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「2025年ショック! 医療と介護は?」(時論公論)

竹田 忠  解説委員

今回のテーマは、2025年問題です。
あとわずか8年で、戦後の世代として最もボリュームの厚い団塊の世代が全員75歳以上となります。
これによって、日本は、5人に一人が75歳以上、そして3人に一人が65歳以上という、かつて経験したことのない、超高齢社会に突入します。国の形が変わる、といって過言ではありません。
その時、最も対応に迫られる分野の一つが、医療と介護です。

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< 何が焦点か? >
その医療と介護にかかるお金、診療報酬と介護報酬の同時改定の議論が厚生労働省で始まりました。6年に一度の大きな改定です。
2025年問題への対応が焦点です。

この同時改定の議論で、柱となる考え方が今、国が進めている、医療と介護の政策転換、「病院から、在宅へ」。地域包括ケアなどともいわれます。

そして、その在宅医療を進めるには医療と、介護を、もっと密接に連携させることが必要です。
そのための議論も見てみます。

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< “重要な分水嶺” >
まず、医療と介護の同時改定とはどういうものかといいますと、医療にかかるお金、つまり、診療報酬は、2年に一度、改定されます。
介護報酬は3年に一度、改定されます。
つまり6年に一度、同時に改定されるわけで、それが来年、2018年にやってきます。

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この同時改定について安倍総理大臣は国会審議の中で、こう答えています。

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「団塊の世代のみなさんが、2025年には75歳以上になっている。その時に介護も医療も大丈夫かという不安を持っているのだろうと思う(中略)。
国民一人一人が適切な医療や介護を受けられるよう、今回の同時改定は、非常に重要な分水嶺と考えている。」
こう述べています。

分水嶺とはどういうことか?こういうことです。

< 2025年問題とは? >
まず、日本の人口構成です。

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御覧のように、日本の人口は2004年をピークに、すでに減りはじめています。
このように全体では減っているんですが、よくみると、75歳以上の人たちは、逆に、増え続けています。
そして、2025年にはおよそ650万人の団塊の世代の人たちが全員、75歳を超えます。それによって、75歳以上だけでおよそ2200万人という、大きな塊が生れます。
国民の5人に一人が75歳以上、そして3人に一人が65歳以上という、超高齢社会に突入するわけです。

では、75歳以上が増えるとどうなるのか?
社会保障費が急増します。

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一人当たりの年間の医療費を見ますと、64歳までは、年間の平均で18万円かかっていますが、75歳以上になると、およそ90万7千円。およそ5倍の医療費がかかる計算です。

また介護費は、65歳から74歳までは年間で5万5000円なのに対し、75歳以上は、53万2000円に増えます。およそ9倍です。
この結果、年金なども含めた社会保障給付費全体で見ますと、2015年度は、およそ118兆円だったのに対し、2025年度は、148兆円。
およそ1.3倍に膨れ上がると、推計されています。

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社会保障のお金は、保険料と税金で成り立っています。
このうち税金については、本来社会保障にあてるための、消費税増税が二回続けて延期されていまして、ただでさえ、苦しい状況です。

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このままでは、医療や介護の保険料をさらに上げたり、利用するたびに払う自己負担を増やしたり、逆に、受けられるサービスをもっと削ったり、ということが避けられなくなります。
しかし、それでも、先ほどのような急激に膨れ上がる財源を確保することは、容易ではありません。
また、もし財源が確保できたとしても、今や最大の問題は、人手不足です。病院や施設だけで、医療・介護を担うことには限界があります。

< 病院から在宅へ >
そこで、今、国が、大きな政策転換として進めているのが「病院完結型」の医療から、自宅や地域で直す、「地域完結型」の医療です。

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どういうことかといいますと、これまで日本の医療が目指してきたのは、病院が入院患者に対して短期的に集中した治療を行って、回復させ、社会復帰させるというものでした。
しかし、高齢化に伴って慢性疾患や複数の持病をかかえる人が増えます。
そうなると必要とされる医療のありかたも大きく変わってきます。
つまり、病気と共存しながら、日々がおくれるようにする、という、QOL、暮らしや生活の質を保つことを目指した治療。言いかえれば「治す医療」よりも、「治し・支える医療」が必要となってきます。

これが、「病院から在宅へ」、という政策転換の意味です。
そして、そのために、医療と介護の連携が急務の課題となっているわけです。

< 在宅医療の課題 >
ただ、在宅医療をめぐっては、
地域によって、また、担当する医師や施設によって
大きな差があることが問題となっています。

在宅医療を利用した患者や家族の間からは「希望通り、自宅で最期を過ごせて本当に幸せだった」と評価する声がある一方、「充分な手当てが受けられず、つらい思いをした。こんなことになるとは思わなかった」という、不満や批判の声も聞かれます。
だからこそ、今回の医療と介護の同時改定で、どうやって在宅医療を充実させられるのか?そこが大きな課題となっているわけです。

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では、厚生労働省の意見交換会、どういう意見が出たのか?
医療、介護を連携させる大きな鍵としてテーマとなったのは、訪問看護でした。
病気にかかわる医療と、暮らしにかかわる介護。
その両方のかけ橋となれるのが看護師であり、訪問看護なわけです。

具体的には、訪問看護の拠点である、訪問看護ステーションが、患者や家族をもっと支援できるよう、“総合在宅ケアセンター”のようなものを設置して、福祉や介護も含めた、総合的な在宅支援ができるようにすべきではないか、という意見が出されました。

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また、小規模な事業者が多いことから、できるだけ規模を大きくして、24時間、365日対応できるよう促してはどうか?という意見なども出ました。

そして、もう一つ、大きなテーマとなったのが在宅で最期を迎える、看取りの問題です。
というのも、超高齢社会は、亡くなる人が急増する、いわば「多死」社会でもあります。

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年間の死亡者が、2015年の129万人から、2025年には154万人へと大きく増える見通しです。
今は8割の人が病院でなくなっていますが、こうなってくると、今後は、自宅や介護施設でみとりができる体制を急がないと、病院のベッドが足りなくなります。

この問題については、介護施設の中には、入所者がせっかくその施設で最期を迎えたいと思っていても、本人の意思には関係なく、病院に救急搬送してしまう例が多いとして、もっと看取りの体制を各施設が責任をもって整えるよう求めるべきではないか、という意見などが出ました。

いずれにしても、始まった議論から見えることは、在宅医療ができる、医師も看護師もあまりに不足していること。
そして、この問題そのものがまだまだ国民には広く知られていない、ということです。

2025年問題。あと8年しかありません。
もっともっと広く議論を進めることが必要だと思います。

(竹田 忠 解説委員)

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