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「糸魚川大火1年~大規模火災をどう防ぐ」(時論公論)

松本 浩司  解説委員

新潟県糸魚川市で起きた大規模火災からあすで1年になります。この火災は、地震をのぞけば「ほぼ克服されたのではないか」と考えられていた市街地の大規模火災が、悪条件が重なれば、まだ、どこでも起こりうるということを示し、大きな警鐘となりました。この火災を受けてどのような対策が取られ、何が課題になっているのかを考えます。

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解説のポイントは3つです。

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まず糸魚川大火の教訓について
この大火を受けて進められている消防の取組みを見たうえで
根本的な問題として密集市街地を解消するための課題を考えます。

【糸魚川大火の教訓】
去年の12月22日、新潟県糸魚川市の市街地にあるラーメン店から火が出て燃え広がりました。台風並みの強風で「飛び火」が10ヶ所で発生するなど11時間にわたって燃え続け、147棟、4万平方メートルが焼けました。焼損面積が3万3000平方メートルを超える火災を「大火」といいますが、大地震を除くと40年ぶりの大火でした。

町の不燃化や消防力の整備で多くの消防関係者や専門家は「通常の市街地大火は克服できたのではないか」と見ていました。

しかし実際に発生し、しかも現場は木造建築が建てこんでいたものの消防車の進入は可能で、全国どこでも見られる町並みでした。悪条件が重なれば、今後も市街地大火は起こり得るということを強く警告するかたちになりました。

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延焼の原因は強風に消防力が追いつかなかったことですが、専門家による国の検討会は「消防の初期の対応にも問題があった」と指摘しました。周辺の市町村消防に応援要請をするまで1時間半かかったことや、飛び火の警戒にあたる部隊を配置していなかった点などです。その背景として現場が「危険性の高い地域」に指定されておらず、事前の消防活動計画がなかったことを指摘しています。

【消防の取組み】
こうした報告を受けて、全国の消防は今何に取り組んでいるのでしょうか。

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総務省消防庁は全国の消防本部に「木造建築物が多く、大規模火災につながる危険性の高い地域」を指定し、「火災防御計画」を作るよう求めました。道幅や建物の状況、消火栓の位置などをもとに消防車や放水場所の配置などを事前に考えておくものです。計画をすでに作っているところもありますが全国の消防本部の4割にとどまっていて、今年度中の策定を求めています。
また県域を越えた応援協定や要請を待たずに応援を派遣する仕組みづくり、消防用水の確保対策などが全国の消防で進められています。

こうした中、消防関係者が注目した最近の火災があります。
10月25日、兵庫県明石市の住宅密集地で、木造2階建ての市場から火が出て、強い風で燃え広がりました。市場の棟続きの33軒と住宅4棟、1490平方メートルが全焼しました。関係者が注目するのは、ここでは「防御計画」が立てられていて、それが役に立ったからです。

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その計画です。明石市の消防本部は事前に消火栓の位置と供給能力、小さな消防車なら入ることのできる道などを調べ、消防車の配置などをシミュレーションしていました。強風時の出動基準もあって、最初から多くの消防車を出動させ、計画に沿って配置しました。

さらに風が強く、自分たちの消防力だけでは延焼を食い止められないと現場で判断。発生から30分後に近隣の消防本部に応援を要請し、隣の神戸市など6つの消防本部から21台の消防車が駆け付けました。

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こうした対応で火災現場を取り囲む形で消火活動を行い、当初想定していた延焼阻止ラインより狭い範囲に延焼をおさえ込みました。

糸魚川でも猛威をふるった「飛び火」が一箇所で発生してしまったのですが、ここでも事前の備えが役立ちました。「防御計画」で確認していた隣のマンションの貯水槽から水を引き、消し止めました。
延焼を完全に防ぐことはできませんでしたが、総務省消防庁は糸魚川の教訓が生かされたケースと見ています。

【密集市街地解消の課題】
ここまで消防の取組みを見てきましたが、根本的かつ長期的な問題として、火災が燃え広がりやすい密集市街地をどう解消するのか、という問題があります。
さきほどの明石市の火災はこの点でも注目されているのですが、それは対策が進められていたのですが、間に合わなかったからです。

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この地区では道路を広げたり、燃えやすい建物を建替えたりする整備事業が15年前から進められてきました。隣接するブロックでは整備が終わっていました。市場のあるブロックでも消防車が入れる道路の整備などが構想されたのですが、止まっていました。整備が進んでいれば、初期の段階で延焼を止めることができたと考えられます。

こうした密集市街地の解消はどのように進められているのでしょうか。

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国土交通省は住宅の密集度が一定以上のところを「密集市街地」と定義して、道幅の拡幅や、住宅を建替えたり、燃えにくくしたりするための整備を支援しています。明石市の火災現場周辺はこれに該当します。

密集市街地の中でも特に危険性が高く、地震で非常に規模の大きい火災が起こる恐れのあるところは「著しく危険な密集市街地」に指定されています。政府は重点的に予算を投入して「10年間で解消する」という目標を掲げてきましたが、残り3年で解消できたのは全体の3割ほど。4000ヘクタールが残されています。

一方で、糸魚川市の大火の現場はこれらの密集市街地には該当しませんでした。
局所的に老朽住宅などが密集している「延焼の危険性がある市街地」と分類されていました。
一番危険な密集地域の解消も思うように進んでいないところに、比較的危険性は低いと考えられ、町並み改善のための支援も手薄なところで大規模火災が起きてしまったのです。
しかも、こうした地域は全国のどこにでもありますが、その数や面積も把握ができていません。

【まとめ】
では糸魚川のような大火を繰り返さないために、消防と町づくりで、それぞれ何が必要でしょうか。

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▼消防は「危険性の高い地域」の把握と計画づくりを急ぐ必要があります。そして応援の体制や消防団員の確保など、引き続き、消防力の点検・整備が求められています。

▼密集市街地を解消し、安全な町づくりを進めるためには住民の協力・合意形成が必要で時間がかかるのは仕方がない面があります。ただ「著しく危険な密集市街地」の解消も、いままでのやり方では目標達成は困難ですし、糸魚川の大火でそれ以外の地域での対策の必要性も浮き彫りになりました。地震火災を含め大火から大勢の人の命を守るためには、新しいインフラの建設は少し我慢しても防災を優先するなど、踏み込んだ取組みが必要ではないでしょうか。

糸魚川の大火を受けて国土交通省は密集地域の解消や不燃化を進めるための法律や制度の改善を進めています。全国の消防本部の調査で「危険性の高い地域」の確認が進めば、そこにも火災に強い町づくりを支援する事業を適用する考えです。国レベルでも自治体レベルでも町づくりの部門と消防部門が一層連携をして取り組んでほしいと思います。

(松本 浩司 解説委員)

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