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「乱気流の中の日ロ首脳会談 何が話し合われたか」(時論公論)

石川 一洋  解説委員

モスクワのクレムリンで先ほど安倍総理とプーチン大統領の日ロ首脳会談が終わりました。首脳会談は通訳だけを入れた首脳同士の一対一の会談を含め3時間以上にわたって続きました。今回の首脳会談はトランプ大統領が「力による平和」との姿勢を示す中で、シリアをめぐる米ロの対立、北朝鮮情勢など国際情勢が緊迫する中で行われました。何が話し合われたのでしょうか。

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解説のポイントです。

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●北朝鮮情勢で共通の立場は打ち出せたか
●トランプ時代と日ロ関係
●共同経済活動と平和条約

▼さて今回の日ロ首脳会談は、北朝鮮情勢が緊迫感を強める中で行われました。
会談後の記者発表で安倍総理は「北朝鮮に対して国連安保理の決議を完全に順守し、さらなる挑発行為をしないよう働きかけること」で一致したことを明らかにしました。
北朝鮮が核とミサイル開発を続ける中で、トランプ政権は、オバマ政権が続けてきた「戦略的忍耐」という政策は破たんしたと考え、「あらゆるカードを選択肢とする」として圧力をかけています。そして北朝鮮に影響力を持つ中国に対して実効ある制裁を取るよう迫っています。

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日ロはトランプ政権の北朝鮮政策に対しては、立場の違いがみられます。
日本はアメリカの政策転換を支持しています。一方ロシアは、アメリカの武力行使を警戒し、ミサイル実験を非難する国連安保理のコミュニケに「対話による」という文言を入れることにこだわり、ウラジオストクと羅津港の間で定期客船の運航を来月から開始すると発表し、主要国の中では中国以上に融和的な態度を示しています。きょうの記者発表でもプーチン大統領は好戦的なレトリックは控えるべきだと述べています。
 トランプ政権も「あらゆる選択肢」としながらも非核化に向けてまず経済制裁を本質的に強化する方針を示しています。拳を振り上げながらも非核化に向けた対話はオープンだともしています。今後追い詰められた北朝鮮がロシアの懐に飛び込む可能性もあります。ロシアの融和的な態度にはそれを見越しているようにも見えます。
その時、ロシアが北朝鮮の抜け道になるのではなく、責任ある国連安保理の常任理事国としてロシアが非核化に向けての出口を北朝鮮に対して示すべきでしょう。
北朝鮮をめぐっては日ロの間でミサイル防衛に関する立場がすれ違ってい、そのことも首脳会談では意見が交わされたでしょう。北朝鮮という現実の脅威に対して日本、アメリカ、ロシア、中国など関係国がミサイル防衛を含む安全保障の面でどのような接点を探れるのか、真剣な協議を始めるときが来ているように思います。

▼次にトランプ時代と日ロ関係です。
会談では、トランプ大統領となって大きく変化した国際情勢シリアと北朝鮮が主要なテーマの一つとなりました。アメリカが国際情勢に能動的に関与する主役として現れてきたからです。しかもその行動の予測が難しい。

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 トランプ政権となり、日ロ関係を進めやすくなった点もあります。日ロの経済協力の進展についてアメリカから不快感を伝える動きは一部にあるようですが、トランプ大統領はシリア情勢で米ロが対立する局面もある中で、安倍総理の今回の訪ロについては一切干渉しませんでした。ちょうど1年前、ロシア南部ソチでの日ロ首脳会談に対しては、当時のオバマ大統領がその準備過程で、電話で直接訪問の中止ないし延期を求めてきたのとは対照的です。

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トランプ大統領は、アメリカ第一主義の立場からそれぞれの国との2国間関係を重視する中で、日ロ関係が北東アジアの安定に資するというのなら構わないと突き放しているのかもしれません。トランプ大統領によるシリアのアサド政権に対するミサイル攻撃の評価で安倍総理とプーチン大統領は大きく分かれました。プーチン大統領は、「国際法違反で主権国家への侵略行為だ」と厳しく非難しました。さらにプーチン大統領はアメリカの同盟国を唯々諾々と支持を表明したとして「中国の首ふり人形のようだ」と述べ侮蔑感を露わにしました。その冷たい視線は安倍総理にも向けられました。
一方安倍総理は「化学兵器の拡散を許さないという決意を支持する」といち早く表明しました。安倍総理としては、北朝鮮情勢が緊迫する中で、ミサイル攻撃という行為ではなく、その決意を支持するとして留保をつけながらもアメリカと共同歩調を取ることが国益だとしています。それぞれの立場について率直な議論が首脳会談でも行われたものとみられます。

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ただ国際法上問題はありますが、シリアへのミサイル攻撃はロシアにすり寄りつつあったトルコやサウジアラビアなど親米国をアメリカの側に引き戻すという政治的な効果を生み出しました。ティラーソン国務長官を通じて再び化学兵器を使用したら必ず攻撃するとしてアサド政権へのレッドラインを明確にプーチン大統領に伝えたと聞いています。プーチン大統領は反発しながらも「理屈だけで行動はしなかったオバマとは違い、軍事攻撃を含めて行動する。侮れない」とみているように思えます。
 安倍総理はトランプ大統領ともプーチン大統領とも率直な議論ができる関係を築いています。首脳会談でもシリア情勢を中心に、米ロの協力がテロとの戦いで如何に重要かを説いたものとみられます。アメリカとロシアの対話の糸がまだ細く、まことに心もとないだけに、日本としても傍観者として米ロ関係の行方を見守るだけでなく、積極的に米ロの対話を促す役割を果たす必要があるでしょう。

▼最後に日ロの2国間関係、北方領土での共同経済活動と平和条約交渉です。12月以降、日ロ双方は共同経済活動における次官級の協議をはじめ、双方がプロジェクト案を交換して、今後具体的に交渉を進めるプロジェクトを決めることになります。根室など地元も「積極的に参加したい」と共同経済活動への支持を表明しています。

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今回の首脳会談で両首脳は、共同経済活動の実施に向けて日ロの共同の調査団を北方4島に派遣することで合意しました。また元島民の墓参についても高齢の元島民の負担を軽減するためこれまで国後島に限られていたロシア側の出入域審査を根室に近い歯舞群島で行うこと、飛行機による渡航をこの夏にも実施することで一致しました。12月のプーチン大統領の訪日の時の合意を着実に実行するためです。安倍総理はプーチン大統領に対して二人で平和条約という山の頂に辿りつこうと呼びかけました。そのための難関はまだまだこれからです。平和条約に関する双方の立場を害さない、その法的な枠組みをプロジェクトを進めながら作らなければなりません。

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12月の共同経済活動に関する合意では、共同経済活動は平和条約の締結に向けた重要な一歩と書かれています。そして両首脳は平和条約問題を解決する自らの真摯な決意を表明しています。共同経済活動の実施は、主権の画定を先行すべきとしてきた日本にとってはリスクを伴った重要な交渉方針の変更です。
それだけに首脳交渉とは、共同経済活動と平和条約を結びつける真摯な決意を一歩一歩実行に移していくことに他なりません。

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「この島々を日ロの諍いの島ではなく日ロを結びつける紐帯とする」プーチン大統領自身が12月記者会見で述べた言葉は、大統領に渡された元島民の手紙の思いでもあります。
一対一の首脳交渉で領土問題について何が話し合われたのか、その詳細は12月も今回も明らかにされることはありません。「如何に島々を日ロの結び目とするのか」それが安倍総理とプーチン大統領の議論の中心となったはずです。平和条約に結びついてこそ「真摯な決意」と言えるでしょう。北朝鮮情勢が緊迫する中で行われた今回の日ロ首脳会談、こうした差し迫った重要な国際課題について、どのように対処できるのか、そして平和条約交渉について政治的意思が示されるのかどうか、安倍・プーチン両首脳の信頼関係の実質が問われたといってよいでしょう。

(石川 一洋 解説委員)

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