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「草津白根山噴火~防災態勢の緊急修正を」(時論公論)

松本 浩司  解説委員

きょう(23日)午前、群馬県の草津白根山が噴火し、近くのスキー場で噴石の直撃を受けるなどして1人が死亡し11人がけがをしました。草津白根山ではここ数年、地震や微動などの活動が活発になり警戒と監視が続いていましたが、噴火したのは想定していた火口から2キロあまり離れた場所でした。このため今後、噴火が拡大する場合に備えて噴石や融雪泥流などの予測範囲を急いで修正して警戒態勢をとることが必要になっています。草津白根山の噴火についてお伝えします。

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【噴火と被害の状況】
きょう午前10時ごろ、群馬県北西部にある草津白根山の鏡池付近で噴火が発生しました。この噴火で近くにある草津国際スキー場で訓練をしていた陸上自衛隊の隊員8人に噴石が当たり、49歳の男性隊員が死亡しました。
映像ではスキー場に大きな噴石が飛んでくる様子が捉えられています。
こうした噴石がスキー場のコース沿いにあるゴンドラも直撃し、ガラスが割れてスキー客がけがをしました。自衛隊員とスキー客のあわせて11人がけがをしました。

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位置関係を見てみます。
噴火したのは本白根山の鏡池付近です。草津国際スキー場は北東から北側に広がっています。自衛隊員が訓練をしていたのは火口の1キロほど北側のスキー場の振子沢コースと見られています。ロープウェイはスキー場のコース沿いに通っていて、いずれも1キロほどの距離。噴石は1キロ以上離れた場所まで飛んだことが確認されています。

【想定外の場所で予兆なしの噴火】
草津白根山では近年、火山性地震などの活動が活発になり監視が続けられてきましたが、きょうの噴火は想定していた火口とは違う場所で発生し、前兆を捉えることはできませんでした。

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草津白根山では明治から昭和30年代にかけて山頂の火口やその周辺で水蒸気爆発による小・中規模の噴火が繰り返し発生しました。昭和58年を最後に噴火は起きていませんが、平成に入って活動がやや活発になり平成26年には火山性地震や微動が観測されたほか、山頂付近で山がわずかに膨らむ変化が観測されました。このため平成26年の6月から噴火警戒レベルが2に引き上げられ、火口周辺への立ち入りが規制されていました。

しかしその後、活動は落ち着いて去年6月に、噴火警戒レベルは5段階で一番低い、「1」に引き下げられていました。平常の状態であることを示すレベル1と判断された中、きょうの噴火が発生したのです。噴火のあとレベルは3に引き上げられました。

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草津白根山周辺には気象庁や大学などの地震計や傾斜計、監視カメラなど30以上の観測機器が設置され監視していましたが、いずれも過去、噴火を繰り返し、想定されていた湯釜を取り囲むように設置されていました。

しかしきょう午前、噴火したのは2キロあまり南に離れた本白根山の鏡池付近で、観測機器で噴火の前に事前の徴候や変化は捉えられませんでした。

本白根山では3000年前に活発に噴火したことがわかっていますが、文献などで噴火の記録はありませんでした。火山としては草津白根山のうちのひとつに分類されますが、想定火口から離れていて、別の火山が噴火したと見ることもできるでしょう。

63人が亡くなった4年前の御嶽山の噴火と同様、今回も事前に噴火の徴候を捉えることはできませんでした。いずれも大きな被害を出しましたが、火山の現象としては局所的で小さいためで、こうした噴火を予測することの難しさと、突発の噴火にどう備えるかという課題をあらためて突きつけられました。

また気象庁は御嶽山の噴火を受けて「噴火速報」を創設しましたが、今回出すことができませんでした。気象庁は監視カメラなどが設置されておらず確認ができなかったと説明していますが、専門家は「噴火したと見られる」と判断した段階で出すべきだったとしていて、課題が残されました。

【修正求められる防災対応】
今後、どのような警戒と対応が必要でしょうか。
草津白根山では、地元の自治体が協議会を作って火山の噴火警戒レベルにあわせて立ち入り規制の範囲などを定めていたほか、さらに大きな噴火を想定したハザードマップも整備していました。

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噴火警戒レベルにあわせた火口周辺の立ち入り規制の図です。今、噴火でレベルは3に引き上げられていますが、レベル3では想定火口から2キロの範囲内と黄色で示した登山道への立ち入り規制が想定されていました。
しかし、実際に噴火したのは想定から2キロ離れた本白根山の鏡池付近で、気象庁はここから2キロの範囲に近づかないように呼びかけています。自治体は登山道などを含めて規制の範囲をあらためてわかりやすく示す必要があります。

火口周辺だけでなく、広い範囲での防災態勢の検討も必要になります。
午前の噴火のあと活動は落ち着いていますが、再び活発になり、噴火が起こる可能性も否定できないからです。

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被害が及ぶ範囲を示したハザードマップです。
今回、噴火したのはここですが、ハザードマップは湯釜付近の噴火を想定しています。

湯釜付近の火口からおよそ2キロの範囲に直径1メートルくらいの大きな噴石が飛ぶ恐れがあるとされ、5センチ以上火山灰が降る範囲、泥流が流れ下る範囲も示されています。
この季節、特に警戒しなければならないのが融雪泥流です。
噴火が起きたときに噴出物の熱で山体に積もった雪が溶けて泥流になり、谷に沿って流れ下るもので、大正15年の北海道・十勝岳の噴火では144人が死亡しました。
噴火から25分ほどで火口から25キロ離れた上富良野町などを襲い、町を壊滅させました。

いまのハザードマップでは泥流が到達する範囲を、5分後、20分後、1時間後という具合に時間を追って想定していますが、火口が2キロ離れれば、流れ下る範囲も大きく異なってきます。映像を分析した専門家によりますと鏡池からさらに南の別の場所など複数の火口ができた可能性があるという指摘も出ています。

距離は離れていますが南側にも町があることから噴石や火山灰、そして融雪泥流について、現在の警戒範囲に加えてあらたに警戒をしなければならない地域はどの範囲なのか、気象庁や火山の専門家で急いで検討をして地元自治体に助言し、自治体側はハザードマップを修正するなど住民に警戒を呼びかける必要があります。

今回の噴火では御嶽山の噴火と同様に、噴火予知の難しさと突然の噴火にどう備えるかという課題が投げかけられました。

一方、草津白根山周辺の自治体では協議会を作って防災対応を検討してきました。想定した噴火口と違う場所で噴火は起きましたが、事前の想定や準備はすぐに応用することができます。被害の及ぶ範囲など急いで修正をしたうえで、仮に今後火山活動が活発化しても被害を最小限に食い止めることができるように備えを進めてもらいたいと思います。

(松本 浩司 解説委員)

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