NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「噴火1週間~草津白根・御嶽から何を学ぶ」(時論公論)

松本 浩司  解説委員

先週の草津白根山の噴火は、スキー場のすぐそばで突然噴火が起きて多くのスキーヤーが巻き込まれるというショッキングな災害でした。大勢の登山者が被災した4年前の御嶽山の噴火と状況がよく似ていて、登山者や火口近くにある観光施設での避難対策があらためて問われることになりました。御嶽山の災害のあと大きく見直された対策は生かされたのか、今回の災害から何を学ぶべきなのかを考えます。

j180130_00mado.jpg

j180130_01.jpg
解説のポイントは3つです。
▼町はスキー客をどう避難させたのか
▼御嶽山の災害のあと見直された対策は生かされたか
▼火山の避難対策を進めるために何が必要か

【スキー客をどう避難させたのか】

j180130_000.jpg

噴火はスキーヤーたちの目の前で何の前触れもなく始まりました。一番近い噴火口はスキー場のリフト乗り場からわずか100メートル。付近にはおよそ80人のスキー客がいて、近くにあるロープウェーの山頂駅に逃げ込みました。駅の職員5~6人がハンドマイクを持って屋外に出て駅舎に避難するよう誘導しました。

j180130_002.jpg

j180130_003.jpg

山頂駅にも噴石が降り注ぎ、屋根をつき破って室内に落下しました。駅にはヘルメットが100個備えられていて、職員たちは避難してきた人たちに着用させました。さらに、より安全な地下の資材庫に移動させ、救助を待ちました。

このあと、どう下山させるのか、自分で滑って降りてもらうことやヘリコプターを待つことも検討しましたが、スキー場のスノーモービルなどで輸送するのが一番早く、安全と判断。ピストン輸送をして噴火から8時間後の午後6時までに全員を下山させることができました。

j180130_001.jpg

スキー場は草津町が出資する第3セクターが運営していて、職員たちの的確な対応で被害を最小限にすることができました。草津町では過去の経験から火山防災に力を入れていて、それが生かされました。
草津白根山では昭和57年から58年にかけて活発な噴火が続きました。このとき専門家を交えた火山対策協議会が作られ、対策が積み重ねられてきました。

j180130_02_1.jpg
過去に噴火が起きたのは今回の火口から2キロ近く離れた白根山山頂の湯釜付近で、普段は車で近くまで行くことができて多くの観光客が訪れます。このため草津町や県は噴火に備え、噴石に耐えられるレストハウスやトンネル型の避難壕など14ヶ所、2600人を収容できる避難施設を設置しました。施設にはヘルメットなどを常備したほか、放送施設も整え、避難訓練も行っていました。

今回の噴火はまったく予想していない場所で起きましたが、町や第3セクターの担当者は「湯釜周辺を想定した準備や訓練が役に立った」と話しています。

【御嶽山後、対策は進んだのか】
2つめのポイントです。
登山者63人が犠牲になった4年前の御嶽山の噴火を受けて国は火山防災を大きく見直しました。対策はどこまで進んで、今回それが生かされたのでしょうか?

御嶽山後の新たな対策は、▼市町村に求められるものと▼民間を含む集客施設に求められるものの2種類があります。

まず市町村に対しては全国49の火山の周辺にある120市町村に登山者や観光客などの避難計画を作ることが義務付けられました。

j180130_04.jpg
「警報の伝達」や「立ち入り規制」など6項目について具体的な対策を立て、防災計画に明記することが求められています。どこまで進んだのでしょうか。6項目すべてを明記しているところは4分の1の30市町村にとどまっています。一方、ひとつも計画ができていない市町村も23ありました。草津町は御嶽山以前から5項目の計画があり、今回、それが生かされたと言えます。ただ避難壕に緊急に避難した観光客をさらに安全な場所まで2次避難させるルートや方法は決めていませんでした。

次に民間を含む集客施設に対しても、御嶽山後、対策が求められるようになりました。

j180130_05_2.jpg
まず市町村が噴火の被害が及ぶ恐れのあるところにある集客施設を「避難促進施設」に指定します。山小屋やロープウェーの駅、また火口に近くあるスキー場やレストハウス、みやげ物店、ホテル・旅館などが該当します。

j180130_05_6.jpg
指定された施設では周辺にいる登山者や観光客などを一時的に受け入れたり、避難者と宿泊客などをさらに安全な場所に2次避難させるための「避難マニュアル」を作り、訓練を行うことが義務付けられたのです。

しかし指定とマニュアルづくりはまだ進んでいません。市町村がどの範囲まで指定をするのかが難しいうえ、施設側の理解も必要だからです。

草津町の場合、被災したロープウェーの山頂駅をはじめレストハウス、山荘など山頂近くの施設は該当しますが、まだ「避難促進施設」に指定していませんでした。

今回の噴火では日頃の備えが役立って的確な対応ができましたが、シーズン最盛期にはこの日の30倍近いスキーヤーでスキー場は混雑します。
また今回、噴火直後に町の防災担当者と地元に住む火山学者が山頂駅に駆けつけて対応を判断したのですが、二人が山頂まで行けたことも幸運だったと言えます。この防災担当者は「どのような状況でも適切に対応ができるように、ほかの施設も含めて指定とマニュアルづくりを急ぎたい」と話しています。

【火山の避難対策を進めるために】
3つめのポイントです。
御嶽山と草津白根山の災害を受けて、避難対策を進めるために何が必要でしょうか。進んでいる地域の取組みは参考になります。

j180130_07.jpg
たとえば3年前に小規模な噴火が起きた箱根の大涌谷の火口周辺では、ロープウェーの駅やみやげもの店などが一体で避難マニュアルを作りました。また旅館ホテルの組合が旅館ホテル用の雛形を作り、一軒一軒をまわってマニュアル作成を呼びかけています。

避難方法を検討するなかで一番難しいのが緊急の避難場所から安全な場所までどうやって「2次避難」させるかです。ここに知恵を絞っている町があります。

北海道東部の火山、アトサヌプリのある弟子屈町では去年11月、自衛隊が参加して避難訓練が行われました。万一噴火した場合、まず観光客を近くにあるレストハウスの地下室に避難させます。

j180130_005.jpg

j180130_004.jpg

そこからの2次避難について弟子屈町は陸上自衛隊に協力してもらうことになっていて、この日の訓練では装甲車が駆けつけて観光客を乗せ避難させました。町では噴火が激しく自衛隊が来ることができないケースも想定し、長い期間、地下室に留まる備えをする一方、小康状態になったタイミングを見計らって自力で脱出するルートも決めています。

j180130_08.jpg
火山の周辺の市町村は避難計画の整備や避難促進施設の指定を急ぎ、施設側は避難誘導の方法などを検討してもらいたいと思います。

さらにスキーや登山などで火山の近く行く場合は、その火山のハザードマップや気象庁の最新の火山情報を確認するなどして行動する、「火山を知る」姿勢が大切になります。

【まとめ】
草津白根山ではその後噴火は起きていませんが、火山活動が高まった状態は続いています。一方、宮城県と山形県にまたがる蔵王山でもきょう火山性微動が観測され、噴火警戒レベルが2の「火口周辺規制」に引き上げられました。
火山とともに暮らす地域では草津白根山と御嶽山の経験・ 教訓を生かし、備えを確認してもらいたいと思います。

(松本 浩司 解説委員)

キーワード

関連記事