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「日米首脳会談 圧力の先にあるもの」(時論公論)

増田 剛  解説委員

日本を訪れているアメリカのトランプ大統領は、きょう、安倍総理と会談しました。両首脳は、日米の強固な同盟関係を強調するとともに、北朝鮮に対しては、圧力を最大限まで高めることで一致しました。
首脳会談の結果を読み解くとともに、今後の安倍政権の北朝鮮政策はどうあるべきかについて考えます。

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日米首脳会談は、昼すぎから、東京・元赤坂の迎賓館で行われ、会談のあと、両首脳は、そろって記者会見を行いました。
安倍総理は「今回のトランプ大統領のアジア歴訪は、歴史的な訪問だ。その最初の地が日本であり、日米同盟のゆるぎない絆を世界に示すことができた」と述べました。
トランプ氏も「日米がこれだけ緊密になることは、これまでなかった」と応じました。
トランプ氏の初の日本訪問を政権の大きな成果としたい。
安倍総理に、こうした思惑があったのは間違いありません。

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安倍総理は、今回、一連の日程を通じて、トランプ氏との親密ぶりをアピールすることに尽力しました。きのう、共通の趣味であるゴルフに招待したのも、そうした努力の一環でしょう。
もちろん、背景には、外交上の戦略と冷徹な計算があると思います。
核とミサイルの開発を続ける北朝鮮。海洋進出を強める中国。二つの隣国と向き合わなければならない日本にとって、圧倒的な軍事力を持つアメリカを味方につけて、その意思決定に一定の影響力を持っていると各国に印象付けることは、外交上、大きなプラスになるという判断でしょう。
首脳会談で最も注目されていたのは、北朝鮮への対応でした。
安倍総理は、「北朝鮮の政策を変えさせるため、日米が主導し、国際社会と緊密に連携して、北朝鮮に対する圧力を最大限まで高めていくことで完全に一致した」と述べた上で、日本独自の制裁措置を強化するため、北朝鮮の35団体・個人の資産凍結を、あす、政府として決定することを明らかにしました。そして、「対話のための対話は、全く意味がない。北朝鮮の側から、『政策を変えるので話し合いたい』と言ってくるような状況を作ることが極めて大事だ」と述べました。
トランプ氏も「戦略的忍耐は、終わった」と応じました。
私は、この両首脳の考え方には、一定の合理性があると思います。

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北朝鮮は、核とミサイルを保有することが、国家の存続にとって、プラスになると考えています。その発想を転換させ、むしろ、核を保有することは、国際社会の非難と制裁を招き、国家の存続にとってマイナスになると気づかせなくてはなりません。そのためにも、今は、厳しい制裁を科し、圧力を強化することが重要です。北朝鮮に、これ以上、圧力をかけられたら、体制は維持できないと思わせるところまでやらなければ、効果はないでしょう。ただ、どこまで圧力をかければ、北朝鮮が対話に降りてくるのか。安倍総理は「誰も紛争など望んでいない」と述べました。そうであるならば、そして圧力はあくまで対話を導くための手段だというならば、どこまで圧力をかけ続けるのか。
ある外務省幹部は、「今回は、当面の対応に集中せざるを得ない」と話していましたが、圧力強化の先にある、いわば出口戦略を検討しておくことも、平和的な解決のために、必要なことだと思います。
今回、トランプ大統領は、拉致被害者の家族と面会しました。
記者会見では、「とても悲しいことだ。北朝鮮は、拉致被害者を送り返してほしい。もし、この問題に光が当たり、キム・ジョンウンが被害者を返せば、何か特別な始まりになるだろう」と述べました。

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拉致問題は、日本にとって、核やミサイルと並ぶ、最重要課題です。現在、この問題は、なかなか進展が見られませんが、トランプ氏が、重要な日程の間に時間をとって、拉致被害者家族と面会したことは、アメリカとして、この問題を重視する姿勢の表れだと思います。
また、日米両政府には、拉致問題は、北朝鮮の体制の非人道性を象徴する問題だという認識があります。ある外務省幹部は、「このような国に核を持たせて良いのかと、世界、特に北朝鮮との対話を重視する欧州諸国に問うことの意義は大きい」と話していました。
拉致問題は、国際社会に圧力強化を促すメッセージにもなりうると考えているのです。
今回の首脳会談では、トランプ氏が、北朝鮮を再びテロ支援国家に指定することについて、何らかの言及をするかどうかも、注目されていました。テロ支援国家への再指定は、北朝鮮に対する最大限の圧力の一環になりうるからです。

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アメリカは、1988年に北朝鮮を指定した後、2008年、当時のブッシュ政権が、指定を解除しています。今回の訪日に先立って、マクマスター大統領補佐官は、再び指定するかどうかを問われ、「北朝鮮に対する全体的な戦略の一部として検討している」と述べました。結局、今回、記者会見で、トランプ氏の言及はありませんでしたが、今後、トランプ政権が再指定に踏み切ることがあれば、アメリカの本気度を示し、国際社会に圧力強化を促す、象徴的意味合いはあるでしょう。
一方、貿易についても、活発な議論が行われました。

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トランプ氏は、「アメリカと日本は、公正で自由な貿易関係を築く。市場へのアクセスを確保し、貿易赤字を解消する」と述べ、日本に貿易不均衡の是正を求めていく考えを強調しました。安倍総理は、両国の経済対話の枠組みで、さらに議論を重ねることで一致したとし、「日米は、2国間の貿易だけでなく、アジア太平洋地域に広がる、貿易・投資における高い基準のルール作りを主導していく」と述べました。
トランプ氏は、アメリカ国内向けに、貿易不均衡の是正に言及しながらも、日本が慎重な姿勢を示している2国間の通商交渉については、表立って要求することは控え、安倍総理も、それとなくかわして、日米の結束を優先したということでしょう。

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安倍総理は、今回、日米の蜜月ぶりを内外にアピールすることに成功したと思います。このことは、北朝鮮の脅威に向き合う日本にとって、大きな意義があることです。その上で、安倍総理に求められるのは、トランプ氏と、「耳の痛いことも含め、言うべきことは言う」という、本当の意味での信頼関係を築くこと、そして、培った関係を現実の外交に生かすことです。
トランプ氏は、北朝鮮に対し「全ての選択肢がテーブルの上にある」と、軍事力の行使も辞さない姿勢を示しており、安倍総理も、この姿勢を一貫して支持しています。ただ、圧力を強化し続ける先に、何があるのか。北朝鮮が危険なチキンレースから簡単に身を引くとは思えません。

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アメリカが、制裁では効果がないと判断し、軍事的選択肢に傾いた場合にどうするのか。また、圧力強化の過程で、予期せぬ暴発があった場合にどうするのか。仮に、北朝鮮への軍事攻撃が行われれば、日本に反撃が行われ、被害が及ぶ可能性も否定できないわけですから、日本としては、容認できない選択肢のはずです。
一方で、その行動が予測不能とされるトランプ氏が、ICBM・大陸間弾道ミサイルの開発凍結などを条件に、一転、中国や北朝鮮との取引・ディールに動き、米朝対話に舵を切るのではないか。日本は、置いていかれるのではないかという懸念も、なおくすぶっています。
こうした場面で、トランプ氏に直言し、翻意を促すことができるのか。トランプ氏との信頼関係を自負する安倍総理には、国民の強い期待と、それに伴う重い責任があると考えます。

(増田 剛 解説委員)

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