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「熊本地震1年 ローン救済と事業者支援は進んだか」(時論公論)

松本 浩司  解説委員

熊本地震からきょうで1年になりました。この地震では被災した個人や中小企業の再建を支援するためローンの減免や補助など、踏み込んだ支援制度が、東日本大震災に続いて適用されています。1年がたち、成果をあげている支援がある一方、救済に時間がかかっているものもあります。支援がどこまで進んで、何が課題になっているのかを考えます。

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解説のポイントは2つです。

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▼まず、成果をあげている中小企業への補助金と動き始めたファンドの現状を見ます。
▼そして被災ローンの減免制度。よい制度なのですが思うように進んでいません。なぜなのか、この2点です。

【グループ補助金と債権買取ファンド】
熊本地震で中小事業者を強力に後押ししているのがグループ補助金です。従来の復興支援の考え方を大きく変えて、事業者に直接公的なお金を支給するもので、東日本大震災で初めて作られ、熊本地震でも適用されました。

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まず中小企業などが2社以上集まってグループを作り事業計画を申請します。地域の復興につながると認められれば、店や工場、設備を修理したり、建て替えたりする費用のうち4分の3を国と県から出してもらえるという制度です。
熊本地震ではこれまでに335グループに475億円が交付されることが決まっています。

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また企業の二重ローン対策も動き始めています。これも東日本大震災で初めて作られ、熊本地震では地元金融機関と政府系の地域経済活性化支援機構が出資して作った「事業者再生支援ファンド」です。

その仕組みですが、対象になるのは、震災で大きな被害を受け、借金を抱えているものの再生の見込みのある会社です。

ファンドは、金融機関がその会社に貸しているお金を一部放棄してもらって買い取ります。「債権」つまり借金を返してもらう権利を安く譲り受けるわけです。
金融機関は回収できる額は減りますが、全額焦げ付くことを回避できます。会社は借金が減り、ファンドの助言や指導を受けて再建を進めながら、返済していくとういものです。

この仕組みのニーズが高まるのはこれからと見られていますが、すでに3件の支援が決定し、30件で検討されています。

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この2つの制度で事業再建をめざしているのが、地震で建物が全壊した、熊本県内の温泉街にある老舗旅館です。
震災前の借金の一部を免除してファンドに買い取ってもらったうえ、25社で受けるグループ補助金のうち2億4千万円を旅館の再建費用にあてます。営業再開の目標は来年の秋。補助金とは別に、新たに背負う借金も巨額になりますが、経営者は自分の代で旅館を再建し、温泉街を復興させたいと考えています。

こうした支援で事業者の復興は進み始めていますが、店や工場など施設が元に戻ったとしても、それだけで再建できるわけではありません。

東日本大震災では、グループ補助金を受けた事業者の半分以上が、売上が震災前まで戻っていません。販路が回復しないことが主な理由です。

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熊本地震では、東日本大震災で企業の復興支援に携わった銀行マンたちが熊本の金融機関に派遣されています。岩手の銀行から出向している紺野貴史さんは「販路を回復したり、観光客に戻ってもらうためには、とにかくスピーディーな対応が重要で、場合によっては事業の進め方を大胆に見直す決断も求められる。今がとても大切な時期だ」と話しています。

【進まない被災ローン減免制度】
一方で、思うように進んでいないのが、個人の被災ローンの減免制度です。

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東日本大震災のときに、いわゆる二重ローンを救済する特別な制度として作られ、その後、ほかの自然災害でも使えるように全国銀行協会が中心になって「ガイドライン」としてまとめました。

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対象は、地震で住宅や事業所などが被害を受けたため、住宅ローンや個人事業のローンなどを返せなくなったか、いずれ返せなくなることが確実な人です。
認められれば、蓄えのうち最大500万円と公的な支援金などを手元に残せるほか、自己破産と違ってローンを払えなかったという記録が金融機関側に残らないため、新たなローンを借りることができて、格段に再起しやすくなります。

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その手続きです。
被災者が金融機関に申し出をして、受け付けられると、無料で弁護士などの支援を受けられるようになります。その支援のもとで必要な書類を提出して金融機関と協議をし、ローンをいくら返して、いくら免除してもらえるかの計画を作ります。そして貸し手の金融機関すべての同意が得られたら、裁判所が内容を確定して、減免してもらうという仕組みです。

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これまでに成立したケースを見てみます。
▼30代の公務員の男性は、新築中の家が地震で壊れて2800万円の住宅ローンが残りましたが、1300万円を免除してもらうことができました。

▼また50代の自営業の男性は自宅と店が壊れてしまい、住宅と事業のローン2100万円が残りました。このうち570万円を免除してもらい事業の再開をめざすことになりました。

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しかし、こうした例はまだ少なく、申し込みが600件あったのに対して、認められたのは22件にとどまっています。手続きが進まず、苦しんでいる人も少なくありません。

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熊本県益城町で整体院を開いていた松本健宏さんは、地震で店を兼ねた自宅が全壊しました。1500万円のローンが残っていて、去年8月にこの制度に申し込みましたが、半年以上たっても審査は進んでいません。現在は警備員のアルバイトで生活を支えていて、減免が認められなければ自己破産も検討しなければなりませんが、身動きが取れずにいます。私は月曜日に取材に訪れましたが、奥さんは心労のため体調を崩してしまい、松本さんは一層、焦りを募らせています。

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審査はなぜ進まないのでしょうか。
制度のスタートはスムーズでした。東日本大震災のときは、当初、金融機関が消極的でしたが、熊本地震で地元銀行は住宅ローンを借りているすべての世帯を訪問するなど周知活動に力を入れました。ローンの減免は一時的にマイナスになりますが、被災者に再起してもらうことが長期的に地域経済にプラスになると考えたからです。

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それでも時間がかかっているのは、
▼審査には多くの証明書や書類の作成が必要で作業量がとても大きいこと
▼認められる基準が複雑なうえ、金融機関も弁護士もこれまで経験のない不慣れな審査です。人によって経験やノウハウにばらつきもあります。
▼複数の金融機関が関わり、弁護士側から見ると消極的な金融機関もあって、合意に時間がかかっていること、これらの理由です。

東日本大震災のときは全銀協や日弁連などで運営委員会を作って審査にあたりましたが、今回は地元の金融機関と弁護士会に委ねられていて、負担が大きくなっています。加速するために、被災地の外からの人やノウハウの支援が必要になっています。また金融庁も運用状況を把握して後押しする必要があると思います。

【まとめ】
震災から1年。東日本大震災では被災者間の格差が目立ち始めた時期です。住まいや事業所の再建に向けた取り組みは少しずつ動き始めていますが、そこから取り残される人がないように、支援の点検と強化を急いでもらいたいと思います。

(松本 浩司 解説委員)

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