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「豊洲か築地か 移転はどうする?」(時論公論)

合瀬 宏毅  解説委員

豊洲市場の地下水のモニタリング調査の、再調査の結果が昨日公表され、環境基準を大きく超えるベンゼンなどが検出されたことが公表されました。高い汚染濃度を検出した前回に続き、再調査でも環境基準を大きく超えたことから、築地市場の移転の見通しは一層、不透明になりました。
今日はこの結果をどう読み解けばいいのか。そして移転を巡る今後の展開について考えます。

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豊洲市場での地下水のモニタリング調査。結果が注目されていたのは、築地からの移転時期を判断する指針だとされていたためです。
もともと調査は土壌汚染が表面化した豊洲市場の敷地で、2014年の11月から9回に渡り、行われていました。豊洲市場の201か所に設けられた井戸から、地下水を採取して分析。ベンゼンやシアンなどの有害物質を調べるというものです。

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7回目の調査までは環境基準を超える地点はなく、8回目に3カ所で基準を超えるベンゼンなどが検出されたものの、その値はわずかでした。
ところが去年11月に行われた9回目の最終調査では、調査地点の3分の1に当たる72か所から▼最大で環境基準の79倍となるベンゼンのほか、▼検出されてはならないシアンなどが見つかったのです。

通常、同じ場所から採取した地下水が、これほど劇的に変化することはありません。このため専門家会議ではなぜ広範囲で高濃度の有害物質が検出されたのか。改めて検証することになりました。
調査はおよそ1月をかけて、専門家会議の平田座長、自らが立ち会い、採った地下水は、精度を高めるために、4つの機関で分析されました。

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しかし、結果は採取した27カ所の内、25カ所で環境基準を超える有害物質が、見つかったというもので、ベンゼンは最大で基準の100倍。検出されてはならないシアンは18カ所、基準を超えたヒ素も5カ所から見つかり、基準超えが急激に増えた9回目の結果を裏付けることになりました。
築地で働く人としては、衝撃でしょう。昨日の会議では、対策を進めてきた東京都の対応に、市場関係者から厳しい批判が寄せられました。

ではなぜ、急激に地下水から、基準を超える有害物質が検出され始めたのか。専門家会議の平田健正(たてまさ)座長は「土壌中に有害物質が残っている可能性や、去年の9月以降、地下水をくみ上げるシステムが動き出し、汚染された地下水が広がった可能性がある」とした上で、汚染土壌に、人が接触するリスクは無いため、法律や科学的には「安全」としました。

後は小池知事がどう判断するかです。

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もともと築地市場から豊洲市場への移転は、去年の11月7日に行う予定でした。ところが知事選で当選した小池知事は、就任後の8月、地下水など安全性への懸念や、膨れあがった6000億円の整備費。そして耐震性など事業者に対する情報公開の不足などを理由に、移転を延期。地下水の結果がでる今年1月以降に、改めて判断するとしてきました。

ところがその後、盛り土問題が発覚。安全性確保の前提が崩れたとして、汚染対策や建物の耐震性を改めて検証し、報告書をまとめ上で、判断は夏ぐらいと、更に延期されました。
しかも、今回の、基準を超えた地下水です。小池知事は「基準を上回っている事実は、重く受け止めなければならない」として判断にはまだ早いとしています。

こうした中で浮上してきたのが、現在の築地市場の再整備です。先週の東京都議会で、小池知事が示唆したのは、築地残留の可能性でした。
しかし現在の築地市場、様々な問題を抱えています。

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まずは衛生面での課題です。80年以上前に開場した築地市場は、開放型のため、鳥やネズミなどの動物が、市場の中を出入りし、病原菌を運ぶ恐れがあると、指摘され続けてきました。

また建物の老朽化が進み、地震に対する強度も不足しています。建物の耐震診断では、3階建て以上の16棟の内、6棟が強度が不足していることがわかっています。しかし店舗の移動が必要になるなどして工事は難しく、対策は打てないままです。

さらに今月になって、新たに、土壌汚染も発覚しました。
都が4年前に行った土壌調査で、昭和初期に埋め立てられた、敷地の南側で、環境基準を超えるヒ素やフッ化物が検出されていたことが分かりました。
また、築地市場を巡っては戦後、薬品を扱うアメリカ軍の施設が置かれていたことなどから、都が土壌汚染の恐れがあると指摘しています。

今後、築地市場でも、土壌調査が行われることになりますが、汚染があれば、豊洲市場と同じように、法律による対策を打つ必要があります。

疑問に思うのは、小池知事の、この問題に対する対応です。
小池知事は調査を行うとしながらも、築地市場はコンクリートとアスファルトで覆われているので、安全だとしているのです。
これに反発したのは、移転問題を審議する、東京都議会での自民党です。築地市場が安全ならば、同じように、コンクリートとアスファルトに覆われている、豊洲市場も安全のはずで、小池知事はダブルスタンダードだと批判しているのです。

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土壌汚染対策法では、人が汚染された土に触れたり、汚染された水を飲んだりしないような対策が求められています。地下水モニタリングもその一つです。しかし地下水を飲み水にせず、業務用としても使用しない豊洲市場では、本来そうした調査は必要ありません。それでも東京都が地下水のモニタリング調査を続けていたのは、消費者に安心してもらうための、いわば上積み対策でした。
食品を扱う市場にとって、安心を確保するために必要なら、築地市場も、同じように、調査を行わなければならないことになります。

ただ小池知事は、築地は消費者の信頼が得られているとする一方で、豊洲は法的な基準はカバーしているものの、これまで都が求めてきた、法律を上回る安全を満たしていないとする立場で、あくまでも「総合的な判断」が必要だとしています。
築地と豊洲との対応に差をつける、この説明は分かりにくいと言わざるを得ません。

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築地市場の中ではいま、築地にとどまるのか。豊洲への移転か。意見は対立しています。一方で豊洲ではおよそ6000億円をかけた新市場がすでに完成しており、市場関係者も、冷蔵庫や新たな従業員を雇ったりして、すでに300億円を投資ずみです。

このため東京都は市場関係者に対し、来年度分の補償費として50億円用意し、さらに使われていない建物の警備や設備の管理費用として一日500万円がかかるなど、必要な資金は膨らみ続けています。
こうしたお金は、独立採算である市場会計から支払う事にはなっていますが、判断が長引けば、都民の税金から補填せざるを得ない事態になりかねません。

築地の移転問題は、1990年代から取り組まれ、築地市場内に留まっての再整備など様々な検討が進められてきました。しかし再整備が難しかったために、結局、豊洲を移転先として選んだという経緯があります。仮に移転を中止すれば、改めて築地での土壌調査や大規模な補修工事が必要になります。
築地に残るのか、それとも豊洲に移転するか。小池知事には、早急な判断と判断の材料についての説明が求められています。

(合瀬 宏毅 解説委員)

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