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「森友問題 会計検査院の報告は」(時論公論)

清永 聡  解説委員

大阪の学校法人「森友学園」に国有地が8億円あまり値引きされて売却された問題で、会計検査院は、検査結果を国会に提出しました。
検査院は「必ずしも適切とは認められない点や、より慎重な調査検討が必要だった点がある」と指摘し、「適正に処理した」というこれまでの政府の説明とは異なる結論になりました。
検査院が指摘した内容や、今後解明が望まれる点は何かをお伝えします。

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【解説のポイント】
●国会に提出された会計検査院の報告書の内容はどうなっているか。「適切とは認められない」「根拠が不十分」と指摘されたのはどういう点でしょうか。
●さらに検査院の検証で見えた課題もあります。
●最後に、明らかになっていない疑問をこれからどう解明するかです。

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【検査院の指摘①ゴミの量は】
まずは簡単に売却の経緯を見てみます。売却されたのは、大阪・豊中市の国有地8800平方メートル。鑑定価格は9億5600万円でした。

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小学校の敷地を上から見た図です。校舎などの建物がある北側のおよそ5000平方メートルについて、国土交通省は地中のごみの混入率をおよそ47%と推計し、この結果からゴミの撤去費用として8億2000万円を値引きします。財務省の売却額は1億3400万円でした。
ところが、会計検査院の報告書で分かったことの1つは次のような内容でした。
国交省はゴミの量を調べる方法として、北側は42カ所で土を掘っていました。

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丸い印がついているのが、土を掘った場所です。これで見つかったゴミを平均して、混入率を割り出したとしていました。
しかし、検査の結果、この混入率は、42カ所のうち、ゴミが出てきた青の部分のみ、28カ所だけの平均だったことが分かりました。ゴミが出ていないなどの場所、赤い丸の部分を計算から除外したため、混入率が高くなっていたのです。
検査院は、合理性がない上に、他の推計方法も試みた形跡がないと判断しました。しかも検査院が独自に試算したところゴミの量は国土交通省の推計の3割から7割程度にすぎないことも分かりました。
これまで財務省も国交省も、一連の手続きを「適正だった」と説明していました。

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しかし検査院は「値引き額の算定方法には十分な根拠が確認できない」とした上で、所見では、売却などに関しても「必ずしも適切とは認められない点や、より慎重な調査検討が必要だったと認められる点が見受けられた」と指摘しました。
ゴミの量を計算した国土交通省と、売却した財務省。いずれも検査院の指摘を踏まえて、自らの責任を明確にする必要があります。

【検査院の指摘②文書がなく適正額は不明】
では、適正な値引き額は、いくらだったのでしょうか。これが、最大の焦点だったはずです。ところが、検査院は報告書に金額を盛り込んでいません。担当者は取材に対し、検証が不可能だったと話しています。

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それは必要な資料や文書が残っていなかったためです。財務省は売却にいたるまでの森友学園側との交渉記録を廃棄したと説明しているほか、国土交通省もゴミの処分に関する資料を廃棄したと説明しています。
さらに、最終的に評価額を1億3000万円とすることを決めた「評価調書」について、「作ることを失念した」つまり作るのを忘れていたと説明しています。
専門家はこの「評価調書」が国有地を売却する際に、重要な資料のはずだとしています。

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また、行政文書を廃棄した理由は、いずれも公文書管理法の例外である保存期間「1年未満文書」だったと説明しています。しかし1年未満の文書は、一般的にはごく軽微なものなどと定められています。財務省や国交省はいずれも自分たちで基準を作っていましたが、公文書管理法の理念からすれば保存すべきものだったはずです。検査院も改善を求めています。
国の公文書管理委員会の委員長代理を務める三宅弘弁護士は、「財務省の交渉記録は少なくとも5年間は保存すべきで、国交省の資料も1年未満とは言えないのではないか」と指摘しています。

【検査院の権限と限界】
会計検査院は憲法にも明記され、国会、内閣、裁判所のいずれからも独立した組織です。担当は経験を積んだ会計や公共事業のエキスパートで、各省庁の担当者も緊張する緻密で詳細な検査を行うことで知られています。

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しかし、捜査機関ではないため各省庁に文書の提出を要求しても、「捨てた」と言われれば、強制的に調べることはできません。検査院は今回、「検査の限界だった」ことを強くにじませました。
報告書からうかがえるもう1つの問題点は、ここにあります。財務省と国交省は必要な文書を残さなかったため、会計検査院が十分な検証を行うことができない結果になり、行政の信頼を損なったという責任です。

【残された課題は】
報告書には値引き額を決定する過程で、政治家からの働きかけがあったかや、行政側の「忖度」があったかどうかについて、触れられていません。これは検査院が国の会計手続きを調べる制度になっている以上、やむを得ないことだと思います。
今後の焦点の1つは司法の場です。大阪地検特捜部は、国の当時の担当者が土地を安く売って、国に損害を与えたとする背任容疑での告発を受理し、捜査を進めています。
しかし、仮に値引き額を不当だと判断しても、それだけで国の担当者を背任罪に問うことはできません。国に損害を与えようとする意図があったことや、個人の利益を得ようとする目的があったことなどを証明する必要があり、一般的には、捜査のハードルは高いと言われています。

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一方で、※籠池泰典前理事長と妻は、すでに逮捕・起訴され、4か月近くたっても勾留が続いています。
前理事長が起訴された補助金をだまし取ったとする詐欺罪と、今回の告発の容疑は内容が異なるため、単純に比較はできません。それでも、安くしてもらった方が罪に問われ、安くした方はおとがめなしとなれば、釈然としない思いを抱く人もいるでしょう。検察には十分な捜査を求めたいと思います。
また、文書を廃棄したとする点は、市民団体などが行政訴訟を起こしています。一連の問題がどのように起きたのか、そして再発を防ぐために何が求められるのか。司法の場でも責任を明確にすることが求められます。

国会では衆参両院で予算委員会が開かれます。今回の問題では「根拠が不十分なまま、価格が決められたのはなぜか」という疑問はいまも残されています。
会計検査院の報告書は、元々、国会の要請に基づいて作成されたものです。それだけに、国会は提出された報告書を元に、改めて十分な議論を行い、残された疑問を解明してほしいと思います。

※「籠」の「三」が「〒」です。

(清永 聡 解説委員)

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