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「なぜテロに走るのか?~国連調査から読み解く~」(時論公論)

別府 正一郎  解説委員

中東のイラクとシリアでの拠点を失ったものの、IS=イスラミックステートなどの過激派組織によるテロは収まる兆しすら見えず、その脅威はむしろ拡散しています。
それにしても、大規模な軍事作戦にも関わらず、なぜ、多くの若者が過激派組織に引き寄せられ、残虐な行為に手を染めるのでしょうか?
国連がまとめた、600人近い戦闘員を対象に行った初めての聞き取り調査の報告書をもとに、戦闘員の意識や境遇を探りながら、国際社会がテロの根本的な原因にどのように向き合うべきかを考えます。

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【解説のポイント】

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①    まず「拡散するテロの脅威」の現状を見ます。
②    次に、報告書から見える「戦闘員の意識と境遇」を分析します。
③    最後に「テロにどう向き合うか」を考えます。

【軍事作戦は終わったものの・・・】
イラクのアバディ首相は9日、ISの最後の拠点を奪還し、イラク全土をISの支配から解放したと宣言しました。しかし、各国の関心は、早くも、戦闘員たちの行方に移っています。国連のテロ問題の責任者は、安全保障理事会に対して、ISに参加していた4万人以上と見られる戦闘員がほかの国に移っており、国際社会全体への重大な脅威になっていると警告しました。

【相次ぐテロ】
実際、エジプト東部のシナイ半島では、先月、モスクが武装グループに襲撃され、300人以上が犠牲になるエジプトで過去最悪のテロがありました。もともと存在していたISの組織に、イラクやシリアから逃れた戦闘員が合流して引き起こした可能性が指摘されています。

【なぜテロが拡散するのか】
しかし、大規模な軍事作戦にも関わらず、なぜ、テロの拡散を防げないのでしょうか?背景には、多くの若者が過激派組織に加わるのを防げていないことがあります。

【国連の調査まとまる】

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UNDP・国連開発計画は、戦闘員たちの意識と境遇を探ろうと、ソマリアやナイジェリアなど6か国でISやアッシャバーブなどに関わった573人を対象に、200問を超える聞き取り調査を行いました。対象になったのは、ほとんどが拘束されている元戦闘員ですが、活動中の者も含まれています。調査には2年を費やし、国連がこれほどの規模でこうした調査を行うのは初めてのことです。
回答者の81%が男性で、半数以上が17歳から26歳までの間に過激派組織に参加しました。

【結果①「宗教は重要な要因ではない」】
調査結果で、まず目を引くのは、組織が過激な宗教思想を掲げているものの、戦闘員の多くが、実際にはそうした思想に賛同している訳ではないということです。

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参加の動機では、確かに、「宗教上の理由」が最も多い答えでした。しかし、次に多い「大きな目的に関わる自己実現」の16%や、「雇用の機会」の13%など、それ以外の理由をあわせたほうが多く、UNDPでは、「実態は、全ての戦闘員が過激な宗教思想を信奉しているというイメージとはかけ離れている」と指摘しています。
しかも、イスラム教のコーランについて「読んだことがあり、理解できるか」を聞いても、57%が、「全く、あるいは、ほとんど理解できない」と答えました。戦闘員たちは、正しく宗教を理解できていない上、そもそも宗教に対する意識が低いことが浮かび上がります。

UNDPが実話に基づいて制作した、過激派の勧誘から若者たちを守るための啓発ビデオからも、そうした典型的な戦闘員の様子が伺えます。この啓発ビデオは、当局から取調べを受けていた若者を父親が迎えに来て自宅に連れ帰るシーンから始まります。過激な友人とのつきあいを続ける息子に、父親は、「人を殺しに行けというようなことがコーランのどこに書いてあるんだ」と問いかけます。しかし、息子は満足に答えることすら出来ません。宗教上の理由と強弁していても、息子を動かしていたのはむしろ、仕事や教育の機会がないことへの不満だったのです。

【結果②「経済的な苦境」】
調査でも、こうした点が浮かび上がりました。

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参加したときに何を必要としていたかという問いに対して、最も多い34%が「仕事」と答えました。続いて多い25%が身を守るための「安全」、21%が「教育」と答えました。
最初の勧誘を受けてから参加するまでの期間について、仕事をせず、学校にも通っていなかった場合、その6割近くが「1か月以内」と答え、そうでない若者に比べて短い期間で取り込まれています。
UNDPは、「組織の指導部には比較的裕福な若者も目立つが、全体で見れば、深刻な貧困が若者たちをテロに走らせている傾向がはっきりしている」としています。1か月にわずか40ドルあまりの報酬のために戦闘員になったケースも報告されています。

【結果③「政府への不信」】
しかし、若者たちに組織に加わるという決断をさせているのは経済状況だけではありません。むしろ、大きな要因として浮かび上がったのが、政府への強い不信感です。

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「政府は少数の利益しか代弁していないと思うか」という問いに対して、実に83%が「そう思う」と答えています。また、いくつかの政府機関を挙げて、それぞれ信用するかどうか聞いたところ、「政治家」と「警察」は80%以上が「全く信用できない」と答えています。
そして、「過激派組織に参加することを最終的に決断させた理由」を聞いたところ、圧倒的に多い71%が、「治安機関の行動」をあげました。治安機関によって家族や友人が拘束されたり、殺害されたりしたことへの怒りが、一線を越えさせているのです。
28歳のある戦闘員は、組織に参加したときの気持ちについて、「政府は偽善的だという怒りしかなかった」と回答しています。

【どう向き合うか?】
では、調査結果から、各国政府や国際社会は何を学べるでしょうか?調査は、アフリカで行われましたが、UNDPは中東など、ほかの地域も教訓が得られるとしています。

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①    まず、何よりも、治安対策のあり方を見直すことです。法の手続きにのっとり、政府の責任が明確な形で治安機関が行動することが重要です。シリアやイラクで取材していますと、しばしば、「理由もはっきりしないのに家族が拘束され、釈放する見返りに金を要求された」といった話を耳にしますが、こうしたことは根絶しなければなりません。
②    次に、中央政府のみならず、地方自治体が機能する国づくりが求められています。行政サービスが行き届き、若者たちの雇用や教育の機会の拡充が必要です。

【急がれる対策】
しかも、こうした取り組みは待ったなしです。
テロは、「若者と都市化の産物」とも言われます。膨大な数の若者が地方から流れ込んで、ひしめくようにして過ごす都市部で、雇用や教育の機会がなく不満を募らせる状況で勧誘が行われていますが、こうした状況は今後も広がることが懸念されます。

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中東とアフリカは、世界で人口の増加が最も急速に進んでいて、アラブ諸国では、1970年には1億2400万人だった人口は、2010年には3億に達し、2050年には6億を超えると予測されています。しかも、膨張する人口のおよそ60%が30歳未満という状況が続きます。
各国政府は、若い人口構成という、本来ならば経済成長につながる好条件を活かして、国づくりを急ぐことが求められています。国際社会は、そうした努力を全力で後押しすることが必要です。テロの脅威が拡散しているからこそ、いかにスピード感を持って進めていくことが出来るかが問われています。

(別府 正一郎 解説委員)

 

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