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「決裁文書書き換え 問われる行政と政治の責任」(時論公論)

太田 真嗣  解説委員
清永 聡  解説委員

(太田解説委員)
森友学園への国有地売却に関する財務省の決裁文書が書き換えられた問題は、政府の公文書の信頼性を大きく傷付けただけでなく、この国の議会制民主主義の根幹を揺るがしかねない、極めて深刻な問題と言わざるを得ません。
いま、何が問われているのか。この問題の波紋、そして、課題について、公文書管理を取材している清永解説委員とお伝えします。

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(太田委員)
今回の決裁文書の書き換えとは、どういったものですか?

(清永解説委員)
国会の答弁との「整合性」を取るために、書き換えや削除が行われたというものです。

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国有地の売却について、当時理財局長だった佐川前国税庁長官の答弁は「価格についてこちらから提示したこともないし、先方から希望があったこともない」というものでした。書き換え前の文書には「学園からの要請や、価格の協議、合意」という記述がありましたが、書き換え後には、これが「申し出」に変わっています。これも答弁と「つじつま」を合わせるためだったとみられます。

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また、半分以上が削除された文書もあります。この文書は「国会においては日本会議国会議員懇談会」が設立され、「特別顧問として麻生財務大臣、副会長に安倍総理大臣」といった名前が書かれていました。さらに複数の政治家の名前や安倍総理大臣の妻の昭恵氏が「講演・視察」と書かれていますが、これもすべて削られていました。

(太田委員)
公務文書の書き換えは、どういう罪に問われる可能性があるのですか?

(清永委員)
専門家によると「虚偽公文書作成」や「公文書変造」にあたるという指摘や、国会議員に対する「偽計業務妨害」にあたるという声もあります。ポイントの1つとして『文書をうその内容に変えた』とまで判断できるかどうかだとしていますが、別の専門家は「文書の一部が項目ごと削除されており悪質だ」と指摘します。
大阪地検特捜部は決裁文書が書き換えられた経緯についても、確認を進めているものとみられ、文書の書き換えが罪にあたるかどうかを慎重に判断するとみられます。また、今後は佐川氏から任意で事情を聞くことも検討するとみられます。

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(太田委員)
一方、政治はどう対応するのか。安倍総理大臣は、「行政全体の信頼を揺るがしかねない事態であり、責任を痛感している」とした上で、全容解明に向け、麻生副総理兼財務大臣に調査の責任を果たしてもたいたいという考えを示しています。

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この問題をめぐって、安倍総理は、これまで国会での追及に対し、「誠意を持って丁寧に説明する」と強調してきました。しかし、そうした答弁の裏付けとして国会に提出した文書が、実は、政府の答弁に合うようにしたものだったという事実は極めて重く、答弁の信憑性、政府の姿勢そのものが厳しく問われるのは当然です。

こうした中、野党側は、書き換えの責任者とされる、佐川氏らの証人喚問を強く求めています。また、麻生大臣や安倍総理の政治責任も追及していく方針で、野党幹部は、「背景にあるのは政治の私物化だ。これを許せば、政治は、ますます歪んでしまう」と指摘しています。

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(清永委員)
今回は単に政府内の問題ではなく、国会全体の問題として全容解明に取り組む必要があると思いますが、与党側は、どう対応しようとしているのですか?

(太田委員)
今回の問題については、自民党内からも、「国会の権威に関わる問題だ」「国会で真相を究明し、政府や自民党への信頼を取り戻す必要がある」といった意見が出ています。また、野党側が求めている佐川氏の証人喚問についても、与党内から、「今後の議論をみて判断すべきだ」と、含みをもたす声も出始めました。

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今回の問題をめぐっては、誰が書き換えを指示したのか、などに加え、なぜ、答弁の『修正』などでなく、リスクが高い、公文書の『書き換え』を選んだのか、あくまで理財局だけの判断だったのか、など、依然不明な点も多く、今後、国会での議論が注目されます。

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また、自民党の二階幹事長は、「今のところ、麻生大臣の進退問題に及ぶものではない」としていますが、党内からは、「今後の世論の動向によっては、大臣の責任問題が浮上するのは避けられない」という見方も出ています。

(清永委員)
一方で、国民にとっては今回の一連の問題、公文書の「公開」と「管理」という制度を根本から壊すものです。日本で情報公開制度を求める声が強まったのは、70年代。ロッキード事件のころからだと言われています。オンブズマンなどが全国で情報公開を求める裁判や運動を続け、薬害エイズ事件で文書ファイルが問題となって、ようやく2001年に「情報公開法」が、11年に「公文書管理法」が施行されました。
公文書をめぐる「公開」と「管理」という2つの法律は、これだけ長い時間と関係者の努力で、ようやく作られ、私たちは行政の動きを文書で知ることができるようになりました。

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ところが、去年2月、国会で財務省は、森友学園との交渉記録を繰り返し「廃棄した」と説明し、市民団体の情報公開請求にも応じませんでした。ところがその後、昨年11月から今年2月にかけて会計検査院などに合計25通の文書が出されました。さらに今回は文書の書き換えも判明しました。
公文書の制度は、国民が行政を信頼していることを前提に成り立っています。国民が、情報公開で文書が保存されてないと言われて「本当はあるのに隠しているのでは」と疑ったり、文書があっても「書き換えたのではないか」と管理や公開に不信を抱いたりするようになれば、長い時間をかけて築き上げた制度は、根底から崩れてしまいます。今回の問題の深刻さはここにあると思います。

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(太田委員)
国会には、憲法で、国政調査権が付与されています。それに基づき、国会法では、政府に対し、国会への報告や記録の提出が義務付けられていますが、証人喚問における偽証罪のような、虚偽の報告などに関する罰則は設けられていません。そもそも、行政が立法府に対し、意図的に誤った報告をするようでは、議会制民主主義は成り立たない。だから、「そのような想定はしていない」ということでしょう。

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(清永委員)
国民に対する公文書の制度も、行政が書き換えるという事態をそもそも想定していません。
多くの公文書は最終的には重要なものが「歴史文書」となって国立公文書館に納められ、誰でも見ることができるようになります。これを自分の都合が良いように書き換えられてしまうと、将来の国民が歴史を正しく検証することもできなくなります。それだけに今回の問題を重く受け止め、再発防止を急ぐ必要があります。

(太田委員)
今回の問題は、政府に対する国民の信頼、そして、国会の権威を大きく傷付けました。
仮に、書き換えが『何か』を守るためだったとしても、代償として失われたものは、あまりにも大きく、その責任は厳しく問われなければなりません。
憲法は、「内閣は、国会に対し、連帯して責任を負う」とし、国会には、その内閣を監視する役割を期待しています。政府、そして、国会は、その与えられた責任と役割をしっかり果たすことができるか。いま、この国の『政治の根本』が厳しく問われています。

(太田 真嗣 解説委員 / 清永 聡 解説委員)

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