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「ICBMの脅威 国際社会は」(時論公論)

出石 直  解説委員
津屋 尚  解説委員

北朝鮮はきのう(4日)、ICBM=大陸間弾道ミサイルの初めての発射実験に成功したと発表しました。今回のミサイル発射がどういう意味を持つのか、そして国際社会は北朝鮮の挑発にどう対応していけば良いのか、軍事・安全保障担当の津屋尚委員とともにお伝えします。

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【ICBM“成功“の意味】
Q.きのう発射されたミサイルはどんなもので、どのような意味を持つのでしょうか?

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(津屋委員)
北朝鮮は「火星14型」と呼んでいます。防衛省によりますと、「火星14型」は、およそ40分間飛んで、高度2500キロ以上に達したあと、900キロ離れた日本の排他的経済水域内に着水しました。発射は、飛距離をわざと抑えて、高い高度まで打ち上げる方法(ロフテッド軌道)で行われましたが、通常の打ち方であれば、アラスカにも達する5500キロ以上を飛んだ可能性があるとみられています。
アメリカ政府はこのミサイルがICBMだったとの見方を示し、世界に衝撃が走りました。

(出石委員)
北朝鮮の国営メディアの報道によれば、発射にはキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長も立ち会いました。

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発射されたミサイルは2段式で「新たに開発した大型の核弾頭の装着が可能だ」と伝えています。

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キム・ジョンウン委員長は、核を放棄するための交渉には応じない考えを強調したうえで「アメリカは我々からの贈り物を不快に思うだろうが、今後も大小の贈り物を頻繁に贈ろう」と挑発的な言葉で今後も核実験やミサイル発射を続けることを示唆しています。アメリカを核攻撃できる能力を備えることこそが体制存続の唯一の手段と信じ込んでいる北朝鮮としては、これで核大国アメリカと対等に渡り合えると、今回の発射成功を大きなステップと位置づけているのではないでしょうか。

【日本の安全保障にも影響】
(津屋委員)
北朝鮮のICBMが完成するかどうかは、アメリカだけでなく日本の安全保障にも大きく影響する問題です。影響を受けるのは、アメリカの「核の傘」への信頼です。

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北朝鮮が日本を核で攻撃すれば、アメリカによる核の報復攻撃を招くため、北朝鮮は日本への攻撃を思いとどまる。これがアメリカの「核の傘」の論理です。

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ところが北朝鮮がICBMでアメリカ本土を攻撃できるようになるとどうなるか。日本に代わってアメリカが北朝鮮を核で報復すると、今度はアメリカ自身が北朝鮮から核の報復攻撃を受ける可能性が出てきます。

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アメリカは自国が核の攻撃にさらされるリスクを侵してまで日本を守ってくれるだろうか、という疑問が生じてくるのです。

【アメリカの受け止め】
Q.アメリカは、今回のICBM発射成功の発表をどう受け止めているのでしょうか?

(津屋委員)
ミサイルが表向きうまく飛行していたとしても、ICBMが完成したとは言えません。アメリカは、ICBMが完成したと言えるだけの技術を北朝鮮がクリアしているかどうかは分析が必要だとしています。

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鍵になるのは、弾頭が宇宙空間から大気圏に猛スピードで再突入する際の衝撃と、数千度にもなる高熱に耐える技術です。
ミサイルの弾頭部分は、燃え尽きることなく海に落下しましたが、大気圏再突入の実験が成功だったのかどうかはわかりません。再突入では、弾頭が変形しないだけでなく、内部の精密装置が壊れないこと、そして、狙った通りの場所に落下したのかも重要です。こうした技術の確立には通常、繰り返しの発射実験が必要なので、北朝鮮は今後、更なる発射を行う可能性が高いと思われます。

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ICBM完成のもう一つの条件である「弾頭の小型化」を、北朝鮮はすでに手にしているとの見方が有力です。
問題の「大気圏再突入」の技術を完全な形でマスターすれば、アメリカ本土が北朝鮮の核ミサイルの射程内に入るという、アメリカにとっては許容しがたい事態になります。

【国際社会の対応は】
(出石委員)
ここからは、どうすれば核・ミサイル開発をやめさせることができるのか、考えていきたいと思います。

(津屋委員)
トランプ政権は、中国の役割に期待していますが、その成果は不十分だと不満をつのらせています。北朝鮮と取引のある中国企業などへの独自制裁も行い、北朝鮮への資金の流れを絶というとしていますが、効果のほどは未知数です。
こうした中で、アメリカが再び軍事的圧力を強める可能性が出てきました。ミサイルの発射後、アメリカ軍は韓国軍と合同で軍事演習を行いましたし、朝鮮半島沖からいったん引かせていた空母を、再び派遣して、けん制を強める可能性もあります。

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そしてトランプ大統領は今も、軍事攻撃の選択肢を排除していません。
北朝鮮の核武装を阻止する手段がついえていけば、アメリカの主要都市が北朝鮮の核の脅威にさらされるようになる前に、北朝鮮を軍事攻撃すべきではないかといった声が政権の内部だけでなく、アメリカ国民の間でも強まる可能性も否定できません。アメリカの世論の動向も注意してみていく必要があります。軍事攻撃は大きな犠牲を払うことになる可能性が高く、それ以外のあらゆる可能な手段を尽くさなければならないと考えます。

(出石委員)
鍵を握っている中国の習近平主席とロシアのプーチン大統領は、今回の発射を受けて共同で声明を発表しました。

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まず今回の弾道ミサイル発射は国連安保理決議違反であり受け入れられないと強く非難。その上で、北朝鮮が核・ミサイル開発を凍結するのと引き換えに、北朝鮮が強く反発しているアメリカと韓国による大規模な合同軍事演習を停止すべきだと提案しています。私はこの“核開発の凍結”が今後のキーワードになるのではないかと思っています。

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核開発の凍結は、韓国のムン・ジェイン大統領も主張しています。まず核・ミサイル開発を凍結させ、その次の段階で非核化を実現しようという2段階のアプローチです。「凍結」はあくまでも「入り口」、「出口」で非核化を実現するという考え方です。北朝鮮がいっこうに挑発をやめようとしない現状では、核開発の凍結は、これ以上状況を悪化させないという意味で現実的なアプローチなのかも知れません。
▽ただ軍事演習を停止すれば核開発の凍結に応じるのか、▽仮に凍結できたとしてもそれをどうやって検証するのか、▽さらにその先に非核化という出口が本当にあるのか。▽そもそも北朝鮮が核開発を続けると断言している中での凍結に果たして意味があるのかという根本的な疑問もあります。日本やアメリカは、北朝鮮が核の放棄を約束することから始めなければ意味がないという立場で、国際社会も一枚岩ではありません。

【まとめ】
(津屋委員)
北朝鮮に確実にストップをかけられる手段を国際社会は見つけ出せていません。日本の安全保障環境をも大きく変えることになりかねないICBMの完成まで残り時間は少なくなり、北朝鮮非核化へ道はいっそう厳しくなっています。その現実が私たちに突きつけられているように思います。

(出石委員)
日米韓の提案で、この後、国連安保理で緊急会合が開催されることになりました。
7日からハンブルクで始まるG20サミットには、日本、アメリカ、中国、ロシア、韓国と北朝鮮を除く6か国協議のメンバーの首脳が顔を揃えます。対話重視か圧力重視か、凍結が先か非核化が先かといった立場の違いはありますが、まずは国際社会全体が強い危機感を共有し、この問題に最優先で取り組んでいくことが求められると思います。

(出石 直 解説委員 / 津屋 尚 解説委員)

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