NHK 解説委員室

これまでの解説記事

「財政健全化 新たな目標の課題」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

新年度をむかえまだ日が浅いですが、来年度以降の予算編成にむけた議論が早くも本格化しています。
来年10月に予定される消費税の増税分の使い途を変更したことで、当初の財政健全化目標を断念せざるを得なくなった政府は、今年6月までにあらたな目標を策定することにしています。
きょうは国と地方で1000兆円をこえる財政赤字をかかえる状況を改善するための、目標づくりのあり方について考えていきたいと思います。

J180411_00mado.jpg

解説のポイントは三つです。

1)    財政の現状と目標の意義 2)想定以上の財政悪化の背景 そして3)健全化目標はどうあるべきか
です。まずは日本の財政の現状についてみてみます。こちらのグラフをご覧ください。

J180411_01_0.jpg

国の歳出と税収の推移です。歳出が税収を大幅に上回る状況がもう何十年も続いています。足りない分は国債を発行して、つまり借金をして補っています。その借金の総額は、今年度末には883兆円に達するみとおしです。あまりに巨額でイメージもわきにくいと思いますが、これは国民一人あたりにすると、赤ちゃんからお年寄りまで含めて、およそ700万円にものぼる計算になります。

J180411_01_1.jpg

このグラフ、形が似ていることからよくワニの口にたとえられます。今後高齢化にともなって歳出はさらに増える勢いですから、放っておけばワニの口はさら広がってしまいます。

J180411_01_2.jpg

この異常な状況を改善する、つまり財政を健全化するためには、まず経済を成長させたり、税率を引き上げたりして税収を増やす一方、歳出の伸びを抑えることが必要です。ワニの口を下から持ち上げ、上から押さえつけて閉じさせるのです。

政府はそれを実現するために、「その年の政策の実施に使う支出は、その年の収入でまかなう」ことを目標に掲げてきました。詳しくみてみます。

J180411_02_1.jpg

たとえば今年度の予算では、歳出のうち、過去の借金の元本の支払いや利払いをのぞいた部分、つまり政策の実施に必要な支出はおよそ74兆円。これに対し、歳入のうち借金以外の収入、つまり税収などは、およそ64兆円です。この収入から支出をひいた数字を、基礎的財政収支といいます。今年度の基礎的財政収支は、64兆マイナス74兆で、10兆円の赤字となります。この赤字の部分は、追加的な借金で補います。今年度の場合ですとこの赤字分を埋めるために10兆円の借金をすることになります。毎年これだけの借金を重ねていけば、借金の総額がどんどん膨らんでいくことになります。

J180411_02_2.jpg

逆にこの数字がゼロ、つまり収支が均衡すれば、過去の借金を減らせないまでも、せめて増やさないでおくことができるのです。
政府は当初この基礎的財政収支を2020年度までに少しでも黒字にする目標を掲げていました。しかし来年10月に予定される消費税率の引き上げによって税収が増える分の使い途を変更したため、目標達成の断念に追い込まれ、新たな目標の策定を迫られています。

もともと安倍政権は、経済成長によって企業の法人税収を増やし、さらに消費税率を引き上げて歳入を拡大する。その一方で歳出を抑えることで財政の均衡をはかる戦略を打ち出していました。しかし実際に、アベノミクスによる成長には限界があり税収の伸びは鈍化しています。その一方で、消費税率の引き上げは二度にわたって延期されました。加えて景気対策ということで補正予算を繰り返したことで歳出も膨らみました。結局 当初の戦略はうまくゆかず、待っていたのはさらなる財政の悪化でした。具体的に見てみます。

J180411_03.jpg

政府は3年前、国と地方を合わせた基礎的財政収支の赤字が2018年度の時点で、GDP=国内総生産の1%、5兆6000億円程度に縮小する見通しを立てていました。しかし実際には、その3倍近い16兆4000億円程度に達する見通しです。
この見通しと実際の10兆円を超える差はどうして生まれたのでしょうか。その要因を分析すると、まず消費税の引き上げ延期によるものが4兆1000億円程度。補正予算を編成したことで歳出が膨らんだ分が2兆5000億円程度、そして経済が想定通りに成長せず、税収が思ったように伸びなかったことによるものが4兆3000億円程度にのぼっています。

J180411_04.jpg

次に、この要因分析も踏まえて、財政健全化の目標づくりをどう進めていくべきか考えていきたいと思います。まず補正予算による歳出拡大についてです。
安倍総理大臣は先日の経済財政諮問会議で、新たな財政健全化計画には、「黒字化の目標と毎年度の予算編成を結び付ける枠組みを検討する」と述べ、社会保障費の伸びなどを抑えるための目安を明記する考えを示しました。実は今年度予算までの3年間の予算編成でも、社会保障費では、高齢者の数が増えることに伴う医療費や年金などの増加分=いわゆる自然増を一定程度抑え込む目安をもうけたことで、歳出の伸びを抑えることができました。安倍総理大臣の発言はこうした取り組みを今後も続けていく方針を示したものです。
しかし当初予算を抑え込んでも、補正予算が野放図に編成されては、当初予算段階でのせっかくの歳出削減の努力も水の泡となります。今後は補正予算についても、歳出規模を抑え込むための歯止めになるような、なんらかの目安を設定する必要があるのではないでしょうか。

J180411_05_1.jpg

次に、目標を立てる際の前提となる成長見通しについて考えたいと思います。
3年前政府が税収の見込みを計算するときに前提となった今年度の成長率は、名目で3.9% 実質で2.6%でした。当時、エコノミストからは「現実からかけはなれた数字だ」と指摘されていました。実際に現時点での見通しは、名目で2%台、実質で1%台と、いずれも3年前の想定を大きく下回ることになりました。それが、現実が目標からかけ離れた大きな要因となったのです。

基礎的財政収支の均衡は、早い時期に達成するのに越したことはないのですが、正確な見通しにもとづかず、実現性の低い目標をたてても、国民の期待を裏切り、不信感が残るだけです。

そこで参考にしたい外国の例があります。

J180411_06.jpg

イギリスでは予算編成を行う日本の財務省にあたる省庁とは別に、財政責任庁という国家機関があります。経済分析にたけたエコノミストが担い手となって、各省庁から独立する形で経済の見通しを作成し、政府はこれに基づいて財政健全化計画を立てます。さらに、この機関は年に一度、①見通しと実際の経済状況がどれだけかい離しているかや、②財政健全化目標の達成度をチェックしてその要因を分析します。政府も民間のエコノミストもその正確性や客観性に高い信頼をおいているといいます。日本でも、次の財政再建化目標をつくる際には、より現実的な前提のもとにおこなうよう注文したいと思います。

最後に、次の財政健全化目標には来年10月の消費税率引き上げが織り込まれるでしょう。増税にせよ歳出削減にせよ、国民に痛みを求めることになります。しかし財務省の決裁文書や自衛隊の日報問題などで、国民の不信感が広がる中、痛みを伴う政策にどれだけ理解が得られるでしょうか。
政府は、財政健全化の取り組みを進めるうえでも、信頼の回復に努めることが求められています。

(神子田  章博  解説委員)

キーワード

関連記事