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「公文書をどう管理すべきか」(時論公論)

清永 聡  解説委員

公文書をめぐる問題が昨年から止まりません。財務省の決裁文書の改ざんに加えて、自衛隊のイラク派遣の日報。
公文書の管理はいったいどうなっているのか。いま、多くの国民が不信や疑念を抱いていると思います。再発を防ぐため必要なことは何かを考えます。

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【解説のポイント】

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●1年以上続くこの問題。何が起き、取り組みの現状はどうなっているのか。
●日本の公文書管理は、実は地方が先駆けでした。また、先進的な取り組みもあります。
●最後に、今後求められる対策を考えます。

【公文書などめぐる主な問題】
公文書などをめぐっては次々と新たな問題が明らかになっています。大きく分けると、問題はおおむね3つに分類されます。

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1つは「捨てた」「存在しない」という文書が出てくるケースです。南スーダンに派遣されたPKO部隊の日報は、当初、廃棄したとされていました。また「加計学園」の獣医学部新設をめぐり文部科学省の文書が見つかったほか、愛媛県の文書も見つかりました。政府は文部科学省の文書を「個人メモ」としているほか、愛媛県の中村知事は会見で「職員の備忘録」だと説明しています。
2つ目は「あっても報告しない」ケースです。自衛隊のイラク派遣の日報も発見から防衛大臣への報告まで1年以上放置されていました。
最後が、改ざんです。「森友学園」をめぐる財務省の決裁文書は、14の文書で300か所以上削られたり,書き換えられたりしていました。都合の悪い情報は隠し、できるだけ文書もなかったことにしようという姿勢が見えます。

【ガイドライン見直しには課題も】

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一連の問題を受けて、政府の公文書管理のガイドラインが4月から見直されました。全体として手続きを厳格化しています。一方で複数の省庁や外部との打ち合わせの文書は「事前に相手とできるだけ確認する」とされました。
いわばお互いにすりあわせてから、文書を残すことを求めています。しかしこれだと、省庁で対立する部分、さらには一方の当事者に都合の悪い部分は、どうなるでしょうか。専門家からは、合意した部分や、結論だけしか書かず、議論の内容が残されなくなるおそれも指摘されています。
もともと、公文書は、政府や行政の運営を国民が知るために、意思決定の過程を記録としてとどめるものです。できるだけ文書を作り、大切に残すことが、本来の理念です。

【公文書管理の先駆けや各地の取り組みは】
こうした公文書の管理は、実は、国よりも前に、一部の自治体が先駆けとなって、独自に始まっていました。また、今も先進的な取り組みをしているところがあります。私は今回、各地の公文書館を訪ねてきました。共通しているのは、公文書を大切にする姿勢でした。

【山口県文書館:ゴミ捨て場から救い出す】

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戦後最初と言われる公文書館は昭和34年。山口県が作りました。
ここは歴史文書の収集だけでなく、最初から行政文書も管理、保管することを目的としていました。公文書管理法ができる実に50年前のことです。
当時、館長や職員はアメリカの公文書館の手引きを自分たちで翻訳し、行政文書の大切さに気づいて、保管するようになったということです。
ところが当時は、行政が文書を残すという意識も仕組みもありません。各課は年末になると大量の文書を捨てていました。そこで、公文書担当の職員は、県庁のゴミ捨て場で、各課が捨てた文書や資料から貴重なものを、焼却される前に救い出していました。日本の公文書管理は、こうした職員の努力から始まったのです。
また、各課や市町村の職員に保管を呼びかける講習会を長年続け、公文書の大切さを繰り返し説明してきました。
現在、保管されている行政文書はおよそ7万9000冊に上ります。ゴミ捨て場を回って集めた昭和30年代の資料も、いまでは重要な記録になっています。

【久喜市公文書館:1年後は現用文書も公文書館に】

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埼玉県久喜市の公文書館は市役所の隣に作られました。全国的に見ても、市区町村で公文書館を持っているのはわずかです。
久喜市は戦後の合併の時期に多くの資料が捨てられた教訓から、平成5年に、ここで文書全体を管理する仕組みを整備しました。
最大の特徴は、現用文書、つまりまだ業務で使っている段階の文書も、1年がすぎると、事業が継続しているものなど一部を除き、担当課から公文書館に移すというものです。
各課の職員は、必要があるときには、自分の作った文書でも公文書館に「借り」に来ます。書類は取り出しやすいようになっていて、持ち出すときには「借用書」も書きます。
公文書の担当職員は1年が過ぎた文書を移すだけでなく、一覧表の作成も、各課と一緒に行います。保存期間がすぎた文書もすぐには捨てず、一部はさらに数年保存してから、廃棄するか残すかを判断します。
担当課にまかせず、文書の作成から保存・廃棄までの「ライフサイクル」に、公文書の担当職員が積極的に関わる仕組みです。ただ、文書の作成を制限するような規定はありません。
地方の取り組みをそのまま国が取り入れることはできないかもしれませんが、第三者が積極的に管理に関わる仕組みには、学ぶべき点も多いと思います。

【公文書は政府や行政の『映し鏡』でもある】

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安倍総理大臣は、公文書管理法の改正を含めて、管理のあり方を見直す考えを示しています。決裁文書の電子管理の導入など、電子データの扱いも今後の議論となるでしょう。
さらに、手続きの一層の厳格化や、法律に罰則を設けるべきだという意見もあります。
しかし、そもそも公文書管理の仕組みは、国民が政府や行政を信頼しているという前提で作られていました。それを信頼できないからと規則や罰則で縛れば縛るほど、萎縮して文書を作らなくなるおそれがあります。それは、さらに国民の信頼を失うことにも、なりかねません。
政府や行政の活動に問題があれば、対応を記した文書の内容にも問題のある部分は残ります。その結果、「できればひどい文書を公開したくない」と考えるようになるでしょう。つまり、意思決定の過程を残す公文書とは、実は政府や行政を映す「鏡」でもあるはずです。

【まず不信の払拭を】
今回、私は各地の担当者に、公文書の改ざんなど一連の問題について意見を聞いてみました。共通していたのは「考えられない」「ありえない」という言葉でした。
その「考えられない」「ありえない」ことを行うに至ったのはなぜか。どこに問題があり、どういう力が働いて改ざんしたのか。そこを解き明かさない限り、規則や罰則だけを増やしても、国民の不信は解消されないでしょう。
一連の問題は、単なる文書の話ではありません。政府や行政と国民の信頼関係に関わります。いま政府に求められるのは、手続きの厳格化の前に、まず原因を全力で解明し、国民の不信を取り除くことではないでしょうか。

(清永  聡 解説委員)

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