NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「衆院 区割り見直し『格差是正』と『抜本改革』」(時論公論)

太田 真嗣  解説委員

最高裁判所から『違憲状態』と指摘された衆議院の選挙制度の見直しに向けて、政府の審議会は、全体の3分1にあたる、97の小選挙区の区割りを見直すよう、安倍総理大臣に勧告しました。いわゆる『1票の格差』是正に向けた取り組みですが、選挙制度改革そのものは未だ道半ばであり、様々な課題も見えています。衆議院の区割りの見直しと今後の抜本改革について考えます。

j170419_00mado.jpg

解説のポイントは、1票の格差是正に向け、▽大幅な選挙区の見直しを求める、今回の勧告とその背景、▽今後の政治への影響、そして、▽今回の見直しで改めて浮き彫りになった、今後の抜本改革の論点です。

j170419_01_0.jpg

今回の衆議院の選挙制度の見直しは、議員定数の10削減と、小選挙区のいわゆる『1票の格差』是正が2本柱です。

j170419_02.jpg

このうち、定数の削減は、▽青森、▽岩手、▽三重、▽奈良、▽熊本、▽鹿児島の6つの県から、それぞれ小選挙区の数を一つずつ、比例代表では、▽東北、▽北関東、▽近畿、▽九州の4ブロックから定数が1ずつ削減されます。

j170419_03.jpg

一方、政府の審議会が提出した勧告は、そうした定数削減をふまえ、小選挙区における、いわゆる1票格差を是正するためのものです。
1票の格差を是正するには、小選挙区の数が減る県はもちろんですが、その他の全ての選挙区にも目配りし、人口の多い選挙区から、一部地域を削って人口の少ない選挙区に移す、区割りの見直しを行う必要があります。勧告では、格差を2倍未満に抑えるには、あわせて▽19都道府県の▽97選挙区で区割りを見直す必要があるとして、対象となる選挙区の新たな区割り案が示されました。

j170419_04.jpg

衆議院の小選挙区は、現在295ですから、見直しの対象は全体の3分の1以上に上ります。なぜ、その様な大幅な見直しが必要なのか。背景には、急速に進む『都市への人口集中』と『地方の過疎化』があります。

j170419_05.jpg

小選挙区の区割りの見直しは、実は、4年前、平成25年にも行われ、計算上、2倍を超える選挙区は無くなりました。しかし、実際、翌年の衆議院選挙では、13の選挙区で格差が2倍を超え、最高裁から『違憲状態』と厳しく指摘されました。
急速な人口の変化にどう対応するのか。

このため政府の審議会は、今回、初めて、直近の国勢調査の結果だけでなく、将来の人口の推計値を割り出し、それも加味する形で区割りを検討しました。その結果、対象となる選挙区は、前回の42から大幅に増えました。

衆議院の選挙制度が『違憲状態』とされる異常な事態は、『政治の正当性』に直結するもので、早く正常な姿に戻すのは政治の責任です。政府は、勧告をふまえ、大型連休明けにも公職選挙法の改正案を国会に提出し、早期成立を目指す方針です。

j170419_06.jpg

ただ、仮に今の国会で改正案が成立しても、すぐに新しい区割りで選挙が行える訳ではありません。選挙区の変更を有権者に正しく理解してもらう必要があり、関係者は、「法律が成立後、すくなくとも1カ月は、周知期間が必要だ」としています。仮に、この間、衆議院が解散されれば、いまの選挙区で選挙が行わることになります。政府は、「総理大臣の解散権を制約するものではない」としていますが、あるベテラン議員は、「よほどの事情でもない限り、政治的には解散を打つのは困難で、事実上、今年の秋ごろまで縛られることになる」と指摘しています。

加えて、政党の側には、候補者調整という難しいお家事情もあります。
例えば、自民党は、今回、選挙区が削減される、青森と熊本で、現在、小選挙区の議席を独占しています。これまで、こうしたケースでは、選挙区からあぶれた候補を比例代表の上位で優遇するといった形で対応してきましたが、今回は、その比例代表の東北・九州ブロックも定数削減の対象です。

j170419_07_2.jpg

政治家にとって、自分の選挙区がどうなるかは、極めて重要です。党幹部から「簡単にうまくいく訳はなく、相当な『力仕事』になると思う」という言葉が漏れるなど、調整は決して簡単ではありません。

このように、今回の見直しは大規模なもので、今後の政治にも影響を与えますが、衆議院の選挙制度の見直しは、3年後の次の国勢調査の結果をふまえて、改めて行われることになっており、改革は未だ道半ばです。加えて、今回の見直しからは、今後の抜本改革に向けた難しい課題も浮き彫りになっています。

j170419_08_4.jpg

東京・板橋区は、これまで区全域で東京11区を形成していましたが、今回の見直しで一部の地域が隣の選挙区に移ることになりました。区割りの見直しは、住民の一体感の確保や事務の煩雑化を避けるため、「市区町村の分割はしない」のが原則ですが、人口が増え続ける都市部では、それを守るのは困難です。こうした複数の選挙区にまたがる、いわゆる分割自治体は現在の88から、105に増えることになります。

これに対し、過疎化が進む地方では、『小選挙区の広域化』が進んでいます。

j170419_09_1.jpg

選挙区が削減される岩手県では、新たに、沿岸南部も現在の2区に組み入れられることになりました。

j170419_09_2.jpg

選挙区が広がれば、それだけ、▽候補者の顔は、見えにくくなります。加えて、人口減少に伴って、▽投票所が閉鎖されたり、▽投票終了時間が繰り上げられたりするケースも目立ち、『投票機会の平等』の観点から問題だという指摘もあります。

j170419_10.jpg

ちなみに、勧告に基づく、新しい東京11区と岩手2区を同じ縮尺で表示すると、面積はこの図のようになります。都市への人口集中と地方の過疎化に歯止めが掛からない限り、都市部での選挙区の細分化と、地方での広域化は、今後も更に進んでいきます。

この様な選挙区の見直しに伴う問題は、衆議院だけでなく、参議院にも重く圧し掛かっています。

j170419_11.jpg

参議院では、去年の選挙から、人口の少ない、▽鳥取と島根、▽高知と徳島を、一つの選挙区とする『合区』が実施され、選挙区選挙における1票の格差は確かに縮小しました。しかし、投票率は、鳥取県で過去最低、高知・徳島両県でも全国最低水準にまで落ち込みました。地元からは、「候補者と直接、触れ合う機会が失われ、選挙への関心が薄れたからだ」と、制度の見直しに反発の声も聞かれます。

『1票の格差』の問題は、決して新しいものではなく、選挙区選挙という制度そのものに内在するものです。それが、近年クローズアップされた背景には、問題を長年放置し、深刻化を招いた、『政治の不作為』に対する強い怒りがあり、『法のもとの平等』を実現するためにも、是正に取り組むのは当然です。
ただ、同時に、いま、日本の政治には、『都市と地方』をはじめとする、様々な『格差』をどう克服するか、あるいは、多様な価値観を国政にどう反映させていくかが問われているのも間違いありません。
「選挙制度に正解はない」以上、選択肢は決してひとつではなく、例えば、衆議院と参議院の選挙では目指す方向性を変えるというのもあるでしょう。そうした、衆参両院のあり方も含めて、将来の日本の民主主義の姿をどう描いていくかが、今後の抜本改革の大きな論点ではないでしょうか。

(太田 真嗣 解説委員)

キーワード

関連記事