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「原発事故6年 廃炉を加速させるには」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

福島第一原発の事故からまもなく6年。現場では溶けた燃料の調査が始まるなど廃炉作業は一歩前進。
しかし内部の状況が詳しくわかったわけではなく、長い廃炉の入口にようやく立った段階。
福島では、今月一部で避難指示が解除。住民が安心して帰還できるようにするためにも、廃炉を急がなければ。
福島第一原発の現状、そして廃炉の技術的な課題。さらに廃炉を加速させるためには何が必要なのか?水野倫之委員の解説。

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事故から6年がたち、現場は落ち着いてきている。除染が進み、多くの場所で普通の作業着。
1日6000人を超える作業員のためコンビニも開店するなど、作業環境はかなり改善。しかし建屋内は手つかずの場所もあり、80mほど離れた高台に来ると1時間当たり170μSvと、一般の人の1年間の限度に5時間余りで達する量。
建屋のすぐそばはバスの中でも200数十μSv。
大量の溶けた燃料や放射性物質が取り残され、高濃度汚染水もたまっているから。

政府と東電は最長40年廃炉を目指し、2020年に汚染水の処理を完了させた上で、2021年には溶けた燃料の取り出しを始める計画。

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それに向けて東電はこの1年、新たな取り組み。ただ高度な技術を追い求めたわりには、期待されたほどの成果が上がっていない。

まずは先月2号機で、溶けた燃料を探すため投入されたサソリ型のロボット。
放射線量は計測できたものの、堆積物がキャタピラにからまって動けなくなり、溶けた燃料がどこにどれだけあるのか明らかにはできなかった。

続けて東電は今月、1号機にもワカサギ釣り型を投入する計画。
1号機では燃料のほとんどが格納容器の底に落ちているとみられるため、足場の隙間から釣り糸を垂れるように、カメラと線量計を底まで延ばしていく。
しかし容器内は配管などが複雑に入り組んでいて、ケーブルが絡まってしまえば一巻の終わり。これを遠隔で操作しなければならず、サソリ以上に高度な技術必要。

今後もハイテクロボットは必要だが、今回の調査で最も成果を上げたのは、ロボットに先立って、さおの先につけたカメラを作業員が手作業で貫通口から挿入して行った調査。

もちろんこうした手作業は被ばくも伴うため短時間しかできず、撮影範囲も限られるが、格納容器には700か所の貫通口があり、被ばく対策をした上でそのうちの何か所かでカメラを入れるだけでも、かなりのことが分かる可能性がある。
今回の教訓を生かし、人の手作業による確実な調査を積み重ねていくことを検討する必要。

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また汚染水対策でも、世界初の対策が期待されたほどの効果がまだ得られていない。
地下水を遮断する凍土壁です。

凍結開始から1年近く、現場では凍結状況を確認するため地面の一部が掘り返され、表面をたたくと硬いコンクリートをたたいた時のような音がし、温度も-8度とこの一帯は凍っていることがわかるが、凍土壁は全長1.5キロ、深さ30m。
きちんと凍結しているのかどうかすべて確認することはできず、壁の海側の汚染された地下水のくみ上げ量も東電の想定までは減っていない。地下にはケーブルなどが通るトンネルがあり、その周辺から地下水が抜け出ている可能性があり、原子力規制委員会は凍土壁の効果は「今のところ限定的」。

規制委が注目するのは建屋周りにあるこうした井戸。地下水の水位が下がるなど一定の効果が確認。
実はこの井戸、事故前から地下水対策として稼働していたもので、事故の影響で壊れてしばらく使っていなかったものを修理し、再び使い始めたもの。
やはり実績がある対策ほど確実なものはない。
凍土壁とは別に、早くこの井戸を増強していかなければ。

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ここまで技術的な課題を見てきたが、それだけで廃炉は進まない。信頼回復が不可欠。
というのも汚染水は今も増え続けており、タンクの汚染水は100万tに達しようと。多くは浄化されていますが、トリチウム水だけは残る。
政府の専門家会合は、基準以下に薄めて海に放出する処理方法が最も安く短期間にできるという。
最終的には東電が判断しなければならないが、福島の漁業者は「東電の言うことは信用できない」と強く反対。

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どんな方法を取るにせよ、福島の人たちとの間で信頼関係なしには先へは進めない。
しかしメルトダウン隠ぺい問題などこの1年も信頼裏切ることが明らかに。
そこで東電は廃炉作業とは別に、3万人を超える全社員が福島の復興支援活動に参加。
先月、その活動に同行。この日社員が集まったのは、今月末に避難指示が解除される見込みの浪江町のお寺。
帰還を目指す住職夫妻の片づけを手伝う。まずはお詫びの言葉。
「このたびは福島第一原発の事故で…大変なご迷惑をおかけしました。あらためてお詫びします。申し訳ありませんでした。」
本堂は6年近く手がつけられていませんでした。社員たちは使えなくなった仏具などを外へ。
また隣の自宅からもふとんや洋服なども。まだ使えそうに見えるが、事故直後は放射線量が高かったため、処分せざるを得ないという。
こうした活動を始めた当初、社員たちは「東電は絶対に許さない」と言われたと言うが、最近は逆に励まされることもあるということで、住職夫妻も「東電にはよくしてもらっている」と話していた。
社員一人一人の誠意は伝わりつつあるように感じた。

しかし、信頼の回復は、基本的なことができていて初めて成し遂げられるもの。
安全確保と、正確な情報をすみやかに出すこと。
ただその後も使用済み燃料プールや、原子炉の冷却がミスで停止するトラブルを続けて起こし、トラブルの地元への通報が遅れ、福島県への謝罪を繰り返している。
東電は技術的な基準で判断をすることが多い。福島の人たちが廃炉作業をどんな思いで見ているのか、という視点をもって廃炉作業を急がねば。

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(水野 倫之 解説委員)

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