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「新センター試験 変えるのは誰のため?」(時論公論)

西川 龍一  解説委員

今の大学入試センター試験に代わって3年後の2020年度から実施される新たな試験について文部科学省の最終案がまとまりました。変えるのであれば受験生ファーストで考えるべきところ、高校側と大学側の言い分の調整がつかないなど、迷走気味だった大学入試改革の議論は、どうなったのでしょうか。

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解説のポイントは3つです。
▽大学入試センター試験に代わる「大学入学共通テスト」の概要は。
▽改革は知識だけでなく、それを活用する力を見るための記述式問題の導入と、話せる、書ける英語力を測ることがポイントでした。記述式、英語に対する不安は消えたのでしょうか。
▽結局2度手間に。2020年度実施にこだわる必要があるのか。

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今回の大学入試改革は、1点刻みの問題ではなく、知識を活用し、自ら判断する力を測れるようにすることが目的です。
今の大学入試センター試験に代わる共通試験は、「大学入学共通テスト」と呼ぶことになりました。実施主体は引き続き大学入試センターが担います。実施は2020年度から。今の中学3年生が受験年齢に差しかかるのが最初となります。出題科目は「国語」や「数学Ⅰ」、「英語」など30科目で、今のセンター試験と同じ1月中旬の2日間で行います。

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「共通テスト」が大学入試センター試験から大きく代わるのは、▽「国語」と「数学」でマークシートに加えて記述式の問題を導入すること、▽英語の「読む」「聞く」力に「書く」「話す」力を加えた4技能を評価すること、この2点が決まっていて、具体的にどうするのかが焦点でした。それぞれどうなったのでしょうか。
まず、記述式問題です。記述式は「国語」と「数学」で出題されますが、このうち国語は、示された文章の内容や解釈、それに基づく考え方などを80字から120字程度で記述する問題など3問程度を出題するとしています。採点は大学入試センターが一括して行いますが、マークシートと違って手間がかかるため、民間業者に委託することにしています。
次に、英語です。こちらは英検やTOEIC、TOEFLのような民間の資格・検定試験を活用することを決めました。民間試験の成績を大学入試センターが管理して、1点刻みの点数ではなく、国際基準に対応した段階別の成績を大学に提供するとしています。センター試験のように「共通テスト」が行う英語の試験は、遅くとも2023年度で廃止する、つまり「共通テスト」の英語はなくなることになります。
こうした実施策は、去年春の専門家会議の報告を受けて、文部科学省が少人数の専門家による非公開の会議で議論を進めていました。最終の実施案は今年3月に示す予定でしたが、1か月以上遅れての公表となりました。意見の調整が遅れたためです。

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記述式にしても英語にしても、去年8月に公表された検討状況の経過報告では、高校側と大学側の言い分の調整がつかない状況でした。今回の最終案は、高校側大学側双方に配慮はしたものの、その分、中途半端な対応となった感は否めません。どういうことなのか。
記述式から見てみましょう。そもそも記述式は採点に手間がかかるため、1次試験の実施時期を前倒しする案や1次試験の採点を各大学が行って2次試験の成績に反映させるといった案が出されていました。しかし、試験の前倒し案は授業が終わる前に試験が行われるとして高校側が難色を示し、採点を各大学が行う案は大学側が採点の負担を担いきれるのかという問題がありました。結局折り合いを付けるため、今回の方式に落ち着いた形です。

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しかし、100字程度を記述させることで、記述式導入の目的である思考力や判断力、表現力を測るのには、いささか心許ないという印象は否めません。50万人以上の答案を短期間で正確に公平に採点するという入試における最大の課題については、ノウハウを持つ民間業者に委託すると言いますが、そもそも国内でそうした規模の記述試験が行われたことはありません。文部科学省は、今年度中に5万人規模のプレテストを行って検証を進めるとしていますが、それでも規模は10分の1に過ぎません。本当に大丈夫なのか、不安は消えません。

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英語はどうでしょう。確かに今のセンター試験の英語では、「読む」「聞く」の2技能しか測ることができません。「聞く」技能を測るために導入されたリスニング問題で、毎年のように機器のトラブルが起きることなどを考えると、すでに一部の入試で利用されている民間の資格・検定試験を活用することは、好都合であることは確かです。社会人になってこれらの試験を義務づける企業も増えていることを考えると、受験生自身にもメリットはあります。ただ、これらの民間の試験は、そもそも入試を想定したものではありません。内容が海外でのビジネス向けなどに偏ったものもあるため、入試に活用するうえで必要な水準を満たしているかどうか、早急に示す必要があります。
民間の試験を利用することには、受験機会の公平性が損なわれるという意見もあります。たとえば1回あたりの受験料は、英検2級は5000円、TOEICは5725円です。離島や遠隔地から受験するとなると、さらに負担は大きくなります。このため、受験回数を高校3年生の4月から12月の間の2回までと制限することにしていますが、それでも不公平感はぬぐえないでしょう。低所得者層への受験料の減免措置などの配慮がなければ、教育格差を広げることにもつながりかねません。

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ここまで来ても実施に向けた課題は解消しつつあるといるというより、まだまだ山積しているようにしか思えない「大学入学共通テスト」ですが、やはり2020年度という実施時期に無理があるように思えてなりません。理由の一つが、学習指導要領改訂時期とのずれです。そもそも今回の大学入試改革は、入試を変えることで高校教育も変えるという目論見がありました。しかし、肝心の高校の教育内容がすべて変わるのは、新しい高校の学習指導要領で学ぶ生徒が3年生になる2024年度のことです。今回の学習指導要領改訂では、地理歴史で日本と世界の近現代史が中心の「歴史総合」が、公民で「公共」が必修科目として新設されるなど、大幅な科目の再編が行われます。結局2020年度から新たな共通テストを実施しても、新学習指導要領にあわせた共通テストの見直し作業をすぐに始めなければなりません。1年前にも指摘したことではありますが、拙速を慎み、熟慮を重ねることが求められるはずの入試改革が、誰のために行われているのか。喜んでいるのは、これから需要が増える民間の資格・検定試験業者や受験産業のように思えてなりません。

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大学入試センター試験はマークシート方式の中でも単に正解を選ぶのではなく、思考力を問うような問題へと工夫を重ねてきました。2020年度に大学入試が大幅に変わることに関連して、全国の大学進学者が多い高校、いわゆる進学校の6割が「指導が難しい」と考えているという調査結果もあります。進学校がそうであれば、それ以外の高校では、大学への進学指導はなおさら困難ということにもなりかねません。混乱を招き、受験生につけを払わせるようなことは、あってはならないと思います。

(西川 龍一 解説委員)

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