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「"タイムライン"の大雨対策」(時論公論) 

山﨑 登  解説委員

今日は台風3号と梅雨前線の影響で、九州から東北の各地で大雨となりました。台風は、現在、関東地方の南の海上を東に進んでいて、この時間は関東地方などで強い雨が降っているところがあります。最近、台風などの大雨対策として注目を集めている「タイムライン」と呼ばれる新しい防災対策を紹介しながら、自治体と住民の大雨対策を考えます。

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《タイムライン防災》

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 災害にはそれぞれ特徴があって、その特徴を踏まえた対策を進めることが重要です。地震と違って台風などの大雨は、段階を追って災害の危険性が高まっていくのが大きな特徴です。雨が降り始めてすぐに町が水に浸かったり、大きな川が決壊することはまずなく、川の水位が上がり、さらに大雨が続くことによって被害が発生します。
 「タイムライン」はそこに着目した対策で、「事前の防災行動計画」と呼ばれています。具体的には災害が起きると予測される時刻に向かって、「いつ」「誰が」「何をする」かを事前に決めておき、それを実行に移していきます。

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たとえば台風の予報で、5日後に自分の町に台風が上陸すると予想される場合、5日前に自治体は態勢をとり始め、4日前には台風の情報を住民に周知します。3日前には水門などの防災施設を点検し、2日前に大雨警報が出たら住民に避難の準備を呼びかけるとともに避難所を開設します。そして当日になって土砂災害警戒情報が出たり、いつ川が氾濫してもおかしくない「はん濫危険情報」がでたら避難勧告を発表し、台風の上陸時刻には公共の交通機関を停止させ、消防団や警察官も安全を確保するために待機するというように、対策を実施する時期と担当者をあらかじめ決めておくものです。
「タイムライン」は台風のように一定の準備期間がある災害に、より効果を発揮します。

《タイムライン防災の効果》
 「タイムライン」に期待が集まる背景には、最近の災害で自治体の対応が遅れたり、避難勧告がでなかったりして大きな被害がでたからです。

 (ニュースVTR)

一昨年の9月に茨城県常総市の鬼怒川が決壊し、多くの住宅が流された際には、災害が起きた地区に避難勧告が発表されていませんでした。また去年の8月、台風10号の影響で高齢者施設が水に浸かり9人が亡くなった岩手県岩泉町の災害でも、町の対応に問題が指摘されました。
こうした災害を受けて「タイムライン」は時系列に沿って対策を進めることで、様子を見ていたら避難勧告を出すタイミングを逃してしまったとか、防災の部局が住民からの多くの問い合わせに対応していて福祉施設に連絡できなかったなどといった対策の遅れや漏れを防ぐ狙いがあります。

(ニュースVTR)

全国で最も早く「タイムライン」を策定した三重県紀宝町では、平成26年の台風8号が接近した時にタイムラインに沿って対策を進め、接近の3日前にはポンプなどの施設や自家発電設備を担当者が点検し、最接近した日の朝には「避難を決定したときには、すみやかな避難をお願いします」と防災行政無線を通じて住民に呼びかけました。
台風8号の直撃はありませんでしたが、役場の防災担当者は「早い段階から役場や防災機関と情報の共有が図れ、それぞれの役割を確認できた」と手応えを感じていました。また住民からも早めの呼びかけで避難の心構えができたという反応がありました。
今回の台風3号でも、熊本県の球磨村や人吉市、長崎県の諫早市などがタイムラインに沿って対応をとりました。

《地域のタイムライン》
こうしてタイムライン防災は自治体の取り組みとして広がっていますが、最近になって住民が独自に策定しようという動きがでてきました。

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東京都足立区を流れる一級河川、中川の周辺の14の自治会の集まりです。中川は荒川と江戸川に挟まれた標高の低いところを流れる川で、周辺は昭和22年のカスリーン台風の大雨で1mから2mも浸水する大きな被害を出しました。

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2年前の関東東北豪雨の際に、中川がいつ氾濫してもおかしくない水位に達し、カスリーン台風の被害を覚えていた年配の住民や自治会長から対策を進めておく必要があるという意見がだされ、勉強会が始まりました。その勉強会の中で「タイムライン」防災のことを知り、地域ならではの避難に特化した「タイムライン」作りに乗り出しました。

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たとえば台風上陸の3日前には自宅の周りの点検をし、風で飛びそうな植木鉢を片付けたり、避難する際に持って行く最低限の食料や水、薬などを確認します。2日前になったら避難に時間のかかる高齢者や身体の不自由な人を避難させ、当日は足立区から避難勧告が発表されたら住民がすみやかに避難するといった計画を作ろうというのです。
私が取材した先月11日の勉強会には50人ほどが集まり、7人から8人のグループにわかれて問題点や課題を話し合っていました。

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あるグループでは「高齢者を避難させるといっても、誰が介助するんだ」という疑問が出され、「民生委員に頼もう」という人いました。ところが「民生委員も70歳を越えているが大丈夫だろうか?」といった感想がでていました。また別のグループでは「避難所まで遠い人は近くのマンションに避難させてもらったらどうか」という意見がだされましたが、「マンションは自治会に入っていない人が多く付き合いも薄い」といった声が上がっていました。
こうした一つ一つの問題は災害の時には現実の問題となります。それを事前の話し合いの中で解決策を探っておこうというのです。中川地区の自治会では、今年の秋頃までに地区のタイムラインを作りたいということです。

《タイムライン防災の課題》
 こうして「タイムライン」は台風など大雨対策の切り札のようにみられていますが、どんな対策も万全ということはありません。課題を2つ指摘したいと思います。

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①一つは自治体と地域の住民の連携です。国土交通省が進めていることもあって、現在、全国の700を超える市町村がなんらかのかたちでタイムラインの考え方を防災対策に生かしたり、生かそうとしています。しかし足立区のような地域の住民レベルの動きはまだほとんどありません。言うまでもなく防災は現場の住民が行動することで初めて効果が出ます。国土交通省と自治体は「タイムライン」による防災を進める以上、地域の住民と一緒になって防災をさらに前に進める必要があると思います。

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②2つめは「タイムライン」の習熟と改善です。作ったタイムラインを従来の多くの防災計画やマニュアルのように棚に並べておくだけでは、いざというときに役立てることができません。台風や大雨の危険があるときに、実際に自治体の職員や防災機関が動いてみて、時系列に沿って誰からの指示がなくても対策が進められるように習熟し、できたこととできなかったことを整理し、常に改善を繰り返しておくことが重要です。

台風3号は関東地方の南の海上を東に進んでいて、今後、日本から離れてい
きますが、明日は梅雨前線の影響で西日本でまた大雨の恐れがあります。気象庁や河川の管理者が出す情報は、いずれも自治体や住民に状況に応じた防災行動をとってもらうことが狙いです。従来の防災対策は被害が出た後の対応に重点がおかれてきましたが、「タイムライン」は災害が起きる前の対応に注目した対策です。最近は、かつてはなかったような豪雨が、全国各地で降るようになりました。それぞれの自治体と地域で、タイムラインの考え方を参考に、大雨対策を見直して欲しいと思います。
 
(山﨑 登 解説委員)

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