました。

【ナイジェリアの過激派】
また、学校にいる子どもたちが、直接、標的になることも起きています。

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ナイジェリア北東部のチボックでは、4年前、イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」が一度に276人の女子生徒を拉致し、国際社会に衝撃を与えました。しかも、未だに100人以上が家族のもとに戻れないでいます。こうした中でほかの学校への襲撃も起きていて、国連は今月13日、拉致された子どもは2013年以降あわせて1000人を超えたと発表しました。

【世界全体では】
このように学校が紛争に巻き込まれることが各地で目立つ中、全体像をつかもうと、国連機関や国際的な人権団体が合同で調査に乗り出しました。

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この結果、学校への攻撃や子どもの殺害や拉致など、「学校の戦場化」ともいえる問題が、2013年から2017年までの間に28か国で確認されました。アジアや中東それにアフリカの国々が目立ちます。

【原因は・・】
しかし、戦時であっても守るべきルールを定めたジュネーブ条約のような国際人道法では、民間人と学校のような民間施設への攻撃は戦争犯罪だとして厳しく禁じています。
しかも、ジュネーブ条約には世界の事実上全ての国が加盟しています。それが、なぜこれほど破られているのでしょうか?
主に3つの原因を分析していきたいと思います。

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【原因① 市街戦の増加】

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まず、現代の紛争では、戦闘がますます都市部に及んでいることがあります。武装グループが都市部に潜み、各地で市街戦が激しくなっているのです。赤十字国際委員会の調べでは、シリアとイラクで、2015年までの3年間、戦闘で犠牲になった市民のうち圧倒的に多い70%が市街戦の中で命を落としたことが分かっています。

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こちらの写真はイラクで撮影されたものです。政府軍と過激派組織の間の戦闘が収まり、子どもたちが再び学校に通えるようになりましたが、その前にあった銃撃戦の激しさを示すように校舎の壁には無数の銃痕が残っています。
市民生活の場で戦闘が展開される状況で、学校への攻撃や破壊も相次いでいるのです。

【原因② 子どもを標的に】
また、様々な武装グループが現れては、国際人道法を無視して、学校にいる子どもたちを利用するために、直接、標的にすることも増えています。

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ナイジェリアの過激派組織は、連れ去った女子生徒を戦闘員と強制的に結婚させたり、身の回りの世話をさせたりしています。
イエメンでは、戦闘員を確保するために、反政府勢力が学校に押しかけていて、内戦が始まってからの3年あまりで少なくとも2419人の子どもが戦闘員にされました。

【原因③ 学校施設の軍事利用】
さらに、校舎や校庭を軍事的な目的で利用することが広がっていることも問題の深刻化に拍車をかけています。
たとえば、シリア北部の反政府勢力のある基地では、壁に子供向けの絵が描かれていて、そこがもともとは小学校の教室だったことが分かります。戦闘員たちが、子どもたちを追い出して占拠しているのです。
リビアでは、中学校の校庭で、反政府勢力の戦闘員たちが兵器の使い方を訓練したこともありました。
子どもたちの安全を考えて比較的しっかりと建てられる学校は、それゆえに、紛争当事者から軍事的に利用されやすく、しかも、学校であれば相手側から攻撃されにくいだろうという冷酷な計算もあります。しかし、こうした軍事利用は学校に大きなリスクをもたらします。

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国際人道法は学校への攻撃を禁じていますが、ひとたび軍事利用され、戦闘員が占拠してしまうと、もはや条約が保護する民間施設ではなく、合法的な標的とみなされてしまうからです。軍事利用の広がりが、学校への攻撃の増加をもたらしているのです。

【国際社会はどう向き合うべきか】
では、国際社会は何ができるでしょうか?
まず、民間人の保護という国際人道法の最低限のルールを守るよう、反政府勢力も含めた全ての紛争当事者に粘り強く訴え続けることが必要です。

【『安全な学校宣言』とは】
その上で、学校の軍事利用を食い止めることも必要です。

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実は、国際人道法は学校への攻撃は禁じているものの、軍事利用についてはこれまであまり問題視されてこなかったこともあって明確に禁じる規定はありません。このため、国連では、そのギャップを埋めようと、3年前から各国政府に対して、「いかなる形であっても学校を軍事利用しない」ことを盛り込んだ『安全な学校宣言』への支持を呼びかけています。これまでにフランスやカナダなど70か国あまりが支持を表明しています。その一方で、アメリカは自国の部隊の行動が縛られることを警戒していると見られ、支持しておらず、日本も不支持の立場です。
この宣言を各地の反政府勢力が尊重するとは考えにくいものの、政府側が率先して学校を軍事利用しないとの姿勢を示すことは、国際的な規範の醸成につながることも期待され、日本として、宣言にどう向きあうのか議論を活発化させる必要があるように思います。

【紛争地の教育支援を】
また、紛争地での教育支援も求められています。イエメンではすでに50万人近くの子どもが学校を中退し、教育の機会を奪われたまま育っているような状況です。
世界全体で見ても、紛争地では読み書きができない子どもの割合は10人に3人に上り、そのほかの国や地域の平均に比べて3倍も高いことが分かっています。教育の機会を失うことは、個々の子どもの人生にとってはもちろん、国全体にとっても、また、世界全体にとっても大きな損失です。

【最後に】
学校といえども、もはや、その影響から免れることが出来ない現代の紛争。国際社会は、紛争の激化を食い止めるための外交努力をいっそう進めると共に、「学校の戦場化」を許さないという強い姿勢を打ち出すことが求められています。

(別府 正一郎 解説委員)

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