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「減反廃止 コメはどう変わる」(時論公論)

合瀬 宏毅  解説委員

政府は半世紀近くにわたって続けてきたコメの生産調整、いわゆる減反政策を今年から廃止しました。これからは農家が、自らの判断でコメの作付けを行うことが出来るようになります。
しかし減反廃止に当たり、政府は別の形での、コメ作りへの関与を深めています。
減反廃止後のコメ価格やコメ作りについて見ていきたいと思います。

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政府が減反政策の廃止を打ち出したのは5年前、安倍総理が農業の成長戦略をまとめたことです。
国は1971年、豊作が続き、過剰在庫となったコメを処理するために、コメの生産を制限する減反政策をスタート。当初は反対していた農家もコメの価格安定のためにこれを支持し、以来半世紀近くにわたって続いてきました。

しかし減反は、国がコメの生産量や価格を決める官製カルテルです。国の言うことさえ聞いていれば生活は安泰。農家全員を守るやり方は農家のやる気と自由な発想を縛り、農業を歪めているとして、長い間批判されてきました。
TPPやFTA交渉で海外から輸入圧力が強まる中、安倍政権が廃止に動いたのは当然で、目指したのは競争を通じたコメ作りの強化です。

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しかし、コメの消費は年々減少しています。こうした中で農家が一斉に増産に走れば、価格は暴落、市場は大混乱します。
そこで政府がとったのは、水田で主食用のコメ以外の作物を作った場合の支援。手厚い補助金でした。

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例えば水田に麦や大豆を作る農家には10アールあたり3万5000円、せんべいなどに加工するコメについては2万円という具合です。
中でも多額なのが、家畜などのえさ用のコメで、最大で10万5000円の補助金が支給されます。さらに県で決められた新たな品種を使えば、補助金が上積みという、これまでにない手厚い支援です。

エサ米の価格は1キログラム10円程度と、ただ同然です。このためかつては誰も家畜用のコメを作ろうとは思いませんでした。ところが補助金を加えれば、収入は主食用を上回ります。
農家にエサ用のコメを作ってもらうことで、結果的に主食用の生産を減らし、価格の安定を狙った訳です。

その結果、どうなったのか。

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農林水産省が先週まとめた今年の生産見通しです。数値を公表した45の道府県の内、今年はこれまでより、増産するとしているのが、北海道や青森、千葉など14道県。最も積極的なのが千葉県で8%の増産。神奈川県が4%、コメどころ新潟県も1%ですが、増産するとしています。
大消費地に近いメリットや、強いブランドを生かしたコメの販売を進めるものと思われます。

一方で、熊本県が7%の減産を行うほか、福島や山口など8つの県がコメの生産を減らすとしています。ただ多くは様子をみたのか去年並の水準です。

こうした状況をみれば、今年の生産見通しは、去年より増えそうですが、その量はわずか。価格も大きくは動かないだろうというのが専門家の見方です。

これをどう見ればいいのか
市場の混乱を恐れてきた政府としては、ほっとしているかもしれません。
ただ、今回の減反廃止。そもそもは競争を促し、構造改革を進めるためにおこなったものです。混乱を恐れて、競争がなければ、これまでと変わりません。

背景にあるのはコメの高値です。

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これは、コメの価格の推移ですが、平成10年に60キログラムあたり2万円近かったコメ価格は、消費減少に伴い、26年には1万2000円足らずと、40%近く落ち込みました。
ところが、政府がエサ米などへの補助金を増やしたために、農家は主食用の生産を縮小。主食用はその後、価格を上げ、去年暮れには1万5000円を超えて値上がりしています。

農家にとっては有り難い状況で、これで増産に走れば、再び価格は下落しかねません。増産の余力のある地域も、しばらくは様子を見たいということなのでしょう。価格が動かなければ、コメの構造改革は進みません。
検討しなければならないのは、政府が行うエサ米などへの補助金です。

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政府はエサ米の生産を、今後も拡大しようとしています。これは家畜用のエサ米の生産量ですが、減反廃止を決めた2013年には10万トンだった生産量は年々拡大し、去年は48万トンとおよそ5倍、主食用米の6%にまで拡大しました。
来年度、エサ米など、主食用以外に取り組む農家に対する予算は3300億円、政府は将来的に110万トンにまで増やす計画です。

水田面積は限られていますから、エサ米の生産が増えれば、その分主食用は減り、主食用の価格は高止まりすることになります。
価格を維持するという意味では減反政策となんら変わらず、これでは何のために減反廃止に踏み込んだのか分かりません。
エサ米などに対する政策の見直しが必要だと思います。

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そもそも、安倍政権が減反を廃止したのは、TPPやFTAなど経済連携協定を巡る国際交渉が進む中で、海外の安い米にも対抗できる競争力の強いコメ農家を作る必要があったからです。
また、国内ではいま、エサ米の拡大で、多少食味は落ちても価格の安い主食用米が不足し、弁当用などに使ってきた食品企業や外食産業などの経営を圧迫しています。
こうしたことを考えれば、育成すべきは市場のニーズに合わせて安い米を作ることが出来る農家です。

国内にはいま、平均の5倍の規模、10ヘクタール以上の耕作面積をもつ大規模農家が増えつつあります。その数は2万5000と、全稲作農家の2%にすぎませんが、耕作面積は全体の28%を占めています。
この大規模農家がえさ用のコメの半分を生産し、コメの生産や価格に大きな影響を持っています。

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こうした大規模農家は、生産性も高く、安い米を作る強い競争力をもっています。それが、補助金に依存してエサ米をつくり続けるのでは、競争は生まれません。

こうした大規模農家が目指すべきは、まずは栽培の工夫などをして今以上のコストダウンをはかり、安い米を求める外食産業などの需要に応えること。
そして将来的には輸出に取り組むような農家に育ってもらわなくてはなりません。

政府はそのためにも競争を通じて、辞めた農家の農地を集約し、より競争力の強い農家を育てる環境を作らなければなりません。

減反廃止は本来、国の関与を無くし、価格を通じて消費者ニーズが直接、生産者に届く、そうした市場を実現するものだったはずです。
競争によって、味や価格で勝る農家は生き残り、そうでない農家は、地域の特性を活かし他の作物に取り組む、その姿を実現するはずのものでした。それは地域を強くし、消費者にとってもメリットになります。
政府は本来の狙いを忘れるべきではありません。

 最後に一つ。
政府はこれまで減反政策の廃止にたびたび取り組んできましたが、コメの価格が下がり始めると、農家や政治の反発を恐れ、再び国の関与を強める。そうした事を繰り返してきました。
 今後激しい競争が起き、主食用のコメが下がったとしても、その動きを押さえるような対策をとるべきではない。それを指摘しておきたいと思います。

(合瀬 宏毅 解説委員)

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