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「進む少子化 どうする?子育て支援の財源」(時論公論)

藤野 優子  解説委員

日本の少子化が一段と進んでいます。
一人の女性が一生涯のうちに産む子どもの数を示す出生率。この数字が去年は1.44と前年より低下し、出生数も初めて100万人を下回ったことが今月発表されました。
安倍政権は子育て支援の強化を掲げていますが、依然として、少子化に歯止めがかからないという厳しい現実。
こうした中、政府は、先週、経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる「骨太の方針」に、人材への投資として、「幼児教育や保育の早期無償化」を打ち出しています。

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きょうは、
▼一段と進む少子化の現状と子育て支援策の遅れ
▼政府が新たに打ち出した、幼児教育・保育の無償化の課題、そして、
▼子育てを社会全体で支えるために、私たちはどのように財源を負担しあえば良いのかについて考えます。

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まず、今月発表された少子化の現状です。
これは、一人の女性が一生涯のうちに産む子どもの数を示す「合計特殊出生率」と出生数の推移です。出生率は、2005年に1.26と底を打った後、やや回復傾向にありましたが、去年は1.44と、前年より0.01ポイント低下しました。また出生数も97万7000人と、初めて100万人を下回り、統計を取り始めてから最も少なくなりました。
これは出産できる年齢の女性の数が減少していることが大きく影響していますが、加えて、20代や30代前半の出生率も低下。依然として少子化に歯止めがかからない状態が続いているのです。

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また、政府が力を入れてきたはずの待機児童対策も遅れています。
安倍総理大臣は当初、今年度末までに待機児童をゼロにすることを目標に掲げ、保育施設の整備を進めてきました。ところが、出産後も働く女性が急増し、今年4月時点の待機児童数は暫定で2万3700人、去年より増加しているのです。
このため、安倍総理大臣は先日、待機児童解消の目標期限を3年先送りすることを表明し、来年度からの3年間で新たに22万人分、さらにその後の2年間で10万人分の施設を整備する計画を明らかにしました。
しかし、施設の増設には新たに数千億円、運営費だけで2000億円以上の財源が必要となります。今でさえ、保育士不足や近隣住民の反対で施設が開園できない状況に追い込まれているところも増えています。このため、自治体の担当者からは3年後に待機児童解消などできるのかと、懐疑的な声も広がっています。

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こうした中、政府は、先週閣議決定した、いわゆる骨太の方針に、人材への投資という位置づけで、「幼児教育と保育の早期無償化」を打ち出しました。
背景には、経済的に厳しい子育て家庭が増えていることがあります。
いま、幼稚園や保育所の利用料は、各家庭の所得や子どもの年齢などに応じて決まっていますが、平均するとひと月2万円台から3万円台。しかし、子どものいる世帯の平均所得はこの20年で年間70万円近くも下がり、しかも低所得の世帯の割合が増えています。少子化に悩む他の主要国が、保育施設の整備とあわせて、幼児教育や保育の無償化を進めている中で、日本も、子育て家庭の負担軽減にもっと力を入れるべきだという指摘は従来から出ていました。

しかし、ここでも問題は財源。政府の推計では、仮に0歳から5歳の子どもの利用料を無償化すれば1兆1700億円の財源が必要になります。
今の深刻な待機児童の状況や労働市場が人手不足という事を考えれば、まず、待機児童の解消が先ではないかという指摘も出ているのです。

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では政府は、これらの子育て支援の財源をどう確保するつもりなのか。骨太の方針には、歳出の見直し、増税、新たな社会保険料という3つの選択肢を示し、年末に結論を出すとしています。その中で、一つの案として検討されるのが、自民党の若手議員が提案した「こども保険」構想です。
改めてその仕組みを簡単に説明しておきますと、サラリーマンや企業が払っている厚生年金の保険料や、自営業の人などが払う国民年金の保険料に上乗せして新たに保険料を負担してもらって、その財源を、幼児教育・保育の無償化や待機児童対策にあてようという考え方です。
この構想の根底には、高齢者の医療や介護を社会全体で支えるのと同じように、子どもの育ちを社会全体で支えていこう。高齢者に偏っている社会保障費を、もう少し子どもや現役世代にシフトさせて全世代型の社会保障に転換しようという狙いがあります。
現役世代の所得の低下や地域のつながりが希薄になっている中で、大変重要な提案だと私も思いますし、これまでも政府内で何度かこうしたこども保険の構想が浮上していました。

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しかし、それがこれまで実現しなかったのは、具体的な制度の設計を考えると様々な問題があるからです。
例えば▼子どもがいない人は保険料を負担してもメリットがないのではないか、▼高齢者に負担を求めないのは不公平、▼そもそも保険はリスクに対応するもので、保険の仕組みになじまない、という指摘もあります。しかし、一番問題だと思うのは、「保険制度」である以上、保険料を納めていない人は原則給付を受けられないという問題です。特に、国民年金の保険料は一定額のため低所得の人ほど負担が重く、今でさえ保険料を払えない人が多くいます。しかし、考えてみてください。生活が苦しく保険料が納められない家庭の子どもこそ、手厚い支援を受ける必要があるのです。

そう考えれば、保険という形ではなく、本来なら所得再分配機能のある税で財源を賄うのが筋でしょう。しかし、「消費増税は政治的なハードルが高く、保険料の引き上げの方が国民の理解を得やすい」という意見が出ています。ですが、税も保険料も同じ財布から負担しています。これまで「とりやすいところからとる」という方法を続け、政治が必要な給付に見合う増税を決断してこなかったことが、少子化対策や社会保障改革を遅らせてきた大きな原因であり、何度もこども保険の構想が浮上するのも、そのためだと言及しておきたいと思います。

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では、どのように子育て支援の安定的な財源を確保すればよいのか。参考になる一つの例がフランスです。フランスは子育てを社会全体で支えるという考え方にたって、「企業と国民全体で広く」子育て支援、家族支援の財源を負担しあっています。
財源の6割は、企業が負担する「拠出金」。賃金の3~5%を負担しています。そして、国民にも、賃金、年金、資産などあらゆる所得への課税を上乗せして、拠出金(社会保障目的税のような形で)を負担してもらっています。そして、家族手当や保育所への補助、育児休業中の所得保障など、様々な家族支援の財源をまかなっているのです。日本とは、税や保険料の負担の大きさが違うという面もありますが、日本も、フランスのように、国民全体でという考え方にたって、▼所得税に上乗せしてはどうかという意見や、▼年金だけでなく、医療や介護の保険料にも上乗せして「拠出金」を出してもらってはどうかという案も出てきています。

これから急激な人口減少に直面する日本。少子化のスピードをどこまで緩めることができるかが、これからの社会保障の給付や社会のあり方に大きな影響を及ぼします。今回の議論を一過性のもので終わらせずに、「なぜ今、子育て支援のために新たな負担が必要なのか」「税か保険料か」など、しっかりと制度設計をつめた上で、社会全体で子どもや子育てを支えるという明確なメッセージと安定財源を打ち出してほしいと思います。

(藤野 優子 解説委員)

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