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「防衛装備 加速する米国依存を考える」(時論公論)

増田 剛  解説委員

核とミサイルの開発を続ける北朝鮮。海洋進出を強める中国。
日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、政府は、防衛力の更なる向上を目指して、来年度予算案に過去最大の防衛費を計上する方針で、アメリカとの連携を強化するための米国製の装備も次々と導入します。おりしも、来月5日には、アメリカのトランプ大統領が日本を訪れます。トランプ大統領の来日を前に、アメリカへの依存が加速する防衛装備の現状について考えます。

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解説のポイントです。
まず、先月、公表された、最新鋭戦闘機F35の自衛隊への導入をめぐる会計検査院の調査報告を検証し、現在、主流となっているFMS契約と呼ばれる防衛装備の調達方式について、その実態をみていきます。その上で、アメリカへの依存が高まり続ける、日本の防衛装備の現状について考えます。

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アメリカなど9か国が共同開発した最新鋭戦闘機F35。先月、このF35の自衛隊への導入をめぐって、あるニュースが流れました。
日本企業が製造した部品が、機体の一部に使われる契約になっていたのに、実際には、使われていなかったことが、会計検査院の調査で明らかになったのです。
防衛省は、航空自衛隊の次期戦闘機として、レーダーに探知されにくいステルス性を備えたF35を42機、導入する計画で、今年度の末から青森県の三沢基地に順次、配備する予定です。

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F35の製造元は、アメリカの軍需企業ロッキード・マーティンですが、計画では、42機のうち38機については、日本企業が下請けとして製造に参画することになっています。具体的には、IHI、元の石川島播磨重工がエンジンの一部を、三菱電機がレーダーや赤外線センサーの一部を製造、三菱重工が機体の組み立てを行います。ところが、会計検査院が、契約が適正に履行されているかどうかを調べたところ、平成25年に発注された2つの機体について、日本企業の部品が使われていなかったことがわかりました。日本の部品には、一部にアメリカの素材が使われていて、この素材が届くのが遅れたことが、原因だということです。

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F35の導入にあたっては、日本の防衛産業の技術基盤を維持する観点から、機体に日本の部品を使うことを条件にしていたため、契約時の機体価格が、割高になっていたという事情があります。このため、会計検査院は、防衛省に対し、日本の部品が使われていないのであれば、その分、アメリカ政府と価格の減額交渉を行うよう求めています。
防衛省は、「指摘を真摯に受け止め、引き続き、適切な調達が行われるように努めてきたい」とコメントしています。

では、どうして、このような事態が起きたのでしょうか。
背景には、日本がアメリカから装備を導入するにあたって、アメリカが優位に契約を進めている実態があるからだと、私は思います。
その代表的なものが、FMSと呼ばれる契約方法です。

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FMSとは、防衛省がアメリカから、機密性の高い装備を調達するための契約方法のひとつで、「有償援助」とも呼ばれています。
防衛省が装備品を調達する際、通常は、製造する企業と直接、契約を交わしますが、FMSでは、企業ではなく、アメリカ政府を窓口として代金を支払う政府間取引の方式が取られています。

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その契約は、
▼価格はアメリカ政府が主導して決め、▼代金は、納品と引き換えではなく、日本政府が前払いする一方で、▼装備品を提供する時期は、柔軟性をもたせる、つまり、事情によっては、納期が遅れることもあり得るというもので、アメリカ政府が、取引の主導権を握る契約方式なのです。
実際、納入時期の遅れのほか、前払いで払い過ぎた費用がなかなか清算されないという問題も起きていて、会計検査院はこれまでも、改善を図るよう求めていました。
ただ現実には、FMSによるアメリカからの装備品の調達は、近年、増加の一途をたどっています。

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FMS契約の実績額は、▼平成23年度は、589億円でしたが、▼平成24年度は、1372億円と急増し、▼今年度の予算額は、3596億円、▼来年度予算案の概算要求では、4804億円となっています。いまや、アメリカからの調達の78%をFMSが占めています。
アメリカが主導権を握るFMSが、なぜ、これだけ増えているのか。FMSには、アメリカ政府が契約を管理する見返りとして、高性能で機密性が高い最新の装備を導入できるメリットがあるからです。

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F35だけでなく、イージス艦に搭載するミサイルSM3も、輸送機のオスプレイも、無人偵察機のグローバルホークも、水陸両用車も、新型の装備の多くが、FMSで導入されます。
北朝鮮の脅威が高まり、中国が海洋進出の動きを強めているなかで、防衛省としては、最新の装備をいち早く導入したいという考えがあるのでしょう。また、現場の自衛隊員にも、アメリカ軍とできるだけ共通の装備を持ち、日米の防衛協力の実をあげたいという希望があり、これが反映されているのだと思います。
一方、FMSには、別の懸念もあります。FMSが広がれば広がるほど、日本の防衛産業が衰退してしまうという懸念です。

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かつてアメリカは、ライセンス生産という形で、各国にアメリカの装備品の製造を許していました。しかし、「技術の流出につながる」という批判が起きたため、近年は、各国にライセンスを与えないFMSに転じています。ただ、FMSが主流になり、ライセンス生産が認められなくなれば、日本の防衛産業は、技術水準を高めて生産基盤を強化する機会を失い、衰退を余儀なくされることになります。
アメリカからの装備の導入を優先するのか。
それとも、国内の防衛産業の育成にも一定の配慮をしていくのか。
政府は、難しい課題を突きつけられた形です。

来月5日、トランプ大統領が就任以来、初めて、日本を訪れます。

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言うまでもなく、トランプ氏の政治信条は、アメリカ・ファースト。外交では、相手国に「バイ・アメリカン」を迫り、アメリカ企業の利益と雇用を生み出すための武器購入を促してきました。5月にサウジアラビアを訪問した際には、日本円にして12兆円にのぼる高額の武器の売却に成功しています。安倍総理も2月、国会で、「日本は最先端の技術を用いたアメリカの装備品を導入しているが、これらは、アメリカの経済と雇用に貢献する」と述べ、トランプ氏の姿勢に協力する考えを示したことがあります。もちろん、今回のトランプ氏の来日で、何か、大型の装備品の売却案件が成立するわけではありませんが、北朝鮮の脅威が高まるなか、日米同盟をより強固なものにすることが、首脳会談の眼目になることは間違いないでしょう。
トランプ氏との協調を重視する安倍政権のもと、今後も、防衛装備の対米依存の傾向は、加速していく可能性が高いと思います。
日米同盟の抑止力を強化するためにも、自衛隊は、アメリカ軍と共通の高性能の装備を保有するべきだという意見があります。
ただ、日本政府が、装備の導入や契約にあたって、価格や納期などの面で、アメリカ政府に強く物を言えないように見えているとすれば、防衛力の整備に一定の理解を示している国民であっても、釈然としない気持ちを持つかもしれません。
政府は、対米交渉にあたって、こうした国民感覚に思いを致す必要があると思いますし、私たちも、防衛費を最終的に負担することになる納税者の立場から、防衛装備をめぐる現実を、しっかり認識しておく必要があると思います。

(増田 剛 解説委員)

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