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「開かれた社会になるか 日本の難民認定」(時論公論)

二村 伸  解説委員

去年、日本を訪れた外国人旅行者は、これまでで最も多い2869万人に達しました。
5年前の3倍以上です。同時に、日本で難民認定の申請をした外国人も急増し、去年過去最多を記録しました。法務省は、申請者が増えすぎて難民認定の審査に支障をきたしているとして、1月15日から、これまで申請から半年たてば一律に認めてきた就労を大幅に制限するなど、新たな運用を始めました。これに対して、難民の支援団体や弁護団などからは保護すべき難民を切り捨てかねないと批判の声が上がっています。

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①    年々急増する難民申請者の実態と、②難民の審査の何が変わるのか、③そして、日本は開かれた国を目指すのか、難民受け入れのあり方について考えます。

難民は、人種や宗教、政治的な意見の違いによって迫害を受けるおそれがあり、国外に逃れた人と定義され、祖国を逃れ日本で難民認定を申請する人も増えています。

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日本での申請者数の推移を見てみますと、2010年に1202人だったのが、毎年50%前後増え続け、おととし初めて1万人を突破、去年は9月までに1万4043人と過去最多を更新しました。

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なぜこれほど急激に増えたのか。法務省は、就労目的で難民申請をした人など濫用や誤用が増えたからだと説明しています。2010年3月以降、観光などの短期滞在や留学、技能実習など正規の在留資格があれば、難民認定の申請から半年後から仕事に就くことが認められるようになりました。以来、申請者が急増しているのです。申請者の8割以上が短期滞在や技能実習、留学目的で在留資格を得た人たちで、出身国別では、フィリピン、ベトナム、スリランカ、インドネシア、それにネパールといったアジアの国々が上位を占めています。フィリピン政府は、現地のブローカーが、日本での就労を希望する人に観光目的で日本に入国させ、その直後に難民認定申請をさせていた疑いがあるとして捜査を進めているということです。ただ、保護を求める本当の難民も少なからずいることもたしかです。

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難民認定の一時審査で認定される人は全体の0.1%から0.2%ほどで、認定されなかった人のおよそ半数が不服申し立てを行い再審査が行われています。
一次審査が終わるまで平均でおよそ10か月、再審査は2年近くかかり、長い人では審査結果が出るまで10年かかるケースもあります。審査に時間がかかれば、保護を求めている本当の難民が認定を受けるまで時間がかかりすぎるという問題があります。そういう意味では迅速に審査を進めることは重要です。しかし、今回の見直しは、難民保護より審査期間の短縮、効率化を優先したものだといった批判も聞かれます。というのは、正式な審査の前に行う書面による振り分けで、多くの人が就労や在留を制限されることになるうえ、世界でも厳しすぎるといわれる難民の認定基準はこれまでと変わらず、ますます狭き門になりかねないからです。

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申請者は、書面による簡単な審査で、2か月以内に4つの区分に振り分けられます。1つは、難民条約に定められた「難民の可能性が高い人」や「内戦などにより人道上の配慮が必要な人」、2つ目が難民の条件に「明らかに該当しない人」、たとえば借金や事故、犯罪などのトラブルを理由とするケースです。3つ目が、難民認定されなかったあと再申請でも「前回と同じ主張をしている人」。そして4つ目が、AともBとも判断が難しいケースです。
このうちAの「難民の可能性が高い人」は、これまでの半年の期間を待たずに就労可能な在留資格が与えられることになりますが、問題はBとCのケースです。
これまで申請から半年後に就労が認められていたのが、今後は働くことができなくなり、在留資格も制限され、強制収容される可能性もあります。支援団体や弁護団は、BやCに区分された人の中にも、難民でありながら言葉の問題や書類の不備などで認められなかった人がいる可能性があり、書類でのふるい落としは真の難民を見逃しかねないと懸念を表明しています。日本では不認定だった人が、その後外国で難民として認定されたケースもあります。
また、Dのうち、実習先から逃げた技能実習生や、退学した留学生も、在留期間が短縮され就労も認められなくなります。去年1月からの半年間でAに分類されたのは9人だけで、今回の見直しによって就労や在留が制限され、収容される人が大幅に増える可能性もあります。

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法務省は2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに不法滞在者や本国への送還を拒んでいる外国人を大幅に削減するよう全国の入国管理局や収容所に指示しています。難民認定されず在留資格を得られなかった人の速やかな送還も求めています。観光などで金を落とす外国人は歓迎する一方で、保護を求める人に厳しいのは人道的に問題だといった声も聞かれます。
審査に時間がかかるのであれば、審査に当たる職員を増やすなどの措置が取れないのか、収容者が増えるのであれば施設の拡充など予算的な措置も必要でしょう。そして何よりも、真の難民の保護のため、というのであれば、難民認定制度の根本的な見直しが必要ではないでしょうか。

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世界の難民が増え続け、日本でも申請者が急増する一方で、難民と認定された人は、2015年が27人、16年は28人にとどまりました。2000年代後半の半分です。去年1年間の認定者数は来月発表される見通しですが、9月の時点で10人にとどまっています。
一方、ドイツはおととし26万人を難民として認定、他の先進国も数万から数千人受け入れています。国連のグテーレス事務総長は、難民の受け入れを国際社会、とりわけ先進国が分担して取り組むよう訴えていますが、日本の状況は変わっていません。もちろん日本と海外では事情が異なり、受け入れ態勢や国民の意識も大きく違いますが、時代の変化に応じて柔軟に対処すべきではないでしょうか。

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とくに日本は難民の認定基準に厳格です。シリアで反政府デモに加わって国外に逃げた人をヨーロッパでは難民認定しても参加しても、日本では個人への特定の危険性を証明できないと難民と認定されません。支援団体や弁護団は、世界標準に近づけるよう求めています。
また、入国管理局が難民の認定審査を行っているのは、難民を保護より管理の観点から見ているという指摘もあります。出入国管理から難民の審査を切り離し、認定から社会統合まで一元化する必要があるのではないでしょうか。就労目的の難民申請が多いのは、外国人労働者への門戸が狭いためだという指摘もあります。移民問題と難民問題を扱う独立した行政機関の設立が望まれます。
▼国をはじめ自治体や社会は態勢の整備も含めて幅広い議論が求められます。

2011年、日本の衆参両院は、「難民問題の解決と難民保護のためにアジア、世界で主導的な役割を担う」という決議を全会一致で採択しました。それを政府や各省庁のどれだけの人が認識しているでしょうか。国際社会で信頼される開かれた国となるのか、日本は問われているように思います。

(二村 伸 解説委員)

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