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「進むか ベンチャー宇宙ビジネス」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

先週末、H2Aロケットが日本版GPSの打ち上げに成功。29回連続での成功。
このように日本でロケット開発といえば国主導が常識。それを打ち破ろうと、民間初の宇宙ロケットが、打ち上げられた。
開発したのは社員14人のベンチャー企業。
ベンチャーによる宇宙ビジネス参入は衛星の分野でも。
この先うまくいくのかその可能性について水野倫之解説委員の解説。

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解説のポイントは民間ロケット、どうやって開発されたのか。
ターゲットとなる欧米で拡大する超小型の宇宙ビジネスについて。
ベンチャー宇宙ビジネスの課題。

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民間初の宇宙ロケットは全長10mとH2Aの5分の1、超小型。
先月30日、700人が見守る中、北海道大樹町の施設から高度100キロの宇宙空間を目指して打ち上げ。

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しかし途中で機体が破損したと見られ、エンジンが緊急停止されて海に落下。
到達高度は20キロと宇宙には届かなかったものの、さまざま飛行データが得られているといい、民間ロケット実用化に向けて大きな一歩。

開発したのは北海道のベンチャー企業。
社員は大学で宇宙を学んだ若者を中心に14人。実業家の堀江貴文さんの出資を受けて、4年前から本格的に開発。

彼らが目指したのは国産ロケットの価格破壊。
これまでH2Aのような国のロケットは世界最高性能を目指して特注品で、専用施設で製造・試験されるため打ち上げ費は100億円と、ベンチャー企業では手を出せない。
そこでこの会社では機体を徹底的にシンプルにし、手作りすることに。工作機器も中古。
「これなんかオークション、ですね。」
また部品もすべて市販品。IT技術が進化しロケットにも使えるセンサーやカメラは小型化、高性能、低コスト化が進み、ネット通販や専門店でまとめ買い。
さらにエンジンの試験も、町の実験場を格安で借り、試験設備もすべて自分たちで準備。

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初打ち上げで宇宙の夢はかなわなかったが、市販品で開発されたロケットが20キロまで到達したことに専門家からも評価の声。
将来的にはコストを大型ロケットの100分の1に抑えた超小型ロケットの開発を目指しており、すでに商社と業務提携。

それは彼らの狙いが、急成長している超小型衛星の打ち上げビジネスだから。
気象衛星ひまわり、大型で重さは3.5t、200億円以上。
これに対して超小型衛星は大きさ数10センチで100キロ以下、数億円以下と格安。

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電子部品の小型化でアメリカを中心に実用化が進み、解像度は大型衛星にはかなわないものの数十基以上打ち上げて毎日決まった地点を撮影し、得られたビッグデータを解析して利用する動き。

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たとえば広大な農場を毎日撮影し作物の育成状況の管理。また森林で火災が起きていないか監視も。

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最近は利用の幅が広がり、例えば石油タンクの影を超小型衛星で撮影し続けることで世界中のリアルタイムの石油備蓄量を推計し、データを石油の先物取引や需給調整に生かそうという。

ショッピングモールの駐車場で車の数を撮影し続けてモールの業績を予測し、その情報を投資家に売る。

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すでにアメリカのベンチャー企業が始めているビジネス。
欧米には衛星・ロケット関連のベンチャーが1000社近くあるといわれ、関連ビジネスの拡大で世界の宇宙産業の市場規模は23兆円に成長。
超小型衛星の打ち上げは2020年には年間500機まで増えるという予想も。専用の超小型ロケットの開発競争も。

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一方の日本。宇宙利用は今も国主導、官需に頼る大企業中心で、宇宙産業は年間1兆円にとどまる。
ただそうした中、新たな動きも。

東京日本橋にあるベンチャー企業は大学で超小型衛星の研究をした若者が中心に立ち上げた。年末に打ち上げ予定の衛星の試験。この会社ではこうした衛星を数億円で製作して将来50機打ち上げて毎日地球を撮影し、農場や石油パイプラインの監視などを行うビジネスを検討。

しかしこうしたベンチャー企業はまだ日本では少なく、実績もほとんどない。
アメリカを中心としたベンチャーによる新たな宇宙ビジネスの動きは早く、うかうかしていると、日本だけ取り残される可能性も。

そうならないためにはベンチャー企業の努力も必要だが、政府がベンチャーが参入しやすい環境づくりをしていくことも重要。
これまで宇宙航空機構が関わる形でしかできなかったロケットの打ち上げを、国の許可を得れば誰でもできるようにする宇宙活動法を成立させた。万が一、打ち上げに失敗した場合、保険でカバーできない損害を国が肩代わりして補償する内容で、ベンチャー企業も参入しやすくはなったが、これだけでは十分とは言えない。

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というのもアメリカでは2000年代以降、NASAが火星探査などに集中する一方で、低軌道への輸送などは民間に任せる大胆な方針を決め、技術を開放。
そこに多くのベンチャー企業が宇宙ビジネスに参入するようになった経緯も。

日本もロケット技術をメーカーに移転してH2Aの運用を任せたり、大手電機メーカーに衛星の製造を発注することで民間の技術を育ててはきたが、大企業中心。
今回の打ち上げでは、超小型とはいえロケット開発の難しさも浮き彫りに。
今後はベンチャー企業に、ミニロケットの実験データなどを開放するなど、幅広い支援策の検討を。

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(水野 倫之 解説委員)

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