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「"こども保険"子育て財源 誰が負担するのか?」(時論公論)

竹田 忠  解説委員

こどもの日の時論公論。テーマは、“こども保険”です。
先進諸国の中で、最低レベルといわれるのが、日本の子育て支援です。
何とかしようと、自民党の小泉進次郎議員などが提言したのが、こども保険、という新たな仕組みです。
現在、自民党の委員会で、議論を深めている所ですが、議員の間でも、また専門家の間でも、賛否両論が出ています。

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なぜなんでしょうか?
この仕組み、一言で言いますと、今は、税金で行っている、保育や幼児教育などの子育て支援を、保険料を使って、充実させようというものです。

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< 何が焦点か? >
▼税ではなく、保険料を使って、子育て支援を行う。
それは、いったい、どういう制度なんでしょうか?

▼そして、そもそも、なぜ、保険料なのか?
その狙いは何なんでしょうか?

▼そして、この仕組み、最大の課題は、“社会全体で子育て支援をする”という大もとの考え方が、どこまで国民に理解と納得をしてもらえるのか?
ハッキリ言えば、保険料や、保険料にかわる負担を、誰に、どこまで求めることができるのか?

この議論は、実は、社会保障と税のありかたを大きく問い直すことにつながります。
これから議論していくヒントを探りたいと思います。

< 制度の仕組みは? >
まず、制度の仕組みです。
この、こども保険、肝心の保険料を、誰に払ってもらうのか?
それは、こどもがいる、いないに関わらず、働いている人と、その勤め先の企業とに、それぞれ負担してもらいます。
ここが、最大のポイントです。

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どういうことかといいますと、サラリーマンの場合、現在、給料のうち、およそ15%が、年金や健康保険の保険料として最初から天引きされています。
こども保険も、この方法でいこうというわけです。

まず、当面は、毎月0.1%の保険料を給料から天引きで払ってもらいます。
企業側も同じ分、つまり0.1%分を負担しますので、国は合わせて、0.2%の保険料を徴収することになります。

また、自営業などの国民年金に加入している人の場合は、毎月払う保険料に160円を上乗せして払ってもらいます。
こうすることによって、年間、約3400億円の財源が確保されます。

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このお金を使って、小学校に入る前のすべてのこども、600万人に対し、毎月5000円を、支給します。
この5000円というのは、今、ある児童手当とは別に、上乗せして配られます。
年間では、6万円の増額になります。

そして、制度を導入した後は、保険料をさらに増やし、従業員と企業、それぞれが0.5%ずつ負担することにします。
合わせて1%の負担です。

また、国民年金の人の場合は、保険料の加算を、月830円に増やします。

こうすることによって、財源を年間1兆7000億円、確保することを目指します。
そうすれば、小学校に入る前のこども一人当たり、月2万5000円、年間で30万円、児童手当を増額できます。

ちなみに保育園や幼稚園の平均の保育料は、月1万円から3万円程度なので、
従来の児童手当と合わせれば、
これによって保育・幼児教育の実質、無償化が実現できる、というわけです。

< 三つの論点 >
しかし、この、こども保険に対しては、疑問や批判の声が出ています。
論点は大きく三つあります。

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▼一つは、なぜ保険料を使って、子育て支援を行うのか? 

これに対して、今回、小泉議員らが発表した提言では、社会保障を「全世代型」に変えていくため、と説明しています。

どういうことかといいますと、社会保障には、主に4つの分野があります。
年金、医療、介護、そして子育て支援です。
このうち、主に高齢者向けの年金、医療、介護、は、財源が、保険料と税金の二つあって、この両方のお金を使って、手厚い保障が行われています。

ところが、子育てについては、基本的に税金だけです。
ただ、子育て支援の財源には、企業からの拠出金も入っていますので、厳密に言うと、税金だけ、というわけではありませんが、医療や介護のような、個人が直接負担するような保険料はありません。

日本は、子育て支援にかける政府のお金が、GDP比でみて、OECDの中で最低ランクです。

高齢者向けだけでなく、子育て支援についても、財源として保険料が使えるようにして、
社会保障を「全世代型」に変えていこう、と訴えているわけです。

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▼二つ目の論点は、増税や国債発行、といった、他の手段についてはどう考えるのか?ということです。

たとえば、社会保障の中心的な財源は、消費税です。
しかし、消費税はこれまで二度に渡って増税が延期されています。
また、今後予定通り、2019年10月に税率が2%上がって10%になったとしても、すでに、その使いみちは、決まっています。
このため、子育て支援のための新たな財源を確保するためには、消費税を10%より、もっと上げることが必要となります。

これについて小泉議員は会見の中で、「消費税を10%以上に、さらに上げるのに、あと何年かかるのか?
子育て支援は待ったなしの課題だ」と述べて、子育て支援を急ぐためには、さらなる消費増税をあてにするのは、得策ではない、という考えを示しています。

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また、国債発行については、提言の中で、将来世代への負担の先送りに過ぎないとして批判しています。

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▼そして三つ目の論点は、こどもがいない世帯や、独身者が保険料を負担するのは、おかしいのではないか、というものです。

こども保険の保険料は、これまで見てきたように単純に社会保険料に上乗せするため、こどもがいない世帯や、独身の人も保険料を負担することになります。
子育て支援のための給付は何も受けられないのに、負担だけするのは、おかしい、というわけです。
これに対し、提言は、こう主張しています。

「社会全体で子育てを支えるべき」!

どういうことかといいますと、今の社会保障は、若い人が払う保険料が、そのまま、今のお年寄りの年金、医療、介護などに使われる仕組みです。

つまり、こどもが減っている、少子化こそが、社会保障にとって最大の危機、というわけです。
この問題を少しでも和らげるためには、社会全体でこどもを支える、子育てを支援する、ということが必要で、こどもがいない世帯や独身の人も、社会保障を維持・存続させていくために、広く薄く、負担する必要がある、というわけです。

< 検討課題は? >
このように、こども保険には、多くの論点がありますが、財源を明確にした上で、子育て支援の充実を急ぐ、という意味では、重要な問題提起をしています。

今後、この制度の議論を深める上で最も重要な検討課題を確認しておきたいと思います。

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それは、こども保険が、「こどもを社会全体で支える」というのなら高齢者も含めて、もっと広い世代に負担してもらうべきです。
今の仕組みでは、保険料を、あくまで社会保険料に上乗せするため、結局、負担するのは、働く世代、現役世代のみ、ということになります。
社会全体で子育てを支える以上、お金がある程度ある高齢者にも応分の負担をしてもらうべきではないでしょうか?

これがもし、消費税なら、働いている世代も、高齢者も、広く、薄く、負担することになり、文字通り、社会全体で子育てを支える、ということになります。
しかし、これまで見てきたように、「消費増税には時間がかかる」「子育て支援は緊急の課題だ」という理由で、別の財源を模索するのなら、その財源は、やはり消費税のように、できるだけ広く薄く、負担してもらうことを考えるべきです。

そのために、具体的には、
▼年金を多くもらっている高齢者に対しては年金への課税を強化する、
▼また、相続税をもっと強化する、
などといった方法も合わせて考える必要があると思います。

今後、自民党の委員会は、政府が来月をめどにまとめる経済財政運営の基本方針、いわゆる骨太の方針に反映させたいとして、議論を急ぐ考えです。

少子高齢化がさらに進む以上消費税のさらなる増税の議論は、いずれにしても避けることはできません。
そのためにも、社会全体で子育てをするとは、どういうことなのか、現役だけでなく、高齢者も含めて、いろんな方法で負担をしてもらう、という考えをどこまで具体的に打ち出せるのか?

こども保険をきっかけに、ぜひ、議論を広げてほしいと思います。

(竹田 忠 解説委員)

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