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「沖縄復帰45年 意識の溝をどうする」(時論公論)

西川 龍一  解説委員

沖縄は、本土に復帰して45年を迎えました。復帰から半世紀近く。国内のアメリカ軍基地が沖縄に集中する実態は変わりませんが、こうした沖縄の負担をどう考えるべきかという意識が沖縄と本土でかい離していることが、お互いの溝を深めているように思います。今夜はこの問題について考えます。

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沖縄が本土に復帰したのは、1972年の5月15日のことでした。太平洋戦争中、国内で唯一の地上戦が行われ、県民の4人に1人が犠牲となった沖縄は、日本が降伏したあともアメリカ軍が駐留を続け、復帰を果たしたのは、戦後27年を経てのことでした。
住民の土地を強制接収して建設されたアメリカ軍の基地などは、復帰しても残されたままでした。移設が問題となっている普天間基地は、役場や学校、病院などがあり、集落が点在する場所に作られました。沖縄の軍事施設は、こうした住民の農地や住宅を強制接収して建設されたものであることを知っておく必要があります。

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では、沖縄のアメリカ軍施設は、本土復帰を経てどうなったのでしょうか。
復帰当時、沖縄のアメリカ軍施設の総面積は2万8700ヘクタールと沖縄本島の4分の1を占有していました。その後徐々に返還が進み、去年、戦後最大と言われる北部訓練場が返還されたことから、総面積は1万8600ヘクタールと3分の2になりました。しかし、基地の面積が減ったこととは裏腹に、国内のアメリカ軍専用施設のうち、沖縄県の割合は、復帰当時の59%が現在は71%。本土では基地の整理縮小が沖縄以上に進んだ結果、より沖縄に集中しています。沖縄では復帰当時、少なくとも本土並みに基地負担が軽減されると期待されていました。こうした現状が、基地の県内移設では沖縄の負担軽減にはつながらないという沖縄の人たちの思いを強くしているのです。

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改めて歴史を振り返ると、沖縄の置かれている基地負担の状況がよくわかると思います。しかし、沖縄での取材を続ける中で、私は、沖縄と本土の人たちの間で基地負担に対する意識の差を感じて来ました。そのことが、沖縄復帰45年にあたって先月NHKが行った世論調査で明らかになりました。

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まず、日本の安全にとって、沖縄にアメリカ軍基地があることについてどう思うか聞きました。沖縄の人は、「必要だ」「やむを得ない」をあわせた44%が『容認』している一方、「必要でない」「かえって危険」をあわせて48%が『否定』しています。これに対し、全国では71%が『容認』で『否定』の20%を大きく上回っています。

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沖縄のアメリカ軍基地について、沖縄の人は「本土並に少なくすべきだ」「全面撤去すべきだ」をあわせると76%になるのに対し、全国では56%にとどまり、「現状のままでよい」と答えた人が33%と沖縄の2倍以上に上っています。

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普天間基地の名護市辺野古への移設についても聞きました。沖縄では「反対」と「どちらかといえば反対」をあわせた『反対』が63%と多数になりましたが、全国では「賛成」「どちらかといえば賛成」をあわせた『賛成』が47%と『反対』の37%を上回りました。

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こうした調査結果は、基地を巡る沖縄と本土の認識の違いを浮き彫りにしています。本土側からすれば、基地は沖縄に負担してもらうのが当たり前という意識が色濃く表れた形です。
なぜ基地を巡る認識に違いが生じるのか。多くの人たちにとって、基地は遠い存在です。アメリカ軍には陸海空軍と海兵隊という4軍があって、それぞれがどういう役割を担っているのかや、沖縄でもっとも多いのは海兵隊の基地であることすらほとんど知られていません。
一方、沖縄の人たちにとって、基地は身近な存在です。沖縄の海兵隊が反基地運動に追われる形で本土から移ってきたことを知っています。政府は沖縄のアメリカ軍基地は、中国や北朝鮮に対する抑止力のため必要と説明しますが、海兵隊はアジア太平洋地域を巡回して沖縄を留守にすることが多く、嘉手納基地の空軍とは違って抑止力となるのか専門家からも疑問の声があることなども日常的に耳にしています。
「沖縄が日本に甘えているのか、それとも日本が沖縄に甘えているのか」という翁長知事の問いかけへの答えがここに如実に表れているように思います。

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今回の調査には、さらに気になる結果があります。本土の人は沖縄の人の気持ちを理解していると思うか聞いたところ、沖縄では「あまり理解していない」「まったく理解していない」をあわせた『理解していない』が70%に上ったことです。
また、ここ5年ほどの間に、沖縄を誹謗中傷する言動や行動が増えたと感じるか聞いたところ、沖縄の人の57%が「感じる」と答えました。

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確かにここ数年、ネット上を中心に、「辺野古移設反対運動に参加者には2万円の日当が払われている」とか、普天間基地のために土地を接収され、自分の土地に戻れなかった住民が周辺に住まざるを得なかったのに「基地周辺の住民は後から勝手に近くに移り住んだのだから文句を言う筋合いはない」など、デマや偏見に基づくような言説がみられるようになりました。去年、警備のため大阪府警から派遣された機動隊員が基地の反対派の人たちに「土人」「シナ人」と差別発言をする問題も起きました。

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沖縄の基地問題に詳しい研究者やジャーナリストなどは、本当の沖縄を知ってもらわなければならないと冊子を作ったほか、県もこの程「沖縄から伝えたい。米軍基地の話」という問答集を発行しました。デマや偏見に対する危機感の表れです。

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普天間基地の辺野古移設を巡って、県と国の対立が続いていますが、県側がいくら説明を求めても、国が話し合いの土俵にすら上らない状況が、沖縄ヘイトとも言える状況を広げていると指摘する専門家もいます。
1996年に普天間基地の返還が合意されて以降も沖縄の基地の返還はなかなか進みませんでしたが、政府と沖縄の間で話し合いが途絶えることはありませんでした。私は、当時を知る小渕内閣の官房長官などを務めた野中広務さんに、今月初めに話を聞きました。野中さんは、戦争を知る世代として、今の状況を憂えていました。最高裁の判決が出たことを受けて一気呵成に辺野古移設を進めようとする今の政府の対応にも疑問を感じていました。沖縄の歴史を知れば、本土が犠牲を強い続けてきた沖縄に寄り添うことの重要性が自ずとわかるはずだ。政治家自身が沖縄の心を知り、沖縄のことを本当に理解する必要がある。政治が、沖縄と本土の分断を進めているのではないかという野中さんの警鐘をしっかり受け止める必要があります。

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沖縄のアメリカ軍嘉手納基地では、先月末から今週にかけて、軍用機から兵士がパラシュートで降下する訓練が6年ぶりに行われました。住宅地への危険性が懸念されるため原則嘉手納基地ではこの訓練は行わないという日米両政府の合意を破る形です。県によりますと、軍用機の夜間発着や、オスプレイが市街地上空を低空飛行するなど、合意を無視するようなアメリカ軍の行為は、今でも頻繁に目撃されています。本土復帰45年、変わらぬ沖縄の負担に思いをはせることすら忘れていないかが問われています。

(西川 龍一 解説委員)

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