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「増したのか? 企業の『稼ぐ力』」(時論公論)

今井 純子  解説委員

企業の決算発表がピークを迎えました。昨年度は、円高や海外経済への不安といった逆風が吹きましたが、結果を見てみると、大企業全体では、過去最高益を更新した見通しです。これまで日本企業の業績は「為替次第」とも指摘されてきました。それが、昨年度は、なぜ、過去最高益を更新できたのでしょうか。

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【解説のポイント】
解説のポイントです。
▼ 逆風の中でも、「稼ぐ力」をつける企業がでてきています。具体的な取り組みを見てみます。
▼ そして、長年の課題だった、企業の体質の強化。経営者の背中を押しているのは、人手不足への危機感です。
▼ 最後に、「稼ぐ力」を、全体に広げていくための課題は何なのか。
この3点です。

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【決算の概要】
(雲が立ち込める中の決算)
昨年度、大企業の周りには、灰色の雲が立ち込めていました。
安倍政権の発足後、輸出企業の業績を膨らませてきた円安の流れが変わったためです。企業の決算の前提となる為替レートは、昨年度は、その前の年度と比べて1ドル=12円余りの円高になったと見られています。
また、特に、年度の前半は、イギリスがEUからの離脱を決めたほか、中国経済の低迷で、海外経済への不安が膨らみました。

(全体では、過去最高益の見通し)
ところが、11日までに発表のあった企業のまとめを見てみますと、逆風にもかかわらず、全体では、過去最高益を更新した見通しです。
  
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(「稼ぐ力」を増す企業)
日本企業の業績は、これまで、輸出大企業がけん引する形で、円安になれば、利益が増え、円高になれば、利益は減る。「要するに、為替次第」とも指摘されてきました。それがなぜ、昨年度は、大幅な円高が進んだなかで、過去最高益を更新することができたのでしょうか。

最高益をあげた企業を見ていきますと、とりわけ目立つのは、「稼ぐ力」を増やす取り組み。つまり、売り上げから得られる「儲けの幅」を高めようという取り組みです。

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【日本電産の取り組み】
その例として、モーター大手の日本電産を見てみたいと思います。ここは、昨年度、円高の逆風を受けながらも、20%を上回る大幅な増益となり、過去最高益を更新しました。

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(事業構造の見直し)
取り組んできたのは、ひとつは、より利益のでる事業への転換です。
まず、これまで、パソコンなどの記録に使われる、ハードディスクドライブ用のモーターを、収益の柱としてきたのを、自動運転化が進む自動車用や、産業用、それにインターネットにつながる家電用といった、より大きな成長が見込める分野に、軸足を移しています。
さらに、モーター単体で売るのではなく、たとえば、掃除ロボット用に、機械を動かしたり、ごみを集めたり、吸い取ったりする機能をまとめて組み込んだモジュール化した製品を提供したり、モーターに集まるビッグデータを解析するようなシステムを組み込んだりして、より高く売れる、収益性の高い事業へと、転換を進めています。
昨年度は、円高で、売り上げが1000億円あまり目減りしましたが、こうした取り組みで、それ以上に売り上げを伸ばすことができたとしています。

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(自動化・働き方改革)
2つ目は、自動化・働き方の改革です。
▼ 工場では、組み立てにつかうロボットや、自動で部品などを運ぶロボットを、自前で開発し、工場の自動化を進めています。さらに、
▼ 2020年に残業をゼロにする目標を掲げ、ホワイトカラーの働き方改革にも取り組んでいます。昨年度は、会議の時間を短くしたり、無駄な資料づくりをやめたりしたほか、研究開発部門にスーパーコンピューターを導入するなどして、1人当たりの残業時間を、前の年度の半分に減らすことに成功しました。こうして、生産性を上げ、浮いたおカネで、賃金を上げるとしています。旗振り役は、永守社長。トップ自らです。人口減少が進む中、働く人にとって魅力的な会社にしていかないと、今後、優秀な人材を確保できなくなるという危機感からの決断でした。

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このように「より利益のでる事業への見直し」。そして、「自動化や働き方改革」で、日本電産は、「稼ぐ力」を高めていこうという戦略です。

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【その他の取り組み】
こうした取り組みは、日本電産だけではありません。例えば、
▼ 10年ぶりに過去最高益を更新したエスビー食品。事業構造の見直しに取り組んでいます。
ここは、これまで、カレーなどのレトルト食品が収益の柱でしたが、特売の対象になりがちでした。そこで、数年前から、より利幅の高い商品の開発に力を入れました。例えば、ハーブやスパイスが入った小袋です。何十種類もありますが、それぞれ、肉や野菜を一緒にいためるだけ、あるいは、煮込むだけで、「おかず」ができるといった、手軽さをアピールすることでヒット商品となり、過去最高益を更新する原動力となりました。

▼ また、雑貨や家具を扱うニトリも過去最高益を更新しました。こちらは、物流倉庫の自動化に取り組もうと、コンテナを運ぶロボットを導入しました。これまでは、人が歩いて棚までいき、商品を探して、取り出すという、手間がかかりましたが、ロボットがコンテナを人のところまで持ってきてくれるようになりました。作業員の負担が軽くなった上、効率が4倍以上にあがる効果があったとしています。

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【企業の取り組みの背景】
(ようやく「稼ぐ力」に取り組み始めた企業)
日本の企業は、これまで、たくさん人を雇って、安い製品やサービスを提供する「薄利多売」のビジネスモデルを得意としてきました。そうした中、ここへきて、長年の課題だった、「稼ぐ力」をつける取り組みがようやくでてきた。そのことは、率直に評価したいと思います。

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(背景には人手不足)
背景にあるのは「人手不足」です。働く世代が加速度的に減っていく中、今、稼ぐ力を高めて、賃金を上げたり、働き方を変えたりして、魅力的な会社にできなければ、欲しい人材が得られなくなり、いずれ、経営に行き詰まりかねない。その危機感が経営者の背中を押しています。

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【課題は中小企業】
こうした取り組み。余力のある大企業は、自らの判断で、進めていかざるをえない課題です。問題は、今、働く人の70%が勤める中小企業に、どう稼ぐ力を高めてもらうかという点です。

(中小企業への支援を!)
人手不足は、とりわけ、中小企業の間で深刻です。中小企業の74%が人手不足を感じていて、そのうち、30%は、すでに、商品やサービスの質が低下する影響がでているという調査結果もあります。そして、35%の企業が、人手不足への対応として、残業を増やしているとしています。それでは、ますます、人が集まらない悪循環に陥るばかりです。
中小企業からは、仕事の生産性をあげるための、人材がいない。やり方がわからない。といった声も聞こえてきます。こうした企業が、割安なロボットやITを導入できるよう、政府や自治体は、相談体制や人材の橋渡し、あるいは資金面で、支援を強化してほしいと思います。
  
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【まとめ】
大企業は、今年度も最高益を更新する計画です。手元の現金・預金もさらに積みあがっています。一部で始まった、「稼ぐ力」を増す取り組みが、日本全体に広がるよう。経営トップは、余力のあるうちに、危機感を持って取り組んでほしいと思います。

(今井 純子 解説委員)

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