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「課題が続々 大学入学共通テストは大丈夫か」(時論公論)

西川 龍一  解説委員

大学入試センター試験にかわって導入される大学入学共通テストのプレテストが11月行われました。大学入試センターは、4日、プレテストの内容や新たに導入される国語と数学の記述式問題の採点方法などを明らかにしましたが、課題は山積という状態が浮かび上がっています。
 
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▽心配される検証期間の短さ
▽明らかになった記述式問題の課題
▽民間の検定テストで英語の試験は代替できるのか
以上、3点をポイントに考えます。

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大学入学共通テストは、1点刻みの入試問題ではなく、知識を活用し、自ら判断する力を測るという大学入試改革の目的を実現するため、大学入試センター試験に変わって導入されるものです。今の中学3年生が受験年齢に差しかかる2021年1月が最初です。
大きく変わるのは、▽国語と数学にマークシートに加えて記述式の問題を導入すること、▽英語で「読む」「聞く」力に「書く」「話す」力を加えた4技能を評価することです。このうち英語は、4つの技能を測ることができる民間の資格・検定テストを活用することになっています。

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今回のプレテストは、共通テストの導入に向けた問題点などを検証するため行われています。最も多い国語で69000人が受けるなど、高校2年生を中心にのべ19万人が参加して先月13日から24日にかけて実施されました。共通テストの実施主体となる大学入試センターは、マークシート式の問題でも、知識を問うだけでなく、思考力や判断力、表現力を測れるように問題の改善を図るとしています。プレテストは来年度も行う予定ですが、センター試験の前身の共通一次試験の場合、本番の5年前から4回のプレテストが行われています。センター試験の問題は、本番まで2年間かけて作られていますから、共通テストは来年には問題作りに入る必要があります。思考力、判断力、表現力を問う問題をどう具現化するのか、難易度をどうするのかという大きな課題もある中、検証期間の短さが心配です。実施時期ありきで始まったことの弊害が露呈した形です。

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公開されたプレテストの問題からは、記述式問題の課題が見て取れます。
共通テストの国語と数学の記述式問題は、それぞれ3問程度出されることになっていて、今回のプレテストもそれにならって3題、出されています。国語の記述式は、会話文と資料を読み解いた上で、25字、50字、120字の記述を求めています。
中教審委員も務める国文学者のロバート・キャンベルさんは、「受験生が主体的に何を学び、考えたかを試すことができる」と一定の評価をしています。
一方、大学入試改革に詳しい東京大学教授の南風原朝和さんは、「問われている内容への答えとなる語句を資料の中から読み取り、それを書き写すことを求める読解力のテストで、文章を論理的に組み立てるという意味での記述力、表現力をテストする問題ではない」と否定的な意見です。
このように専門家の評価は分かれた形です。毎年、一定の水準の問題を作り続けなければならないのが入試問題です。記述式は、これまでの蓄積がないだけに、その道筋は、まだ見えていないというのが実状です。

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記述式問題の最大の課題は、マークシート方式と比べて格段に手間のかかる採点にあります。基本的に機械で正誤が判断できるマークシート方式と違って、人が採点に関わらざるを得ないからです。
今回、大学入試センターは、記述式の採点方法を公表しました。採点期間はセンター試験に比べて1週間長くすることにしました。これまでセンター内部で行ってきた採点ですが、外部に委託して行われます。採点者には正答の条件が示されます。今回のプレテストでは、120字の記述の場合、求められた条件は4つです。もともと120字程度の記述では、思考力、表現力は問えないという指摘がありましたが、誰が採点しても公平な結果になることと、限られた時間の中で採点を終える必要があることが足かせになっている形です。

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採点作業は、まず1つの回答を2人が採点し、一致した場合はそのまま結果登録されます。一致しない場合は、上位格の別の採点者が採点するなど4段階の採点体制を取ることにしていますから、1つの回答の採点に最低でも2人、判断できない場合は、5人以上が携わることになります。

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50万人が受験する共通テストで、何人の採点者が必要なのかは、見当がついていません。
このため今回69000人分の国語のプレテストを1000人が採点して適切な人数を含めて検証するということです。ただ、適切な人数をはじき出せたとしても本番の共通テストで50万人分の採点者を確保できるのかという問題が残ります。そこは、人選を含め、外部の業者に丸投げのような形となります。業者にとっては採点者の質の確保も含め、大きな負担となります。大学入試センターは、受験生側が本当に信頼に足るような採点をしてもらえるのか不安を抱えることがないよう、業者側へのガバナンスを徹底する必要があります。

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3つ目のポイント、英語についてです。英語の「読む」「聞く」「書く」「話す」の4技能を測るため、共通テストでは、民間の英検やTOEICなど複数の資格・検定試験を活用するほか、共通テストが行うセンター試験と同じ形式のテストが、当面併存することが決まっています。どちらを利用するかは、大学ごとに決めることになっていますが、すべての国立大学は、先月、両方の試験を課すことを決めましたから、いずれにしても受験生の負担は増えます。
民間の資格・検定試験のうち、どの試験を活用するのかもまだ決まっていません。大学入試センターは、高校の学習指導要領との整合性があることや、経済的に困難な受験生への検定料の配慮などの要件を示して、今月中旬をめどに募集し、今年度中に結果を公表するとしています。
しかし、民間の試験の入試利用には、語学教育の専門家の間から疑問視する声があります。成績の付け方が試験によって異なるため、大学入試センターは、結果を英語の国際基準に換算して段階ごとに分け、それを各大学に提供するとしています。しかし、そもそも目的が異なる資格・検定試験の成績を換算することに意味があるのかという疑問があります。また、すべての受験生が受けるとなった場合、試験を主催する団体がすべての受験希望者が受けられる体制を確保できるのかという問題もあります。公的な共通テストの一環として取り入れる以上、何らかの形で大学入試センターが運営に関与できる仕組みがなければ、トラブルがあった場合、検証もできない事態になりかねないと危惧する声もあります。

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今回指摘しただけでも課題は山積と言った状態の大学入学共通テストですが、本来、1回の試験によって1点刻みで合否が決まる従来型の入試を変えることで、高校教育や大学教育を変えていくことが導入の原点でした。それがいつの間にか、記述式問題の導入や英語の4技能を測ることにとらわれ、本来の目的から離れた形で様々な課題を抱えたまま見切り発車が迫っているように思えてなりません。始めるからには、これまで築き上げてきた入試の信頼性そのものが揺らぐ事態にならないよう、最善の努力が必要です。

(西川 龍一 解説委員)

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