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「陸自ヘリ住宅墜落 衝撃と波紋」(時論公論)

増田 剛  解説委員

佐賀県神埼市で、陸上自衛隊の戦闘ヘリコプターが住宅に墜落した事故から、1週間が経ちました。
国民の命とくらしを守るべき自衛隊のヘリが、あろうことか、基地の外で墜落し、民家を全焼させ、地域の住民、しかも小学生の女の子にけがまでさせたという、近年、例を見ない深刻な事故。
政府・自衛隊のみならず、国民に大きな衝撃を与えています。
この事故が起きた原因と背景、影響について考えます。

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今月5日の夕方、陸上自衛隊のAH64D戦闘ヘリコプター1機が、佐賀県神埼市の住宅に墜落して炎上、乗っていた自衛隊員2人が死亡しました。事故当時、住宅にいた小学校5年生の女の子は、ぎりぎりのところで逃れましたが、ひざを打撲するなどのけがをしました。女の子の両親は、佐賀県の山口知事に、「娘はショックを受け、一生、背負っていかなければいけない」と話した上で、「娘は、大きな音に敏感になっており、怖いと言って恐怖心を持っています。なぜ、整備結果をみるための試験飛行で、小学校や幼稚園、住宅があるような場所を飛行したのか、自衛隊への不信感があります」というコメントを発表しました。

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現場の周囲は田園地帯ですが、墜落地点は住宅が密集しており、近くには、小学校や幼稚園もあります。
元々、自衛隊のパイロットは、飛行中、機体に異常を感じた場合、基地に引き返すか、安全な場所を探して緊急着陸を試みるよう、訓練されています。しかし、今回の墜落の瞬間をとらえたドライブレコーダーの映像をみますと、飛行中のヘリの動きが突然、鈍くなり、機首を下に向けるようにして、ほぼまっすぐ住宅に墜落しているのがわかります。住宅を避けようとする余裕もなく、墜落した可能性が大きいとみられます。
今回、墜落したAH64Dは、佐賀県吉野ヶ里町にある、陸上自衛隊目達原(めたばる)駐屯地の部隊に所属する機体でした。

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AH64Dは、アメリカのボーイング社が開発した、戦車などを相手とする高性能の戦闘ヘリで、通称「アパッチ・ロングボウ」。2005年度に日本に導入され、陸上自衛隊が13機を保有しています。

今回の事故を受けて、安倍総理は、衆議院予算委員会で、「国民の命と平和なくらしを守るべき自衛隊が、住民の安全を脅かし、多大な被害を生じさせたことは、誠に遺憾だ。自衛隊の最高指揮官として、心よりおわび申し上げる」と謝罪しました。そして、自衛隊が保有する全てのヘリについて、徹底的な整備・点検を実施するとともに、事故を起こしたAH64Dを、当面、飛行停止にし、徹底した原因究明を行うよう指示しました。

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小野寺防衛大臣も、週末、現地に入り、けがをした女の子と家族に、直接、謝罪し、「生活や住まいの再建など、誠心誠意、対応させていただく」と述べました。
また、佐賀県の山口知事と会談し、事故原因の究明と、被害にあった住民への補償に取り組む方針を伝えました。

では、これまでに判明している事故の経過をみていきます。
墜落したヘリは、先月18日から今月4日まで、50時間の飛行ごとに行われる定期整備を受けました。この際、4枚の回転翼を機体につなぎとめる、メインローターヘッドという部品を交換しました。この部品は、飛行時間が1750時間に達する頃、交換することになっていて、事故機は、12年前に配備されてから、今回が初めての交換でした。事故機は、5日、この整備後の試験飛行のために、4時36分に駐屯地を離陸、旋回しながら上昇した後、38分に管制官と交信し、南西に進路を取りましたが、43分に突然、急降下しました。

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この間、わずか7分間でした。
これまでの捜索では、墜落地点から数百メートル離れた場所で、メインローター・回転翼が落下しているのが見つかっています。
このため、飛行中にメインローターが脱落して上空に浮くことができず、墜落した可能性が高いとみられていますが、なぜ脱落したかは、わかっていません。ただ、このメインローターは、一部がヘッドと接合した状態で見つかりました。また、直前の整備で交換されたヘッドは、メーカーから購入した新品だったことがわかっています。
自衛隊は、ヘッドの強度に問題がなかったかどうか、納入した時の状況や整備の内容について詳しく調べています。
事故機のAH64Dは、日本に13機しかなく、メインローターヘッドの交換も、今回が3例目でした。装備のハイテク化が進む中、整備に対応できる人材の育成や適切な配置が行われていたのか、特定の整備士に過度の負担が集中するような体制になっていなかったか。この際、徹底した検証が必要でしょう。

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自衛隊機の墜落で、民間の住宅に被害が出たのは、今から半世紀前、1969年に、石川県の航空自衛隊小松基地に所属する戦闘機が、飛行中に雷に当たって金沢市の住宅地に墜落した事故があります。住民4人が死亡しました。ただ、民間人の被害は、しばらくなかったにせよ、自衛隊では、ここ数年、隊員が死亡する墜落事故が後を絶ちません。2015年と16年にそれぞれ1件、去年は3件もありました。今回の事故を含めれば、今年度は4件目という、異常事態になっています。これに対しては、直接の技術的要因だけでなく、北朝鮮や中国に対する警戒監視に追われる現場の疲弊を指摘する声もあります。背景に構造的な問題があるのかどうか、この際、徹底的に検証して、対策を講じる必要があります。
今回の事故は、防衛省にとっては、まさに「最悪のタイミング」でした。

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陸上自衛隊は来月、離島防衛の専門部隊「水陸機動団」を長崎県佐世保市の相浦駐屯地に発足させる予定です。海洋進出を強める中国を念頭に、南西諸島防衛を強化するための部隊です。防衛省は、この部隊の移動手段として、新型輸送機オスプレイを活用する方針で、佐世保市に近い佐賀空港の西側に、新たな駐屯地を整備し、ここにオスプレイ17機を配備する予定でした。
しかし、事故やトラブルが相次いでいるオスプレイに対しては、安全性への疑問がある上、有明海の漁業への影響を懸念する声もあって、地元との調整は難航していました。今回の事故で、地元の反発がいっそう強まるのは避けられないでしょう。
政府内では、「今回の事故で、佐賀へのオスプレイ配備計画は厳しくなった」という見方が広がっています。

言うまでもなく、自衛隊の活動は、住民の理解と信頼がなければ、成り立ちません。どんなに高性能の装備を調達しても、どんなに立派な配備計画を作っても、それを運用する部隊への国民の信頼がなければ、何もできないということを、政府や自衛隊の幹部は、肝に銘じるべきでしょう。
2015年に内閣府が行った世論調査では、「自衛隊に対して良い印象を持っている」人の数が9割を超えました。東日本大震災などで自衛隊員が行ってきた献身的な救助活動は、自衛隊に対する国民の信頼の礎になってきたと言って良いでしょう。
その国民の安全を脅かした今回の事故は、自衛隊への信頼をゆるがしかねない、極めて深刻な事態です。
政府には、事故原因を徹底的に究明するとともに、実効性のある安全対策と再発防止策を策定し、公表する責任があります。
それができなければ、国民の自衛隊への信頼を再び確かなものにすることは、厳しくなると言わざるを得ません。

(増田 剛 解説委員)

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