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「熊本地震2年 新幹線の脱線対策に求められること」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

熊本地震から、2018年4月で2年になります。この地震では九州新幹線が脱線しました。
駅を出発したばかりで、スピードは出ておらず、けが人はありませんでしたが、高速走行中に新幹線が脱線すれば、大惨事につながる恐れがあります。
地震国、日本で新幹線を運行するのに何が求められるのか考えます。

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解説のポイントです。

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▽九州新幹線が、なぜ脱線を防げなかったのか見た上で、
▽全国の新幹線の地震対策がどこまでできているのか、その現状、
▽今後の脱線対策に何が必要か、考えます。

脱線が起きたのは、2016年4月14日。熊本地震で最初に震度7を観測した地震のときでした。熊本駅を出発したばかりで、速度はおよそ80キロと遅く、さらに回送列車で運転士1人しか乗っていなかったため、けが人はありませんでした。ただ、6両すべてが脱線しました。

脱線の原因は何だったのでしょうか。

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国の運輸安全委員会がまとめた事故調査報告書では、地震の揺れが高架橋で一層大きくなり、車体がこのように揺れて脱線したとしています。

では、脱線を防ぐことは出来なかったのでしょうか。
新幹線では大きく3つの地震対策が採られています。

▽高架橋などを耐震性の高いものにする、
▽地震をいち早く検知して、大きく揺れる前に列車にブレーキをかける「早期地震検知システム」です。
今回、検知システムは働きましたが、震源が近かったため、ブレーキは間に合いませんでした。高架橋は地震に耐えましたが、揺れそのものが大きく、この2つの対策では、直下型の大きな地震に対しては、十分ではありません。

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3つ目の対策。九州新幹線では「脱線防止ガード」をレールの間に設置することにしています。脱線しそうになっても、車輪がガードにあたって、脱線を防ぐというものです。しかし、現場にはこのガードは設置されていませんでした。

なぜ、ガードがなかったのでしょうか。

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九州新幹線では、ガードを設置する目安として、活断層と新幹線が完全に交差している高架橋などとしていました。この条件にあうとしてガードを設置したのは、熊本駅の北の10キロの区間と、南の14キロの区間だけでした。脱線現場をはじめ、九州新幹線のほとんどのところにガードは設置されていませんでした。
これについて、運輸安全委員会の報告書では、ガード設置の計画を見直すよう求めています。

この指摘をどう考えるか。
場所が分かっている活断層は一部に過ぎず、直下型の地震は、どこで起きても不思議ではありません。それは、全国の新幹線にいえることです。
数百人、あるいは1000人もの乗客が乗った新幹線が時速250キロ、300キロを超える高速走行中に脱線すれば、大惨事になりかねません。

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その危険性を考えれば、指摘されている計画の見直しとは、地震のときの脱線対策が全線で必要であると受け止めなければならないと思います。

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では、全国の新幹線の地震対策は、どの程度進んでいるか現状を見てみます。

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高架橋などの耐震化は、すべての新幹線で基本的に完了しています。地震検知システムも、より早く揺れを捕らえられるよう、地震計を増やすなど観測網の強化が図られています。
しかし、レールの脱線対策となると、多くの課題が残されています。

脱線対策の方式は、新幹線によって異なります。

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東海道新幹線と九州新幹線は同じで、脱線防止ガードを取り付けています。
仮に脱線しても、車体の下にあるストッパがガードに当たって、線路から大きくそれないようにしていて、脱線防止と逸脱防止の二重の対策になっています。
その他の新幹線には、脱線防止ガードは設置されていません。独自の逸脱防止対策をとっています。
その一例が、上の図中の左上の絵です。
脱線すると車体に取り付けたガイドが線路に引っかかる仕組みです。その衝撃などに耐えられるよう、レールに補強が必要とされています。

では、「レールの補強」や「ガードの設置」といった対策は、全線で出来ているのでしょうか。

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対策をした区間の割合を路線別に示したのが、上の図です。
たとえば、北海道新幹線は96%です。割合が高いのは、こうした対策が2004年の新潟県中越地震をきっかけに始まっているためです。北海道新幹線は開業が最近なので対策が間に合い、ほぼ全線で対策が済んでいるのです。
一方で、東海道新幹線は42%、東北新幹線は38%と半分もできていません。

今後について、どのように考えられているのでしょうか。

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熊本地震のあと、JR東海は東海道新幹線について、2028年度をメドに2100億円かけて全線にガードを設置することを決めました。
JR東日本も、東北新幹線の大宮-盛岡間と上越新幹線について、2029年度をメドに、ほぼ全線で対策を終えるとしています。
ただ、これには10年程度かかる見通しです。終電後の深夜にしか行えない作業とはいえ、もっと早めることが求められます。

私が、特に問題と感じるのは、対策をどう進めるのか、決まっていない区間です。

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そのひとつが、対策が11%と遅れている山陽新幹線です。JR西日本は2029年度までに36%にするとしていますが、計画を早めるとともに、全線の対策をいつ終えるのか示すことが求められます。

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そして、根深い問題があるのが、上の図で黄色く示したいわゆる「整備新幹線」です。

▽九州新幹線は15%、
▽北陸新幹線の高崎-長野間と、東北新幹線の盛岡-八戸間は、0%。つまり、レール側の脱線対策がまったく行われていないのです。
長野-金沢間や、東北・北海道新幹線の八戸以北では、対策がほぼ全線でできているのと対照的です。

なぜ、これほど極端に分かれるのでしょうか。

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整備新幹線は、国の計画に基づいて整備されるもので、高架橋やレールなどの建設は、JRではなく、「鉄道・運輸機構」という独立行政法人が行うことになっています。
比較的新しい区間は、建設のときに脱線対策が行われたので、ほぼ全線です。一方、対策が決まる前にすでに開業した区間は、0%と手付かずのままなのです。対策の費用をJR側と、鉄道・運輸機構がどのように負担するのか協議が続いていることが大きな理由です。鉄道・運輸機構が負担するとなると、その費用は国民の税金、さらには地元自治体が負うことも考えられ、難航しているのです。

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では、今後どうすればいいのでしょうか。

新幹線の脱線対策の基本的な方針を決める協議会があります。

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国土交通省やJR、鉄道・運輸機構などが参加しています。中越地震で新幹線が脱線した2004年に発足し、14年にわたって検討を続けています。
熊本地震を受けて、2017年12月に会合が開かれましたが、「計画見直しの必要性も含めて検討することを確認した」ということにとどまり、対策を加速させる道筋をつけるには至りませんでした。
JR東海やJR東日本が、全線での対策を打ち出したことからもわかるように、脱線対策をすべての区間で行う必要性は鉄道関係者の間では、もはや共通認識です。
今しなければならないのは、その共通認識である全線での対策の早期実現を明確に打ち出すことです。その上で費用負担などの課題を解決して、次の段階へつなげなければ、対策は進まないと思います。

新幹線は、中越地震、熊本地震と大きな地震のたびに脱線しています。いずれも死傷者はありませんでしたが、今後も、そうであると誰が言い切れるでしょうか。
地震は待ってはくれません。地震国、日本で大勢の乗客を高速鉄道で運ぶことの重さ、そして、熊本地震で脱線を防ぐことができなかった現実、これらに正面から向き合い、対策を急がなければなりません。

(中村 幸司 解説委員)

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