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「沖縄・名護市長に渡具知氏、辺野古移設の行方は」(時論公論)

西川 龍一  解説委員
安達 宜正  解説委員

アメリカ軍普天間基地の移設先とされる辺野古を抱える沖縄県名護市の市長選挙が行われ、移設を推進する政府与党の全面的な支援を受けた新人が当選しました。選挙結果は辺野古移設にどんな影響を及ぼすのか、政治担当の安達解説委員とともにお伝えします。
 
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まず、名護市長選挙の開票結果は、ご覧の通りです。
▽渡具知武豊、無所属・新、当選2万389票
▽稲嶺進、無所属・現、1万6931票
安達さん、この結果をどう見ますか?

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【安達】
渡具知、稲嶺の戦いというよりも、安倍政権与党対沖縄の翁長知事と国政野党。双方総力戦の結果、政権与党の側の組織力が上回った。稲嶺陣営とすれば、「力負け」したという印象です。私も告示前に取材に入りましたが、人口6万2千人あまりの自治体の選挙に与野党の党首や党首クラスが次々に応援に入ったこと、投票率は76.92%で前回並みでしたが、期日前投票が有権者全体の44%にも上りました。組織の働きかけだけではないでしょうが、組織対組織の戦いだったことを物語っていると思います。西川さんも取材に行かれた印象はどうでしたか。
 
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【西川】
確かに組織の力は感じました。選挙戦中日の先月31日には、自民党の小泉進次郎筆頭副幹事長が入り、市内の3か所で演説しました。その際、陣営側は、演説を聴いて納得したらその足で期日前投票に行くよう盛んに呼びかけていました。こうしたことも期日前投票をした人が大幅に増えたことの要因との見方もあります。
政府は、名護市辺野古沖でアメリカ軍普天間基地の移設工事を進めています。これに反対する翁長知事の全面的な支援を受けた稲嶺さんは、移設反対を前面に出し、「将来にわたって危険を及ぼすことになり、次の世代のためにも阻止する」などと訴えました。
一方、政府・与党などの支援を受ける渡具知さんは、移設の是非には直接触れないまま、「今の市政は移設の問題にこだわりすぎて市民生活を置き去りにしている」として、政府とのパイプを作ることで経済活性化策を進めることを前面に打ち出す選挙戦でした。
結局、渡具知さん側の訴えが有権者により響いた形です。
 
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【安達】
何が勝敗を分けたかと言えば、1つは公明党の動向です。公明党は前回、自主投票でしたが、今回は渡具知さんを推薦しました。去年の衆議院選挙比例代表の得票を見ると、公明党。名護市では5789票。前回選挙で稲嶺さんと対立候補との差が4200票ですので、これが決定打とはいえないまでも、結果に影響を与えたことは間違いありません。
もう1つは稲嶺陣営に取材すると、市民の「あきらめ感」との戦いという声がありました。
 
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これ以上、移設に反対しても、工事は止められないのではないか。それなら、国と協力して、経済を活性化したほうがいいではないか。その象徴だったのが、アメリカ軍基地再編交付金をめぐる議論です。

【西川】
アメリカ軍基地の負担の大きい自治体への防衛予算から交付金ですね。

【安達】
そうです。名護市も平成20年から3年間で18億円は交付されていましたが現在は交付されていません。一方で、政府は移設受け入れに前向きな辺野古周辺の3つの地区に対して、直接、補助金を出しています。平成29年度予算では1億円を上回る額が交付されました。異例の措置とも言われ、「アメ」と「ムチ」ではないかという批判もありますが、比較的、若い世代には市長が変われば、再編交付金の交付も得られ、地域振興につながるという期待があったことも確かです。
 
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【西川】
一方、最大の争点である辺野古移設問題について、渡具知さんは「国と県の裁判の行方を注視する」と繰り返し、移設の是非については最後まで態度を明らかにしませんでした。それだけに、今回の選挙で辺野古移設の是非そのものが問われたわけではないという意見もあります。渡具知さんも基地をめぐる複雑な民意に配慮して当面は慎重な対応を続けるものと見られます。安達さん、国の受け止め方はどうでしょう?

【安達】
選挙結果を受けて、菅官房長官は「心強い」と述べています。
これが政府の描く日程です。
 
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辺野古沖では現在、移設に向けた、護岸工事が進められている一方、沖縄県が工事差し止めの裁判を起こし、係争中です。判決もよりますが、政府はことし夏ごろから、埋め立て工事に入いる方針です。そして、2022年またはその後に普天間基地の返還、辺野古での運用を開始するとしています。今回の結果で弾みがついたことは間違いありません。一方で、翁長知事の側からすると、移設反対の最大のよりどころが、沖縄県民、名護市民の「民意」だったわけですから、厳しい局面にたたされたと言えるのではないでしょうか

【西川】
移設工事に関して言うと、稲嶺さんは、あらゆる市長の権限を駆使して移設を阻止するとしていました。特に、移設には避けて通れない移設予定地を流れる川の流路変更に同意しない構えでしたが、渡具知さんは再編交付金を受け取る方針を示しているだけに、同意すると見られ、大きなハードルが消えた形です。

【安達】
ただ、政府の側も確実な見通しがあるわけではありません。例えば、政府が当時の仲井真知事に約束した、普天間基地の運用停止。来年2019年2月としていましたが、辺野古の工事の遅れに加えて、アメリカ側との協議もどこまで進んでいるのか定かではありません。
そう見ていくと、焦点は11月にも行われる、知事選挙となります。政権与党は選挙結果を追い風にして、早急に知事候補の選定に入りたいとしています。一方で、稲嶺市長が破れれば、翁長知事が立候補を断念することもありうるのではないかという見方がありますが、どうでしょう。

【西川】
今回の選挙を前に、翁長知事自身が周囲に「名護市長選挙で負ければ、秋の知事選挙に出る大義がなくなる」と漏らしていたといいます。知事の周辺では、市長選挙で辺野古移設反対の民意を示し、場合によっては知事選と同時に辺野古移設の是非を問う県民投票を実施することも選択肢の1つとの意見もありました。しかし、知事自身の求心力の低下は否めませんので、戦略の見直しを余儀なくされる事になります。一方で、沖縄ではアメリカ軍の軍用機による事故やトラブルが頻発しているという問題があります。沖縄県議会は、これに対し全会一致で抗議決議を可決しましたが、国会では松本文明前内閣府副大臣が衆議院本会議で「それで何人死んだのか」とヤジを飛ばし、沖縄への無理解を如実に表す事態と批判を浴びました。

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【安達】
安倍政権は松本氏を直ちに更迭しました。選挙へ影響を懸念したのと同時に、移設の実現、日米同盟の円滑な運営には県民世論の動向を気にかけなければなりません。米軍関連の事件事故やトラブルが続けば、県民の反発が強まることは確かですので、日本政府もアメリカに対し、安全確保などを求めていくことになりますが、どこまで実効性のあるもととなるのか、そこが重要だと思います。

【西川】
今回現地で話を聞かせてくれた名護市内で飲食店を営む女性は、「基地が来るのはもちろん反対ですが、何より、市民同士が賛成、反対といがみ合うような状態はもうなんとかして欲しい」と話していました。新しく市長になる渡具知さん自身、「対立ではなく融和と協調の名護市の街づくりを」と述べています。
言葉通りに融和と協調を進めるとはどういうことなのか、今回の選挙結果は、真に沖縄に寄り添うことの意味を改めて問いかけているように思います。

(西川 龍一 解説委員 / 安達 宜正 解説委員)

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