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「米英仏 シリア攻撃の影響」(時論公論)

出川 展恒  解説委員

■アメリカ、イギリス、フランスの3か国が、シリアのアサド政権に対する軍事攻撃に踏み切りました。アサド政権が、反政府勢力が拠点とする東グータ地区で化学兵器を使用したと断定して、14日、シリア国内の化学兵器の関連施設をミサイルで攻撃したのです。今回の攻撃の背景や今後のシリア情勢に与える影響を考えます。

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解説のポイントは次の点です。
▼「軍事攻撃の背景と目的」。そして、▼「シリア内戦への影響と課題」、とくに、「化学兵器をめぐる対応」です。

■まず、攻撃の背景から見てゆきます。

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シリアの内戦は、過激派組織IS・イスラミックステートがほぼ壊滅状態となり、アサド政権側が、反政府勢力側との戦いで、圧倒的優勢に立っています。アサド政権は、反政府勢力の重要な拠点となってきた首都ダマスカス近郊の「東グータ地区」に今年2月以降、徹底的な攻撃を加え、90%以上を奪還していました。

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ロシアとイランが、アサド政権を、強力に支援してきました。これに対し、アメリカは、反政府勢力への支援を事実上打ち切ったうえ、トランプ大統領は、今月初め、シリアに駐留させてきた、およそ2000人の兵士らをできるだけ早く撤退させたいと表明しました。

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東グータ地区で、化学兵器の使用が疑われる攻撃が起きたのは、その直後でした。子どもたちがあえぎ、苦しむ様子を写したこの映像は、世界中に大きな衝撃を与えました。
アサド政権は強く否定していますが、トランプ大統領、マクロン大統領、メイ首相は、アサド政権が化学兵器を使用したと断定し、3か国共同でミサイル攻撃を実施したのです。

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■アメリカ国防総省によりますと、3か国の軍は、艦船や戦闘機からミサイル合わせて105発を発射し、ダマスカス郊外の化学兵器の研究施設や、シリア中部のホムス近郊の化学兵器の貯蔵施設など、3か所を破壊したと説明しています。
この発表が正しければ、今後、化学兵器が使われる危険性を、ある程度防ぐ効果はあると考えられます。ただし、化学兵器を製造するための技術や知識は取り除けないため、将来、再び使用される恐れも残ります。

■次に、トランプ政権などが、軍事攻撃に踏み切った目的について考えます。

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▼トランプ政権は、アサド政権に二度と化学兵器を使わせないための攻撃だと説明しています。フランスは、化学兵器の使用は、「戦争犯罪」であり、「越えてはならない一線」だと主張しています。また、イギリスは、化学兵器から住民を守るのは、「人道的な介入」であり、武力行使は正当だと主張しています。
その一方で、アサド政権の後ろ盾となっているロシアとの軍事衝突を避けようと、極めて慎重に作戦計画が立てられた様子が窺われます。とくに、マティス国防長官の采配で、攻撃対象を化学兵器の関連施設にとどめ、アサド政権の中枢への攻撃は控えたと伝えられています。

▼もうひとつの目的は、国内向けのアピールです。トランプ大統領は、秋の中間選挙を控え、有権者に対し、自分はオバマ前大統領とは異なり、予告した軍事攻撃は必ず実行する強い指導者だとアピールする狙いがあったと言う見方が出ています。トランプ大統領は、アサド政権を崩壊させるつもりはなく、シリア情勢には深入りせず、できるだけ早く撤退したい考えと見られます。

■こうした意図で行われた今回の軍事攻撃については、次のような問題点が指摘されています。▼まず、3か国が、アサド政権が化学兵器を使用したという確かな証拠を示さず、国連安保理決議もないまま、攻撃に踏み切ったこと。▼そして、シリアの内戦をどのように終結させ、どのように秩序を回復するのかというビジョンや戦略が欠けていることです。

■ここからは、今回の攻撃が、シリアの内戦にどのような影響を与えるかを考えます。

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アサド政権側が圧倒的優勢にある戦況が大きく変わらないことは確実です。焦点となっていた東グータ地区では、最後まで抵抗を続けていた反政府勢力の兵士らが今回の化学兵器による攻撃の後、すべて撤退し、アサド政権は、東グータ地区を完全に制圧したと宣言しました。
今後は、反政府勢力側の重要な拠点であるシリア北西部のイドリブ県に焦点が移ると見られます。東グータ地区や、北部の主要都市アレッポと同様、アサド政権軍が包囲して、一般市民の犠牲も顧みない無差別攻撃が行われる恐れもあります。1年前、イドリブ県で神経ガスのサリンが使われたこともあり、再び化学兵器が使用される恐れも排除できません。
ロシアは、国連安保理決議のないまま行われた今回の攻撃は、「重大な国際法違反だ」として、強く非難しています。これに対し、アメリカは、ロシアがアサド政権をかばい続けていることが化学兵器の使用を招いたと非難し、ロシアに対し、新たな制裁を打ち出す方針です。アサド政権に関係したり、化学兵器に関連する装備を取り引きしたりするロシアの企業が、制裁の対象となる見通しです。今後、国連安保理などで、米ロ両国の対立が深まるのは避けられず、シリアの内戦終結や和平をいっそう遠のかせることになりそうです。

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■シリア情勢をめぐる今後の課題ですが、まず、今回の化学兵器の使用疑惑について、真相を究明することが重要です。アメリカ、イギリス、フランスの3か国は、アサド政権が化学兵器を使用したと断定していますが、アサド政権とロシアは完全に否定し、「でっちあげ」だと非難しています。
OPCW・化学兵器禁止機関の調査チームが、きょうシリアで調査を開始し、その結果が注目されます。ただし、OPCWは、どんな物質の化学兵器が使われたのかを調べるにとどまり、誰が使ったのかまでは、踏み込まないことになっています。このため、欧米各国やアラブ連盟は、独立した調査機関の設置を要求していますが、ロシアが強く反対しており、実現の見通しは立っていません。

■次に、化学兵器が二度と使われないよう、再発防止の枠組みを確立する必要があります。アサド政権は、5年前、サリンを使用した疑いが指摘された際、ロシアの指導のもと、化学兵器禁止条約に加盟し、保有していた化学兵器をすべて廃棄したはずでした。
ところが、その後も、化学兵器の使用疑惑が繰り返し持ち上がっており、すっかり信用が失われています。抜き打ち査察による検証などで、化学兵器についての疑いを完全に払拭する仕組みが不可欠だと思います。

■そして、中断したままとなっている国連主導の和平プロセスを何としても再開させる必要があります。グテーレス事務総長は、今回の軍事攻撃が行われた直後に声明を発表し、「シリアの危機に軍事的な解決はない。国連憲章と国際法に基づき、政治的に解決することが不可欠だ」と強調しています。
まずは、部分的な停戦を実現させ、それを積み重ねてゆくと同時に、和平協議を進めなければならないと思います。合わせて、難民や国内避難民となっている人々や、長く封鎖状態に置かれている人々の命を救う人道支援も急がなければなりません。

■日本の役割ですが、こうした人道支援にできる限り資金や人を出して貢献することが期待されています。そして、今週、日米首脳会談、そして来月には、日ロ首脳会談が予定されていますが、安倍総理大臣には、ぜひ、トランプ、プーチン両大統領との良好な関係を活かして、シリア問題での歩み寄りを働きかけてもらいたいと思います。

(出川 展恒 解説委員)

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