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「なぜ起きたか 最悪の内部被ばく事故」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

茨城県の原子力機構の施設で起きた被ばく事故は、国内最悪のプルトニウムの内部被曝事故に。被ばくの程度が重い作業員は、将来健康被害が出るおそれも。核兵器の原料ともなるプルトニウムは放射線のエネルギーが強く、原子力施設では最も扱いに注意が必要な物質とされているのになぜ事故は起きたのか。
国内最悪の内部被ばく事故を水野倫之解説委員が検証。

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解説のポイント
① 被ばくの程度はどれくらいのものなのか。
② なぜ事故は起きたのか。
③ 見直し迫られる安全管理の意識・体制について。

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事故は実験で使い終わったプルトニウムなどを貯蔵する容器の点検中に発生。
作業員が容器を開けたところ、内部の袋が何らかの理由で勢いよく破裂し、プルトニウムの粉末が飛び散った。

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1人の肺からは暫定値でプルトニウム239が2万2,000ベクレル検出。
ベクレルは放射線を出す能力を示す単位で、数値が大きいほど放射能は強い。
そしてこのプルトニウムによる被ばく量は、今後50年で最大12シーベルトに達するおそれも。シーベルトは放射線の人体への影響を表す単位で、ここまでのレベルは過去に例が無く、最悪の内部被ばく事故か。

その理由は2つ。①内部被ばくであるということ②プルトニウムによる被ばく。
被ばくには、体の外から放射線を浴びる「外部被ばく」と、今回のように放射性物質を吸い込んで体の内部が放射線を受ける「内部被ばく」あり。

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外部被ばくの場合は、除染すれば被ばくは抑えられる。
これに対して内部被ばくが厄介なのは、放射性物質が体にとどまり続けて、臓器に長期間ダメージを与える点。

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しかもプルトニウムはおもにα線を出す。
エネルギーが極めて高く、人体へのダメージはより大きい。

今回の被ばく予想は、治療をせずにプルトニウムが体内に残り続けた場合に、50年間少しずつ被ばくし最大12シーベルトになるというもの。

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広島長崎の被爆者の調査から0.1シーベルトを超える被ばくをすると、明確にがんのリスクが高まることが知られている。専門家は、今回はこれ以上の被ばくになることが予想され、すぐに症状が出ることはないものの、将来がんになるリスクが高まるおそれがあると指摘。

そこで作業員は入院。プルトニウムを体の外に排出する薬の投与を受けている。機構として作業員を長期的に支援していくことが求められる。

それにしてもプルトニウムは最も注意が必要とされていたのになぜ事故は起きたのか。

問題点が2つ。
まず作業が行われた設備です。密封されておらず、プルトニウムが飛び散る危険あり。

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私はこれまでの取材でプルトニウムについてはいずれも密閉された容器の中でしか見たことがない。
去年取材したフランスのプルトニウム燃料工場でもそうだった。
危険な物質なのですべての作業は遠隔操作。
燃料用に加工されたプルトニウムの塊の点検作業も密閉された容器内で。
今回もこうした密閉容器内で作業を行っていれば、被ばくは防げた可能性あり。

2点目は装備。
当時作業員がしていたマスクは顔全面を覆うものではなく顔の下半分を覆う半面マスク。
全面マスクは多少息苦しく感じるものの顔の露出がなく、放射性物質を吸い込む危険性は減る。

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これに対して半面マスクは顔との間に隙間ができやすく、今回もこうした隙間からプルトニウムを吸い込んだ可能性。
なぜ原子力機構はより安全性の高い設備や装備にしなかったのか。

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機構は、袋が破れることは想定できなかったため、密閉容器などを使わず、マニュアル上も問題なかったと説明。

しかし安全管理体制の甘さやマニュアルに問題なかったか。
今回プルトニウムがどんな性状で保管されているのかきちんと把握されてなかった。
組織全体に危険な核物質を扱っているという自覚や緊張感が欠けていたと言わざるを得ない。
原子力規制庁の指摘も受け、機構は施設の廃止に向けて保管状況確認のため、今回点検を始めた。
容器も、26年前にふたをして以降の管理状況の記録がないため、点検は行われてこなかったと見られる。

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この間に何らかのガスが溜まっていったことなどが考えられる。
長期間管理されず保管状況がわからないプルトニウムを扱うときには、あらゆることを想定すべきで、より安全性に配慮した設備や装備で作業を行うようマニュアルを改定しておくべきだった。

こうした機構の緊張感や安全管理体制の甘さは、高速増殖炉「もんじゅ」でも厳しく問われた。。機構は、老朽化などで49の施設を順次廃止していくことを明らかにしており、同じように管理がずさんな放射性物質があることもわかっている。
この際、安全意識の改革を徹底して行い、マニュアルを見直すなどしていかなければならない。

(水野 倫之 解説委員)

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