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「緑のオーナー制度 責任はどこに」(時論公論)

清永 聡  解説委員

一般の人たちから森林に出資してもらい、成長した木材を販売して収益を分けあう林野庁の「緑のオーナー制度」。実に500億円という巨額の資金を集めながら、全国で元本割れが相次いでいます。国の責任を認める判決が最高裁で確定し、今、さらに新たな裁判も始まっています。問題の背景とその影響を考えます。

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【解説のポイント】
「緑のオーナー制度」とはどのような内容で何が問題となったのか。
確定した国の責任と、現在新たに起きている裁判について。
最後に国有林野事業の現状と今後を考えます。

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【緑のオーナー】
「緑のオーナー制度」は昭和59年に林野庁が始めました。一般の人たちから1口50万円などで、成育途中の国有林に出資してもらいます。自分が希望する地域を選び、基本的に数人から数十人で山林の一定の面積を林野庁と契約します。その後、おおむね20年から30年後に成長した木を競売にかけ、収益を分け合う仕組みです。

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当時のチラシやパンフレットです。「資産づくりに最適」「安全確実」「夢とロマン」こうした言葉が並んでいます。各地で説明会が開かれ、全国から出資が相次ぎます。募集を中止した平成11年までに、8万6千人から500億円という巨額の資金を集めました。

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ところが、木材の貿易自由化や一時的な円高などいくつかの理由で、国内の木材価格は、下落を続けます。スギは半額以下、ヒノキは3分の1近くになっています。

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満期を迎えた支払額の平均です。出資額の50万円を超えたのは最初の年度、平成11年度の54万円の1回だけでした。その後13年度は40万1千円、15年度は36万8千円、20年度は30万1千円、25年度は29万3千円など、ずっと元本割れが続き、平成27年度は、24万7千円まで下落しました。50万円を20年預けて半額以下しか受け取ることができない計算です。

【裁判で国の責任が確定】
全国の出資者が、国に裁判を起こします。神戸市の石井昌平さん(74)もその1人です。石井さんは、仕事で海外の赴任が長く、故郷の山の保護に関心を持っていました。そこで、昭和63年に出身地の栃木県の緑のオーナーとして50万円を出資します。

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「こうした出資は利益が目的だから自己責任だ」という意見もあります。しかし、当時は今よりも高金利で多くの金融商品があった中、あえてこの制度に参加した人たちの中には、石井さんのように制度の理念に共感し、自然保護も目的だった人が少なくありませんでした。しかし、平成21年に受け取ったのは13万円でした。石井さんは「国にだまされた思いだ」と話しています。

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裁判所は1、2審とも国の責任を認め、去年、最高裁で確定しました。時間がたって賠償を求めることのできる期間が過ぎている人を除き、84人に1億円近くの支払いを命じました。
裁判所が国に責任があると判断したのは、さきほどのチラシに書かれていた「安全確実」などの表現が不当だったこと、それに平成5年までパンフレットに「元本を保証しない」と書かれていなかったことなどが主な理由でした。国が説明義務に違反していたことが確定しました。

【落札できない山林が増加】
ところが、4月から、また、新たな裁判が始まっています。原告たちは「契約期間が終わったのに国は木材を販売しなかった」と訴えています。
去年の緑のオーナーの森の入札結果の一部をみると、「不落」という文字が並んでいます。これは「落札できなかった」つまり入札で売却できなかったという意味です。

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実はいま、満期になっても予定価格を超える入札がなく、買い手のつかない山林が増えています。弁護団によると落札できない割合は平成27年度で52%。実に半分以上が、売ることもできない事態になっているのです。

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この裁判で国は争う姿勢を示す一方、満期を迎えたオーナーが希望すれば、林野庁が決めた金額で買い取る制度を、今年度から拡充しました。
しかし、オーナーからは、少なくとも出資した金額で買い戻すべきと言う声が上がっています。
林野庁によりますと、これまでに契約が終わったオーナーは一昨年度の時点でまだ4割、3万3千人です。5万5千人以上が、これから入札などの時期を迎える計算になります。この問題はむしろ今後、本格化する恐れがあります。

【問題の背景は】
そもそもどうして、このような制度が始まり、そして歯止めがかけられなかったのでしょうか。背景には国有林野事業が抱えてきた構造的な問題も理由の1つだったのではないかと指摘されています。

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戦後、国有林野事業は、木材を売った利益などを主な財源とする特別会計で、経済性を重視し企業のような独立採算制に近い形を求められてきました。
しかし木材価格の低迷で国有林野事業は赤字が膨らみます。「緑のオーナー制度」はこうした中で始まりました。ある専門家は「結果的に制度は国民から資金を得て赤字を減らす手段となった。見通しが甘いままやめられなかったのではないか」と指摘しています。

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その後、特別会計は廃止され、平成25年度から国有林野事業は一般会計となります。経済性の重視から環境保護など公益性をより重視した管理経営に転換しました。当時の状況を考えると、木材価格の下落は避けられない側面もあります。しかし、価格が低迷してもなお「緑のオーナー制度」は継続され、今も重い影響を残しているのです。

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【「国民参加の森づくり」を実現するには】
ただ、この制度は、経済的な側面だけではない、大きな役割を果たしてきたことも、確かです。それはトータルで2万4000ヘクタール、東京ドーム5000個分に相当する面積の山林が、整備されてきた事実です。国民の協力で森が育ち、環境の保全や、きれいな水を生み出してきました。これは簡単には金額に換算できませんが、評価できることです。

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林野庁は、「国民参加の森づくり」をアピールしています。国有林の整備に協力することが大切なのは確かです。しかし、本当に国民の協力を求めるならば、国はまず、緑のオーナー制度の出資者に理解を得られるよう努力すべきではないでしょうか。
オーナーの多くは、もともと森や自然に理解がありました。本来、「森の応援団」になってくれる人たちが、裁判となり、国有林に背を向ける結果になったことこそ、この問題で最も不幸な事態というほかありません。
すでに裁判で国の違法性が確定している以上、国は責任を認め、少なくとも説明義務違反が認められた時期の契約については、オーナーが納得する形で買い戻すなど、話し合いで解決をめざしてほしいと思います。
また、林野庁は赤字を減らすために職員を大幅に削減し、営林署も減らしてきました。政策を転換したのだから、進めてきた職員の削減も見直し、森を守り、環境を保護するために必要な人材を確保することも、大切だと思います。

国有林は日本の国土のおよそ2割に上ります。また、過疎化と高齢化で、手入れの行き届かない山林が、全国で課題となっています。
森を守るには、都市部を含めた幅広い国民の協力がますます必要になってくるでしょう。そのためにも国はこの「緑のオーナー制度」を解決し、その上で、改めて国民参加の森作りを呼びかける。それが欠かせないのではないでしょうか。

(清永 聡 解説委員)

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