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「新幹線 台車亀裂の原因と求められる安全対策」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

あわや大惨事になりかねなかった台車の亀裂、その原因は製造段階にあったことが分かりました。2017年12月、新幹線の台車で亀裂が見つかりました。亀裂がある状態で、およそ1000人の乗客を乗せ、最高時速300キロで走行していただけに衝撃が走りました。
この亀裂の原因について、JR西日本は、2018年2月28日、記者会見しました。台車を製造する際、金属の一部を削るという設計にない加工をしたため、強度が不足し、亀裂が発生していたということです。
台車の亀裂の原因と新幹線の安全をどう確保するのか考えます。

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解説のポイントです。

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▽明らかにされた亀裂の原因とは、どういったものだったのか、
▽営業運転に使われている他の車両の台車は安全といえるのか、
▽再発防止に向けて、何が求められるか、
こうしたことを考えます。

亀裂が見つかったのは、2017年12月、博多発・東京行きの「のぞみ34号」です。

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異音や異臭などが繰り返し確認され、そうした異常は新大阪までで合計30件に上りました。名古屋で運行を止めて調べたところ、台車に亀裂が見つかりました。

亀裂は、車体の重さを車輪に伝える重要な台車の骨組み部分にありました。

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縦17センチのうち、残りは上側3センチで、破断する一歩手前まで来ていました。仮にこのまま運転を続けていれば、高速走行中の脱線という危険もありました。

この亀裂が起きた原因について、JR西日本が記者会見を開きしました。
上の図の点線部分の断面が下の図の左の部分です。

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周囲はカタカナの「ロ」の字の鋼材で囲まれていますが、内部にも縦に2本の鋼材が入っています。この下側の部分が、製造段階で強度不足になったということです。
具体的には、下側の鋼材の一部を削っていたということです。このため、設計では厚さが7ミリ必要ですが、最も薄いところで4.7ミリしかなく、設計より強度が不足していました。
下の部分から始まった亀裂が、上側に進展して行ったということです。
台車は川崎重工業が製造したものです。削った理由について川崎重工業は、「下に取り付ける台座と合わせるために、下側の表面を一部削った」と説明しています。この下側については設計上、0.5ミリまで削ることは認められています。しかし、担当者がこれを拡大解釈して、設計で認められていない程度まで削っていたということで、品質管理体制に問題があったとしてます。
設計以上に鋼材を削れば強度が落ち、同時に亀裂が生じやすくなることは明らかです。
川崎重工業は、JR西日本に対して「本来行ってはいけない作業だ」と話しているということですが、そうしたことが、なぜ行われ、なぜ防げなかったのか。人の命を乗せる高速鉄道の台車だということをどう考えているのか、徹底的な検証が求められます。

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こうした強度不足があるとなると確認しなければならないのが、営業運転に使われている他の車両の台車の安全性に問題はないのかという点です。

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設計より強度が不足している台車は、JR西日本には他に100台あるということです。今後、1年以内に順次切り替え、交換していくということで、すでに交換したものもあるということです。
JR西日本によりますと、今回の亀裂は発生してから数か月かけて進展したものと見られるということです。残りについては走行に問題ないことを確認した上で、交換までの間は、超音波を使って内部の状態を観察するなどの措置をとります。
あわせて2日に一度、重点的に目視で点検を行うなどすることで、安全を確保できると説明しています。
また、JR東海にも同じように川崎重工業が製造した設計より強度が不足している台車が46台あるということで、同様の対策をとるとしています。

しかし一方で、利用者の中には「どんなに安全を確保したといわれても、設計上の強度を満たさない台車を使った列車に乗るのは心配だ」という想いの人もいると思います。今回の重大インシデントが、新幹線の安全を大きく揺るがしたことを考えれば、そうした心情も、理解できます。新幹線は日本の大動脈であるからこそ、JR西日本とJR東海には、安全安心を求める、そうした声にどう応えるのか。引き続き、向きあわなければならないと思います。

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再発防止に向けてどうすればいいのか。まず、今回の問題をなぜ防げなかったのか見てみます。
台車の亀裂に対しては、「設計」から「製造」「検査」そして走行しながらの「運用」の各段階で、何重にも対策が採られてきました。

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設計の段階で、亀裂が生じるような力がかからないようにすること。製造時に亀裂の発端となる溶接の不良部分をなくし、それを確認すること。こうしたことで亀裂が出来ないようにします。
さらに、仮に亀裂が出来たとしても、定期検査で発見する。定期検査で見つけられなくても、走行中に異常を感じたら、乗務員など担当者の適切な判断で列車を止めるという運用。それぞれの段階の対策で、大きな亀裂になるといった事態は起こらないと考えられてきました。

しかし、対策は機能しませんでした。

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製造段階では、不良部分をなくすどころか、強度不足を作り出してしまいました。亀裂を定期検査で発見できず、そして最後の最後の運用の段階でも、JR西日本の担当者はいち早く列車を止めることはしませんでした。
これらが、重大インシデントにつながったのです。

このうち、定期検査について見てみます。

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JR西日本では、少なくとも1年半あるいは60万キロ走行ごとに、亀裂について目視で詳しく調べることにしていました。最も近いところでは、2017年2月に検査しましたが、異常はなかったということです。このとき、亀裂があったかどうかはわからないとしています。
ただ、検査で発見されるべき亀裂が、みつけられなかったことに変わりはありません。
この部分は、目視の点検では見えにくい部分です。こうした部分に亀裂の発端になる溶接があることについて、専門家からは「設計の配慮が不十分だったのではないか」という指摘も出ています。
つまり、設計についても少なからず課題があるのです。

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今回の問題は、あらゆる段階で、これまでの対策では十分ではないという問題を突きつけています。

では、再発を防ぐために何が求められるのでしょうか。

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まずは、強度不足などが起きないよう、製造の管理や出荷・納品の際の検査の徹底などが必要です。その上で、定期検査の抜本的な見直しです。
新幹線の台車に関しては、亀裂が起きないことを前提に定期検査のマニュアルが作られています。しかし、新幹線の台車であっても、亀裂が起きることが起こりうるわけで、検査間隔や方法などを慎重に検討し直すことが必要です。
また運用面での対策については、JR西日本が専門家による有識者会議で検証を進めています。

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それぞれの段階での対策が、これまでより一段、二段、高いレベルで実現させるようにしなければなりません。

過去に、事故やトラブルがなかったことは、決して将来の事故やトラブルがないことを保証するものではありません。
設計どおりに作ることはもちろんですが、想定していなかったような事態が起きても、乗客の安全を守ることができるようにしなければなりません。
設計・製造から検査・運用に至るまで、新幹線の安全性を確保するための対策を総合的に考え、一から立て直すこと。そのことが今、求められています。

(中村 幸司 解説委員)

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