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「電気自動車 普及に向けた課題」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

大手自動車メーカーの「トヨタ自動車」と「マツダ」は、きょう、お互いの株式を持ち合う提携関係を新たにスタートさせました。背景には、環境への配慮から、電気自動車の需要が世界的に高まるという見通しがあります。

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きょうは自動車メーカーの電気自動車開発の取り組みと、電気自動車の普及にむけた課題について考えます。トヨタ自動車とマツダは、きょう、お互いにおよそ500億円を出資して相手の株式を取得しました。

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両社は、おととしから自動車の環境技術など幅広い分野で業務提携を行ってきました。それが資本提携にまで踏み切った大きな狙いは、電気自動車の開発での協力です。両社は、高いエレクトロニクス技術をもつ自動車部品メーカー「デンソー」も加えて新会社を共同で設立しました。モーターやバッテリーなど電気自動車の基幹となる技術の開発には膨大な労力とコストがかかります。それを互いに強みをもつ技術をもちよって、コストを抑え、より効率的に行っていくことにしたのです。

トヨタ自動車といえば、いち早くガソリンと電気モーターで動くハイブリッド車を量産。さらに、次の世代のエコカーとして燃料電池車に照準を定め、市場への投入も果たしています。それがいま電気自動車にも力を入れるのはなぜでしょうか。

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背景には、世界的に環境規制が高まる中で、走行時に二酸化炭素を排出しない車に対する多様なニーズが強まっていることがあります。

今年7月フランスとイギリスは、2040年以降のガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する政策を発表しました。さらにも中国でも、同様の措置を検討していることが明らかになりました。

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またアメリカ・カリフォルニア州は、これまで自動車メーカーに一定の割合でエコカーの販売を義務付けていましたが、そのエコカーの対象から「ハイブリッド車」をはずすことになりました。このなかでも、中国が電気自動車に力を注ぐ背景には、環境問題に加え、もう一つの思惑があります。ガソリン車やハイブリッド車では、はるか先を進んでいる日本や欧米のメーカーになかなか追いつけそうにないので、戦う土俵を電気自動車に変えることで、国際競争力を強化しようというものです。

世界最大の自動車市場である中国で将来電気自動車が大量生産されれば、やがて新興国市場にも輸出されて、電気自動車の市場が拡大する可能性も考えられます。各国のメーカーとしてはそうした事態も想定し、品揃えの強化にむけた開発に力を注がざるを得ないといったところでしょうか。

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実際にヨーロッパでは、ドイツのフォルクスワーゲンが、傘下のブランドを含めて、2025年までに、電気自動車を50車種投入すると発表しました。またドイツのダイムラーは、高級車ブランド「メルセデス・ベンツ」のすべての車種を2022年までに電気自動車など、電気で走る車にする計画です。
さらに日産自動車とルノー、それに三菱自動車工業の3社のグループも、2022年までに、電気自動車を新たに12車種発売すると発表しました。

さてここからは日本の電気自動車の現状についてみてみます。
電気自動車は、航続距離が短いことが課題でしたが、先月日産自動車が発売した新型車は一回の充電で最大で400キロ走れるといいます。単純計算で、東京から滋賀県まで充電なしで走行できることになります。価格は、最も安いモデルで、税込みで315万円。電気自動車を普及させる目的で国が出している補助金を受ければ、実質的に300万円を切ることになります。出先で充電できる公用の施設も全国でおよそ2万8000基できていて、日常生活での使用には、ほぼ問題ないレベルにまできたという評価も出ています。

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こうしてみると、電気自動車時代はすぐそこまで来ているという印象がありますが、実際に社会に広く普及するには、まだ多くの課題が残っています。続いてはこの課題について買う側作る側の観点、そして社会的視点から見ていきたいと思います。

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まず買う側にとって気になるのは、使い勝手のよさです。たとえば充電時間をみてみますと、家庭で充電する場合は数時間。急速充電ができるステーションでも30分から1時間程度必要になります。さらに航続距離が伸びたといっても、燃費の良いハイブリッド車やディーゼル車の中には一回の給油で1000キロ以上走る車もあります。電気自動車で航続距離を伸ばそうとすると、バッテリーの容量を大きくしなければならず、その分値段も高くなります。

そこでメーカーにとっては、そのバッテリーの製造コストをどう抑えるかが最大の課題となります。コストを下げるには生産量を増やすことが必要ですが、1年に50万台のバッテリーを製造できる工場をつくるのに、およそ5千億円の投資が必要だといいます。

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その一方で、バッテリーを大量につくれば、原材料となるリチウムやニッケルといった鉱物資源の価格が高騰するおそれがあります。実際に中国ではおととしから去年にかけて電気自動車の生産が大幅に増えるにつれ、リチウムの価格が3~4倍に高騰しました。バッテリーの製造コストの削減が思うように進まない可能性もあるんです。

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さらに、メーカーにとって悩ましいのは、電気自動車の普及の行方が正確に見通せないことです。純粋に電気だけで走る車の市場は、20年後でも全体の15%程度ではという見方もあります。果たして大量の投資に見合う利益を手にすることがきるのか、いわば手探り状態です。こうした中で、今後もトヨタとマツダのように、膨大な労力とコストを、グループを組むことで分担してやっていこうという提携の動きが広がることも予想されます。

最後に社会的視点です。電気自動車が普及しても、それが必ずしも二酸化炭素の排出削減につながらないおそれがあります。電気自動車は、走行中こそ二酸化炭素を排出しませんが、動力のもととなる電気を生み出す過程、つまり発電の仕方によっては、二酸化炭素の排出が増えることになるからです。
たとえばヨーロッパのように原子力や再生可能エネルギーの割合が高ければ、その分、二酸化炭素の削減効果が期待できます。一方、中国のように効率の悪い石炭火力発電所が多ければ、電気を生み出す過程で余計に二酸化炭素を排出することになります。
その点、日本はどうでしょうか。福島の事故以来、原子力には根強い抵抗感があり、発電の主力は火力です。電気自動車が普及しても二酸化炭素の排出は期待したほど減らないということにもなりかねません。

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地球の温暖化防止が叫ばれる中、二酸化炭素を排出しない電気自動車は、エコカーの有力な選択肢となっています。市場の拡大が見込まれることで、商品価値をあげようというメーカー間の競争は一段と激しくなりそうです。
しかしその電気自動車をどうすれば本当の意味での二酸化炭素の排出量の削減に結び付けていくことができるのか。再生可能エネルギーの拡充などエネルギー政策のあり方も含め、社会全体で考えていく必要があるように思います。

(神子田 章博 解説委員)

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