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「『入院より在宅』 迫る 2025年問題」(時論公論)

竹田 忠  解説委員

今年4月から、医療や介護の公定価格である、
診療報酬と介護報酬が大きく変わります。
社会保障費が膨張して、医療や介護が危機を迎える
いわゆる2025年問題を乗り切るためです。
目指すのは、「病院から、在宅へ」の転換。
いわば「入院より在宅」という考え方です。

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[ 何が焦点か ]
では、その在宅重視、どうやって進めるのか?
キーワードは三つ。

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①    カギをにぎる「かかりつけ医」
②    最期は「終の棲家」で
③    そして、問われるフリーアクセス

[ 迫る2025年問題 ]

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まず、そもそも、なぜ、政府が、“病院から在宅へ”を後押しするのか?
第一の理由は、何と言っても2025年問題です。
2025年、つまり7年後には、団塊の世代が、全員75歳以上となります。
その結果、日本人の5人に一人が75歳以上という、超高齢社会となります。
では、75歳以上になるとどうなるのか?
医療や介護の必要性が急激に高まります。

たとえば、一人当たりの年間の医療費でみますと、
64歳までは平均で18万円かかっていますが、
75歳以上になると、およそ90万7000円、
およそ5倍に膨れ上がります。

介護費も、65歳から74歳までは、年間で5万5000円なのに対し、
75歳以上は53万20000円。
およそ9倍です。

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この結果、年金なども含めた社会保障給付費全体でみますと、
2015年度は、およそ118兆円だったのに対し、
2025年度は148兆円、およそ1,3倍に膨れ上がると推計されています。
入院中心のままでは、費用がかさみ、
結果的に、必要な医療や介護が受けられない人が
増えるおそれがある、というわけです。

そして、この2025年問題に加えて、
さらに、もう一つ、大きな理由があります。
それは、必要とされる医療のありかたが、
そもそも、大きく変わるということです。
どういうことかといいますと、
高齢化が進むと、実は、入院や手術を必要とする患者は減ります。
そのかわり、生活習慣病などの慢性疾患や、
複数の持病をかかえるお年よりが増えます。
こうなると、治せない病気とうまくつきあいながら、
自宅や介護施設など、ふだん住み慣れた場所で
いつものように暮らし続ける、ということが大切になってきます。
それが、「病院から在宅へ」という意味です。

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[ カギをにぎる かかりつけ医 ]
その、在宅重視の医療を実現するために、
かぎを握るのが、かかりつけ医の存在です。
ここでいう「かかりつけ医」とは、
単に、よく行く身近なお医者さん、という意味ではありません。

診療報酬でいう、かかりつけ医とは、
まず、患者が、医師に対し、同意書を提出した上で、
かかりつけ医療を受けるための一定の料金を毎月払います。
これに対し、かかりつけ医は、普段から診療だけでなく、
健康相談、食生活の指導、大病院の紹介などなど、
その人の健康を支える、様々なことを行います。

厚生労働省は、4年前に、
このかかりつけ医の仕組みを作りました。
しかし、実は、あまり増えていません。
この仕組みを利用している医療機関は、
診療所全体の5%程度の、およそ5500箇所にとどまっています。
なぜ増えないのでしょうか?
それは、このかかりつけ医の重要な条件の一つ、
「24時間対応」が大きなハードルになっているためです。

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かかりつけ医は、休日や深夜でも、
不安をかかえた患者さんに、電話でこたえたり、必要な時には往診も行います。
医師が一人だけの場合は、さぞかし、大変なときもあると思います。
このため、今回の改定では、この条件を緩めて、
24時間対応は、他の医療機関との連携で行ってもよい、ということにします。
いわばチーム医療で乗り切ってほしいというわけです。
さらに、かかりつけ医の初診料を、今より800円増やして、
かかりつけ医を支えます。

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問題は、こうしたお金で、どこまで、かかりつけ医が増えるのか?
また、増えたとして、本当に患者の不安に親身になってこたえてくれるのか、
患者としては、そこが一番気がかりなところです。
今後は、かかりつけ医の仕事をどう評価するか、ということも
課題になってくると思います。

[ 最期は 終の棲家で ]
今回の改定で、もう一つの焦点は、みとりへの対応です。

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年間の死亡者数は今後さらに増え続け、
ピークの2040年には、
2015年より36万人増えると見られています。
今は8割の人が病院でなくなっていますが、
このままでは病院のベッドが足りなくなるおそれがあります。

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いわゆる「多死社会」、といわれる問題です。
どう対応するのか?
これは一人ひとりの尊厳がかかる重要な問題です。

このため、今回の診療報酬と介護報酬の同時改定では、
特別養護老人ホームで、みとりを促す仕組みを設けます。

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というのも、特養には、
通常は、非常勤の勤務医しかいません。
このため、夜間に入所者の体調が急変した場合、
結局、救急搬送で病院に送られるケースが多いのが実情です。
せっかく、このホームを終の棲家としたい、と願っていても、
最期は見知らぬ病院でその時を迎えることになる、という実情があるわけです。
このため、今回の改定では、
外部の医療機関の医師が、求めに応じて特養に出向いてみとった場合、
かけつけた医師と特養の双方に診療報酬が認められるようにします。
また、自宅で看取る場合には、
当然、かかりつけ医が、大きな役割を担うことになります。

[ 問われる フリーアクセス ]
このように、「病院から在宅へ」という考えを進めるためには
かかりつけ医が重要なカギを握るわけですが、
その、かかりつけ医を受診する人を増やすには、
実は、大きな論点が残っています。
それは、大病院との役割分担、
いわゆる、「フリーアクセス」の問題です。

ヨーロッパの多くの国、
たとえばイギリスやフランスでは、
患者はまず、地域のお医者さんにみてもらいます。
ここで、必要と認められれば、大病院にかかることができます。
大病院に通すかどうかを決める門番、“ゲートキーパー”などと呼ばれます。

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一方、日本では、大病院であろうと、開業医だろうと、
どこにかかるかは、患者が自由に選べます。
こちらは「フリーアクセス」と呼ばれます。
ちなみにこれほど病院を自由に選べる国は、世界でも珍しいといわれます。

しかし、その結果、どうなっているかといいますと、
本来、高度な治療を行うための大病院に、かぜなどの軽症の人たちが集中し、
現場の医師を疲弊させたり、
過剰診療の温床になっている、という批判もあがっています。

このため、かかりつけ医の紹介状なしに
いきなり大病院を受診した場合、
今でも、初診で5000円、再診で2500円を、
患者が負担する仕組みになっています。
今回の改定は、この対象となる病院をもっと増やします。
今より、およそ6割増やして、
全国の410の病院が、患者負担が必要な病院になります。
まず、かかりつけ医にみてもらい、
大病院にかかるのは、それから、という流れを強めることが狙いです。

日本の大きな特徴である「フリーアクセス」は基本的に維持しつつ、
一定の制限はがまんしてもらう。
ここは微妙な舵取りが必要になるところです。

[ まとめ ]
そもそもなぜ、大病院にいくんでしょうか?
それは、身近に、安心して頼れる医師がいないため、
というのも、よく聞く話しです。
そのためにも、まず、信頼できる「かかりつけ医」をどう増やしていくいのか?
国も、医療界も、もっと明確にその道筋を示してほしいと思います。

(竹田 忠 解説委員)
               






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