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「対話と圧力 北朝鮮にどう向き合うか」(時論公論)

出石 直  解説委員

北朝鮮はけさ(29日)日本海に向けて弾道ミサイルを発射しました。
去年を上回るペースで発射を重ねています。そんな北朝鮮に国際社会はどう対応すれば良いのでしょうか。「対話」と「圧力」をキーワードに考えてみたいと思います。

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「対話か圧力か」ではなく、あえて「対話と圧力」としたのには理由があります。
「これまで何度も北朝鮮に騙されてきたではないか」という反論もあるでしょう。
確かに北朝鮮は国際社会との約束を何度も反故にしてきました。ただ「対話」と「圧力」、
どちらか一方だけではこの問題は解決しないことを是非、ご理解いただきたいと思います。

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解説のポイントです。
▽去年を上回るペースで弾道ミサイルの発射を続けている北朝鮮。その狙いはどこにあるのでしょうか。
▽次に、北朝鮮を取り巻く国際情勢についてみていきます。
アメリカと韓国には新しい政権が誕生しました。国際社会は「対話」と「圧力」どちらの方向に向かっていくのでしょうか。
▽そして最後に「対話」と「圧力」のバランス、日本は拉致問題も解決しなければなりません。そのためには「圧力」だけでなく「対話」も必要です。その使い分けについて考えます。

【北朝鮮の狙い】
まず北朝鮮の狙いはどこにあるのか。「東方の核強国」、キム・ジョンウン委員長がことしの新年の演説で使ったこの言葉が北朝鮮の狙いを端的に示しているように思います。これまでの5回の核実験で、核兵器をミサイルに搭載できるよう小型・軽量化が進みました。核兵器の運搬手段であるミサイルの能力も多様化させています。
▽去年8月には「潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験に成功した」と発表しました。この発射では、空中にミサイルを放出した後、ロケットエンジンに点火する“コールド・ローンチ”と呼ばれる高度な発射方法が取られたものと見られています。
▽ことし3月には4発の弾道ミサイルをほぼ同時に発射、このうち3発は秋田県男鹿半島沖の日本の排他的経済水域に落下しました。
▽今月14日に発射された弾道ミサイルは新型の中距離弾道ミサイルとみられ、高度2000キロと国際宇宙ステーションの5倍の宇宙空間にまで達したと推測されています。
このように北朝鮮は、エンジンや燃料などの改良によって、ミサイルをより遠くに飛ばすだけでなく、攻撃目標に正確に着弾させる技術、移動式の発射台を使ってどこからでも発射させる技術など、ミサイルの能力を多様化し進化させてきています。
そして、その最終目標とされるのが、アメリカ本土にも達する大陸間弾道ミサイル(ICBM)です。
キム・ジョンウン委員長はことし初め「ICBMの試験発射準備が最終段階に至った」と述べており、言葉通りこれが完成すれば、核弾頭を搭載した弾道ミサイルによってアメリカ本土を攻撃する能力を備えることになります。

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北朝鮮は、彼らの言うところの“核抑止力”、つまりアメリカを核攻撃する能力を持つことで自らの体制を維持できると信じ込んでいます。最終目標であるICBMを完成させて「東方の核強国」になるまでは、今後も核ミサイル開発を続けていくと見るべきでしょう。

【国際情勢】
では核ミサイル開発をやめようとしない北朝鮮に対し、国際社会はどう対処しようとしているのでしょうか。

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先日、閉幕したG7サミットの首脳宣言では、北朝鮮を「国際社会の平和と安定を脅かす新たな脅威」と位置づけました。「安保理決議の徹底など国際社会の努力を強めていく」としています。

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ただ国際社会も一枚岩ではありません。
ロシアのラブロフ外相は26日「外交的な解決の可能性をなくすべきではない」と対話重視の姿勢を示し、中国の王毅外相も「韓国の新政権が対話の再開に努力することを望む」と述べました。両国は共にアメリカの迎撃ミサイルシステム「THAAD」の韓国への配備には強く反対しています。

北朝鮮の動向を見ていくうえで、私が注目しているのは、最近、新しい政権がスタートした
アメリカと韓国です。アメリカは「圧力」に、韓国は「対話」に傾いているように見られがちですが、果たしてそうでしょうか。

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トランプ政権は、軍事攻撃をちらつかせたと思えば、キム・ジョンウン委員長との会談の可能性を示唆するなど方向性が定まっていないという印象でした。ようやく固まった基本方針は「最大限の圧力と関与」、つまり「強大な軍事力を背景に強い圧力をかけ続けながら対話の糸口を探る」という硬軟両用の構えでした。オバマ政権が「対話には一切応じない」としていたのに較べれば、対話に踏み出す可能性はむしろ高いと見るべきではないでしょうか。

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次に韓国のムン・ジェイン大統領。選挙前は「ワシントンより先にピョンヤンを訪問する」と発言するなど、極端に北朝鮮寄りの姿勢を取るのではないかと心配されていましたが、大統領に就任してからは軌道修正を図っているように見えます。大統領としての初めての外国訪問はワシントンに決まりましたし、ピョンヤン訪問についても「条件が整えば」とトーンを弱めています。アメリカとの同盟関係を軸に、中国とも関係修復を図りながら北朝鮮の核ミサイル問題の解決に取り組む姿勢を示しています。

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北朝鮮も、アメリカと韓国に対し、これまでの政策を見直すよう執拗に求めています。核ミサイル開発を断念するそぶりは見られないものの、両国の政権交代を機に対話の糸口を探っているものと見られます。

【対話と圧力】
ここまで見てきましたように、北朝鮮への各国の対応には思惑の違いや温度差があります。
しかし、どこも対話一辺倒でも圧力一辺倒でもありません。「対話」と「圧力」のバランス、
その使い分けが重要になってきます。北朝鮮が核実験やミサイル発射を繰り返している現状を考えれば、今は、圧力を強めていく局面です。日米韓の連携を強め、中国やロシアの協力も得ながら国連安保理決議を軸に圧力をかけ続けていくことが必要でしょう。

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一方、日本は拉致問題という深刻で重要な問題にも最優先で取り組んでいかねばなりません。拉致問題を進展させるためには北朝鮮との「対話」も必要です。

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今からちょうど3年前、ストックホルムで行われた日本と北朝鮮の政府間協議で、日本は独自制裁の一部を解除することによって拉致被害者などの再調査を約束させました。この約束はその後、反故にされてしまいましたが、「拉致問題は解決済み」と頑なに主張していた北朝鮮の態度を一度は変えさせたことは重要です。

制裁は科す時と解除する時にもっとも効果を発揮すると言われます。拉致問題が少しでも前に進む可能性があるのであれば、制裁の一部解除をちらつかせて北朝鮮を対話のテーブルに引きずり出すという対応も必要になってくるのではないでしょうか。
国際社会と連携して圧力を強めつつ、対話も模索していく。「対話」と「圧力」の使い分け。
北朝鮮というしたたかな相手には、こちらも、したたかな対応が求められるように思います。

(出石 直 解説委員)

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