NHK 解説委員室

これまでの解説記事

「熊本地震2年~宅地復旧と町づくりは」(時論公論)

松本 浩司  解説委員

熊本地震からあすで2年になります。この地震では2度の震度7など激しい揺れで住宅だけでなく土台の宅地が大きな被害を受けました。いまも4万人近くが仮設住宅などで暮らしていますが、土台から直さなければならないことが住宅再建に時間がかかる一因になっています。被害の大きかった益城町の復興事業と液状化対策の課題を見ていきます。

j180413_00mado.jpg

【宅地被害と復旧状況】

j180413_01_0.jpg

熊本地震では4万棟以上の住宅が全半壊しましたが、宅地の被害も1万5000ヶ所にのぼりました。住宅を再建するためには宅地とそれを支える擁壁の復旧が前提になるところが少なくありませんが、これに時間がかかっています。

j180413_01_4.jpg

公共事業として復旧にあたるものが4500ヶ所あり、9割で設計や工事などが始まっていますが、完成したのはまだ1ヶ所だけです。また国の補助を受けて所有者が復旧したものは2300ヶ所にとどまっています。

【益城町の復興事業】
宅地の復旧は、こうした個別事業ではなく地域全体を整備する「復興土地区画整理事業」のなかで進める方法もあります。熊本県益城町はこの事業を選びました。

〔VTR〕
震災直後の益城町です。2度の震度7の激震で、緩やかな斜面に広がる市街地の地盤がいたるところで壊れ、ほぼ全ての住宅が被害を受けました。町の中心部は狭い路地や行き止まりが多く、倒壊した家が住民の避難を阻みました。公園も少なく火災が起きていれば被害がさらに大きくなったと考えられます。

j180413_02.jpg

復興土地区画整理事業の対象は中心部の24ヘクタールです。
幹線道路を広げたり、生活道路を新しく作ったりして避難路を確保し、避難場所になる公園も整備します。商業施設も集めるなどまち全体を作り直す大がかりなものです。

具体的には個人の宅地の一部を提供してもらったり、ほかの土地と交換してもらったりして公共用地を確保。壊れた地盤や擁壁を直して道路や公園を整備します。個人の土地は狭くなりますが、安全性が高まり、使いやすい土地になるというメリットがあります。
事業費は100億円を超えるが見込まれ、半分強を国が負担します。

j180413_03.jpg

町は去年6月に区画整理の推進を表明し、住民説明会やアンケートなどを重ね事業化を急いできました。しかし12月、都市計画を決める審議会から「住民の合意形成が十分とは言えない」などとストップがかかりました。そこで北海道から沖縄まで410人いる地権者のほぼ全員を訪ねて説明し8割近くから前向きな回答を得ました。そして当初の見込みより半年遅れて先月、対象地域を決める都市計画決定にこぎつけました。今、県と町が具体的な計画づくりを進めていて秋には事業に着手したいとしています。

しかし住民が家の再建を始められるのは早くても2年半先になる見込みで、住民の対応も分かれています。

〔VTR〕
地盤被害が大きかった宮園地区では倒壊家屋の撤去が終わり、現在、多くが空き地のままになっています。住民は復興土地区画整理事業で道路や擁壁などが整備され、地盤の安全性が高まってから家を再建しようと仮設住宅などで暮らしています。地区の人たちは町づくりを話し合う会合を30回近く重ねてきました。この日の役員会でも地域の意見をどうまとめていくのか、熱心な議論が続きました。

j180413_04.jpg

町づくり協議会会長の増田英一(ますだ・えいいち)さんは「階段状に広がる地区全体の地盤が被害を受けていて個人での宅地復旧は難しい。住民が一日も早く戻って家を再建できるよう事業を急いでほしい」と話しています。

一方、事業が予定される地域で家を再建する人も増えています。

j180413_05.jpg

小嶺隆さんは震災前、店舗を兼ねた自宅で妻と障がいのある次女と暮らしていました。地震で家は大きく壊れ仮設住宅に入ったのですが、次女は施設に預けざるを得ませんでした。小嶺さんは復興土地区画整理事業には賛成していますが、2年がたち「これ以上は待てない」と家族揃って暮らせる自宅の再建に踏み切りました。

〔VTR〕
小嶺さんは拡幅が予定されている道路から後退させて建てていますが、今後決まる計画によっては建物の移動や建て直しを求められる可能性もあり、不安を感じています。小嶺さんのように対象地域で住宅を再建する申請は80件あまりにのぼっています。
さらに土地が狭くなったり境界を動かしたりすることを嫌って計画に反対している人もいます。

土地区画整理事業は地権者の協力がなければ事業が進みません。東日本大震災では合意が不十分なまま事業に着手したため、住民の強い反発を受け何度も計画の見直しを迫られ完成が遅れたケースもあります。
また先に住宅が建って移動や建替えなどが必要になった場合、費用は行政側の負担で事業費が膨らんでしまいます。
県と町は、時間をかけて説明をして住民の理解を得ることと、急いで事業を進めることの両方を求められているのです。

【液状化対策は】
熊本地震による宅地の被災でもうひとつ大きいのが液状化被害です。

j180413_06_2.jpg

熊本市では住宅2900棟で傾いたり、倒れたりする被害が出ました。特に被害が大きかったのが南部のこの地域です。ここでは傾いた家を元に戻す工事を進める住宅がある一方、取り壊されたままの空き地も目立っています。地震で再び液状化が起こることを心配して住宅再建をためらう人やほかに移る人もいます。熊本市は再び液状化が起きない対策を検討していて来週から実証実験を始めます。

j180413_07_1.jpg

地面に鉄板を打ち込んで住宅地を囲い、地下水をくみ上げて内側の水位を下げます。液状化は地震の揺れで砂と水が混ざり合って流動化することで起こるので、水位を下げることで再発を防ごうという狙いです。

〔VTR〕
東日本大震災の被災地でも採用されていて、熊本市は8月まで実験を続け、うまく行けば事業化しようと考えています。
ただ、そこでも重要になるのは住民の合意が得られるかという点です。市は工事費用は住民負担を求めない方針を示していますが、騒音などが出る大きな工事になり完成後の維持費も必要です。市は住民との話し合いを重ね、対象地域を検討することにしています。

【まとめ】
宅地の再建と町づくりを進めるために何が必要でしょうか。

j180413_08.jpg

▼まず町と県が住民と丁寧に話しあうことが大前提ですが、地区を細かく分けて合意が得られたところから進めるのが現実的です。東日本大震災では先行して整備するエリアを決め、早期の住宅再建を希望する人はそこに移ってもらう方法で成果をあげたところがあり、参考になると思います。
▼一方、計画に賛同しない人や既に家を建てた人の生活再建に支障が出ないよう、柔軟に対応する必要があります。
▼さらに時間の経過で住民の事情や気持ちが変わる可能性もあります。東日本大震災の区画整理では完成したものの利用方法が決まらない空き地でたくさん出ています。住民とのコミュニケーションを常に図り、計画の修整をためらわないことも大切になるでしょう。

ふたつの復興事業、特に復興土地区画整理は住民と町の復興を一体的に進めることのできるメリットがありますが、住民の権利の制限を伴ううえ、とても時間がかかります。住民の住宅再建を少しでも前倒しできるよう、国も町や県といっしょに考えて制度を柔軟に運用し、必要があれば仕組みを変えることも含めて、強力に後押しをしてもらいたいと思います。

(松本 浩司 解説委員)

キーワード

関連記事