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「働き方改革の未来と"キャリア権"」(時論公論)

竹田 忠  解説委員

勤労感謝の日の時論公論です。
今、国をあげて取り組んでいる、と言って決して過言でない働き方改革と、これから重要な鍵をにぎる可能性がある“キャリア権”というキーワードについて考えます。

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< 何が焦点か? >
まず、このキャリア権。初めて聞く方も多いと思います。
ここで言うキャリアとは、職歴とか職業経験、という意味です。
つまり、キャリア権とは、平たく言えば、
自分が何の仕事をするかは、会社まかせにしない。
自分で希望して、そのための能力や経験を作っていく権利が働く人にある。
そして、それを、会社も支援すべきだ、というような考え方です。

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こう説明しますと、多くのサラリーマンは、
「何を言っているんだ、そんな夢のような話し。
そもそも会社の人事が聞くわけがない!」と、きっと思われると思います。
確かに「人事権の壁」は大きな問題です。
また、なぜ、今、キャリア権が、注目されるのか?
それは、働き方改革と大きな関係がある、という話しを
きょうは進めていきます。

< 働き方改革とは“正社員改革” >
まず、政府の働き方改革、柱は二つです。
▼長時間労働の是正。
そして正規・非正規の格差是正のための
▼同一労働・同一賃金。この二つです。

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問題はその水準です。
長時間労働是正では、残業の一月の上限が、
最大100時間未満、となっています。
月100時間の残業というのは、
労災認定の基準のひとつとなっていて、
俗に、過労死ラインと呼ばれます。
つまり、過労死ライン寸前まで働かされることを
容認しているわけです。

また、同一労働・同一賃金は、
仕事が同じなら、賃金も同じ、という考え方ですが、
日本では、正社員の多くが、
勤続年数が長いほど給料があがる、年功賃金になっています。
一方、非正規の人の雇用期間はどうしても短い。
そうなると、結局、同じ仕事をしていても、
処遇の差が残ることになります。

つまり、長時間労働是正も、同一賃金も、
大変重要な取り組みですが、
今一つ、踏み込み不足、という感は否めません。
なぜ、こうなるのでしょうか?
それは、この二つとも、
その背景に、日本独特の「正社員のありかた」があるからです。
つまり、働き方改革で必要なのは、
実は、「正社員改革」、と言っていいかもわかりません。

< 「正社員」改革とは? >
では、正社員のありかたの何が問題なのか? 
こういうことです。
日本の正社員の大きな特徴は、
仕事が明確に決まっていない、ということです。
総務でも経理でも営業でも、何をやるかは、その時の会社の命令、
配置転換によってクルクル変わります。

他の人との仕事の区分もあいまいで、
自分の仕事が終わったと思うと、他の人の分もまかされたりします。
一言で言えば「何でも屋」さんです。
専門家はこれを「職務が無限定」といったりします。
この、何でもやる正社員こそが、
いつまでやっても仕事があとからあとから出てきてなかなか終わらない、
長時間労働の温床になっています。

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ちなみに、たとえば欧米では、日本と違い、
社員のやる仕事は、はっきりと決まっています。
雇用契約書や、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)などで、
その人がどんな仕事をするかが、明確に決められています。
ですから、たとえば、日本のように、
他の人の仕事を手伝う、ということは、
その人の仕事を奪う、ということになりかねません。

かつては、この何でもやる正社員こそが、
日本の経済成長の原動力でした。
会社は、環境の変化に合わせて、臨機応変に社員を配置転換し、
事業を拡大させてきました。
一方、社員も、何でもやるかわりに、雇用を保障されました。
長期雇用とか、終身雇用といわれる立場を手にしたわけです。

でも、時代はかわりました、
厳しいグローバル競争と、経済の低迷。
会社は社員を同じように守ることはできなくなりました。
そこで、会社は正社員の数をグッとしぼりました。
そして長期雇用ではない、短期で雇う人を増やしはじめました。
これが非正規の社員が増えた理由です。
今や非正規の人は、全体の4割です。

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そして、この正規と非正規をめぐる最大の課題は、
人材教育に差がつくことです。
企業は正社員には、必要な研修や教育を行いますが、
非正規の人は、なかなかその対象にしてもらえません。
人材教育の差は、やがて、まかされる仕事の差となってあらわれます。
つまり、同じ仕事なら同じ賃金、とは言っても、
そもそも、同じ仕事をすることが、難しくなるわけです。

このように、働き方改革を本当に推し進めようとすると、
正社員のあり方を含めた見直しがどうしても避けられません。
では、どうすればよいのでしょうか?

< キャリア権の可能性 >
そこで、今、専門家の中で
一つのヒントになるのでは?と見られているのが、
はじめに紹介した、“キャリア権”という考え方です。

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実は、これは日本で生まれた、法概念です。
法政大学の諏訪康雄(すわ・やすお)名誉教授が、
20年ほど前に提唱した概念です。
2002年には、厚生労働省の検討会が、
このキャリア権を法的に保障する重要性を指摘しています。

また、諏訪さん自身が座長をつとめる
「キャリア権研究会」の報告書(2011)は、
キャリア権を、
「働く人が、その意欲と能力に応じて自分が望む仕事を選択し、
職業生活を通じて幸福を追求する権利」と説明しています。

では、もし、このキャリア権が認められたら、
働き方改革や正社員のあり方は、どう変わるんでしょうか?
たとえば、今は、物事は、密室で決められます。
これが、キャリア権になると、
たとえば、入社後、10年、20年たって、
その会社のいろんな仕事を経験した人が、
ようやく自分にあう仕事がわかった。
今後は、ぜひ、その仕事を続けたい、
といって会社に要求をする。
会社もそれを考慮する、ということになる。
そうなると、その人の業務は明確になります。
長時間労働の温床である、何でも屋、ではなくなるはずです。

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また、格差の問題はどうでしょうか?
もし、非正規の人たちにもキャリア権が認められるなら、
「正社員と同じように、自分たちにも研修や教育をしてほしい!」
そう要求できるようになります。
国や、会社は、そのための対応を迫られることになります。

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< 人事権の壁 >
しかし、その一方で、キャリア権には、
大きな課題もあります。
それが人事権の壁です。
なぜ、日本では、企業による配置転換が、広範囲に認められるのか?
それは、先に述べたように、雇用保障とセットになっているためです。

たとえば、ある人の仕事がなくなっても、
会社はその人を配置転換して、別の仕事につかせる。
つまり、雇用は保障するけれど、
キャリアは保障できない、そういう関係にあります。

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もし、キャリア権によって、
このキャリアの方がより重視されるなら、
雇用保障は逆にそれだけ制限されて、軽いものになる。
経営側は、そう主張してくる可能性があります。

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とは言っても、今は人手不足の時代です。
いい人材を確保するためには、
雇用保障とキャリア保障をどうバランスさせるのか
企業にとっては、大きな課題になってくると思います。

キャリア権は、まだ権利として確立されたものではありません。
議論する余地は、まだまだたくさんあります。
働き方改革をいっときのもので終わらせないためにも
キャリア権という考え方がどこまで認められるのか?
もっと議論を深めるべきだと思います。

(竹田 忠 解説委員)

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