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「東海道新幹線"想定外"の重大トラブル」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

東海道新幹線で想定外のトラブルが、起きていたことがわかりました。
脱線を防ぐために、2本のレールの内側に設置されている金属製のガードが時速255キロで走っていた列車に接触していたのです。ひとつ間違えれば、大きな事故につながりかねないトラブルでした。JR東海は、二度と起こしてはならないとして対策の検討を進めています。このトラブルの再発防止に何が必要なのか、考えます。

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解説のポイントです。

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▽今回のトラブルの内容と、何がJR東海にとって想定外だったのか、
▽トラブルの原因として、どのようなことが考えられるのか、
▽再発防止に、何が求められるのか、
です。

まず、今回のトラブルを見てみます。

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現場付近(静岡県菊川市)


これは現場付近の写真です。2本のレールの間にガードがあるのがわかります。地震の揺れで脱線しそうになったとき、車輪がここに引っかかってレールから外れるのを防ぐもので「脱線防止ガード」といいます。
2004年の新潟県中越地震で、上越新幹線が脱線したのをきっかけに、JRはそれぞれ独自の方法で地震対策をしていますが、JR東海が開発したのが、このガードです。
東海道新幹線の、上り下り合わせておよそ1000キロの全線に設置する予定で、これまでに430キロに設置が完了しています。
ところが、2017年3月3日、このガードが外れているのが見つかりました。

これがそのときの写真です。

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ガードは長さが4メートルで、4本のボルトで固定されていましたが、すべてがはずれたり、ゆるんだりしていました。
下の図で説明します。図は左上の写真にある平面で切った断面です。

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ガードは、枕木に取り付けられた金具の青い部分の間に挟んで、固定されるようになっています。

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ボルトがゆるんだため、このように抜けて、レールの脇に落ちました。

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この点線は「建築限界」と呼ばれ、列車に物がぶつからないようにするために設けられている重要な境界線です。安全を確保するため、点線から上にガードがはみ出すことは許されません。このため、ガードは仮に外れても、点線の下側に収まるように設計されていて、そのとおり下側に落ちていました。

しかし、3月22日、これが想定外のトラブルだったことが判明します。

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列車の下の台車を検査していたところ、車輪につながる歯車が入った箱の下側に、写真のように変形がみつかりました。これがガードと接触した跡だったことがわかったのです。

では、建築限界の下側に落ちたはずのガードが、なぜ台車と接触したのでしょうか。
ガードが落ちる前のボルトがゆるんでいたとき、列車の振動で、ガードの先端が上下に振動したとみられています。(下の図)
そして、先頭から13両目が通過したときに、ガードの先端が台車の下側に接触したとみられています。

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跳ね上がったガードが、越えてはいけない建築限界の上側にはみ出したというのが「想定外」だったのです。

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外れたガードは1本ですが、1か所でも問題があれば、安全を確保できません。鉄道には、それだけ高いレベルの安全管理が求められているのです。
接触したときのスピードは、時速255キロでした。今回は走行に支障がありませんでしたが、車体が損傷すれば、大きな事故につながりかねない重大なトラブルでした。

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JR東海は、二度と起こしてはならないとして、原因究明や再発防止策の検討を進めています。

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そして、新たな対策が決まるまでの緊急対策として、
▽それまでおよそ3か月に1回行っていたボルトの点検を、1週間に1回に変更することでボルトの状態の監視を強化しています。
▽また、すでに取り付けてある、およそ70万本のボルトすべてを締め直す措置をとり、運行を続けています。

では、ボルトがゆるんだ原因は何だったのでしょうか。
JR東海が調べていますが、まだわかっていません。

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ただ、
▽何らかの要因で、ボルトのゆるみが始まり、
▽列車通過の振動により、そのゆるみが進行した
とみられています。

ゆるみが始まる要因としては、
▽ガードをはさんでいる接合面の表面にある凹凸の影響や、
▽ボルトを締め付ける力が不足していた可能性などがあげられています。

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専門家は、ゆるみ始めたのは、いくつもの要因が複合した可能性も考える必要があると指摘しています。
JR東海には、まずは、どのような要因でゆるみ始めたのか、あらゆる可能性のいわば「洗い出し」を徹底的に行うことが求められています。

原因がわかっていない段階ではありますが、再発を防ぐために何が求められるのか考えてみます。
ひとつは、設計の見直しの検討です。

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現状のガード(図の左側)についていうと、ボルトの締め付ける力は、青色の金具を介して伝わり、ガードを挟み込んでいます。ボルトに詳しい専門家は、「力の伝達が複雑でゆるみを生じやすい構造だ」と指摘しています。

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これを、例えば、ガードにも穴をあけてボルトを差し込んで固定する(図の右側)ようにすると、ボルトの締め付ける力が直接ガードを固定します。この方が、ゆるみが起きにくいといいます。

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また、現状の設計ではボルトがゆるむとガードが外れますが、ガードに穴をあければ、ゆるんだだけではナットに引っかかってガードは外れません。

現状の形は、現場でガードを取り付けやすくするために、このような設計にしたということですが、生命線であるボルトがゆるみやすい状況を生んだ可能性があります。

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開発のとき、ボルトに詳しい社内の技術者や社外の専門家の意見をどこまで聞いたのか。開発に臨む姿勢も含めて検証して、今後の対策に生かさなければなりません。

JR東海は、新たな再発防止策として、一度しめたボルトが回転しないような取り付け方の研究などを進めているとしていますが、要因が複数あることを想定して、二重三重の対策をとる必要があります。

もうひとつ、指摘しておきたいのが、ボルトの点検に課題が残されている点です。

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JR東海は、点検方法を決めるため、ボルトのゆるみを調べる試験を過去に行っています。この試験では、列車の通過1年分に相当する振動を加えても、ゆるみは生じませんでした。
こうした結果などを踏まえて、ボルトの点検をおよそ3か月に1回としましたが、今回のガード脱落を防ぐことが出来ませんでした。
今後、新たな対策が決まった時、何を根拠にボルトの点検間隔を設定するのか、慎重に判断しなければなりません。

地震対策として、脱線防止ガードを採用しているのは、東海道新幹線の他に、九州新幹線があります。

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これについてJR九州は、九州新幹線の場合、枕木がコンクリートに固定されているため、砂利の上に枕木を置いている東海道新幹線に比べて振動が少なく、ボルトのゆるみは生じにくいとしています。1か月に1回としているボルトの点検方法は変更していませんが、今後、原因究明が進む中で、新たな対策の必要がないか、検討が求められます。

東海道新幹線の脱線防止ガード。
JR東海は、これを地震対策の柱として、2028年までに東京-新大阪間の全線に設置する予定にしています。しかし、その有効性の一方で、線路の近くに、こうしたガードを設置することには、リスクが伴います。
そのリスクを、いかにして「ゼロ」にするのか。
1日、45万人を運ぶ東海道新幹線を運行するJR東海には、その答えを示すことが求められています。

(中村 幸司 解説委員)

 

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