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「許されない 天下りあっせん」(時論公論)

早川 信夫  解説委員

 文部科学省の天下り問題で、政府の「再就職等監視委員会」は、関与していた幹部職員への厳正な処分を明日(20日)求める見通しです。きょうは、この問題を取り上げます。

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 今回、何が問題になったのでしょうか?
 天下りそのものというより、天下りの口利き、文部科学省によるあっせんが問題になりました。長年担当してきた一人の専門職員を窓口に口利きを続けていたとみられています。

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 天下りに対しては、以前から規制の動きがありましたが、退職後の進路を狭めることになることから、官庁は積極的に取り組んできませんでした。しかし、日本道路公団の官製談合事件が起き、天下り批判が高まったのを受けて、今から10年前、2007年に国家公務員法が改正されて、省庁が天下りをあっせんすることが禁じられたもので、その翌年から実施されました。これ以降、役所が窓口になって口利きをすることはなくなったはずでした。しかし、制度上は、天下りそのものが禁止されたわけではなく、役所が利害関係のある職場に転職のあっせんをすることや現職のうちに自らを売り込むことが禁止されただけで、例外規定が設けられるなど線引きにあいまいさが残されていました。

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 そうしたあいまいさをいいことに、文部科学省では、おととし退職した元幹部、しかも大学を管轄する高等教育局長が、退職の2か月後に年度途中にもかかわらず早稲田大学の教授に就任していました。転職に当たって、本来してはならない口利きに人事課が関与していたことが、政府の「再就職等監視委員会」の調査で明らかになりました。このため、委員会は文部科学省に対して関与していた幹部職員に厳正な処分を求める見通しです。これを受けて、文部科学省は前川事務次官をはじめ幹部職員7人を処分する方針です。

 天下りはなぜ問題なのでしょうか。

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 その人でなければというような専門性があって、積み上げた経験を人生の後半に社会のために生かすだけなら、そこまでとやかく言うことはないかもしれません。しかし、役所として利害関係のある職場、ありていに言うと補助金や助成金の名目で税金がつぎ込まれている職場ですと、人を受け入れてもらう見返りになにがしかの恩恵が受けられるのではないかという思惑が生まれます。専門家の中には「天下りは形を変えたワイロだ」と言い切る人さえいます。しかも、役所のあっせんでということになると、社会が高齢化している中で、同じように再就職先を探している人たちに比べてあまりに優遇され過ぎだと言えます。

 今回の文部科学省と私立大学との関係でみてみますと、2つの点で問題があります。一つは、私立大学といえど自前ですべてをまかなっているわけではなく、私学助成の形で国の予算が投入されていること。もう一つは、大学の設立や増設についての認可権限が国にあること。この2点です。

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 まず、私学助成として、年間4000億円を超える助成がなされ、そのうちの3000億円あまりが私立大学に投じられています。その配分は、外郭団体を通じて行われますが、とは言え文部科学省の強い権限のもとに置かれています。定員を超えて学生を集めるなど経営に問題があるとされると減額や打ち切りの可能性さえあります。どうしても、文部科学省の顔色をうかがうことになってしまいます。
 また、設置認可の問題。最終的には審議会で決められますが、実務は文部科学省が担っています。急激な時代の変化に合わせて、大学も学部を新しく作るなどして生き残りに必死になっていますが、事前の審査でたとえば教授として集めた人が設置の要件に合わないとしてその段階で設置を見送らざるを得なかったという話を聞きます。文部科学省からすると基準にのっとって厳格に対応しているということなのですが、大学側からすれば、そこに役所の裁量、サジ加減を感じてしまう部分があるのかもしれません。
 このように持ちつ持たれつになりやすい面があります。それだけに「李下に冠を正さず」のことわざのように、あらぬ疑いをもたれないように日頃から襟を正しておくことが必要でした。それを一人の専門職員を窓口に、幹部は見て見ぬふりを装ってきたとすれば、あまりにも認識が甘かったというほかはありません。

 では、実態はどうなのでしょうか?

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 以前は、文部科学省の幹部職員というと退職後に国立美術館や博物館、独立行政法人の理事長や理事として転職することがお定まりのコースでした。

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しかし、天下り規制が強化されて以降、そうしたお定まりコースに民間人が登用されるようになり、簡単には天下ることができなくなっていました。そのせいか、最近は、大学の先生、もしくは事務局の幹部職員として再就職する人が目立つようになり、文部科学省によりますと、この5年間で私立大学に再就職した人は42人にのぼるということです。それにしても、今回のケースのようにこれほど安易に教授になっていたとは驚くばかりです。

 では、どう襟を正すことが必要なのでしょうか?
 4点あげたいと思います。

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 1つは、なぜやってはいけないことを続けてきたのか、それがどの範囲に及ぶのか、その広がりと理由を明らかにして、国民の前に示すことです。監視委員会の調査に対して当初文部科学省は隠ぺいしようと工作したと言われます。包み隠さず、オープンにして説明責任を果たすことがまずは出発点です。
 2つめは、ほかにはないのか。少なくとも、私立大学に転職した人たちすべてを洗い直し、同じような不正が見つかれば厳正に対処することが必要です。
 3つめは、転職に当たってのルールの厳格化です。これまでも法令にのっとって対応してきたというのが公式の見解です。しかし、そうしてきたのに起きてしまったのには何らかの甘さがあったはずです。緩みを引き締める必要があります。
 4つめは、ことは文部科学省だけのことなのか。文部科学省内部からは「何もうちだけではないのに」という声が漏れ聞こえてきます。他省庁でも同様なことはなかったのか、これを機会に総点検する必要があります。

 こうした組織的なタガの緩みは、本来政治的に中立であり、社会に対して公平であるべき行政に外部から、とりわけ政治の介入の余地を生むことになりかねません。だからこそ、まずは自ら襟を正すことが求められるのです。28年前に起きたリクルート事件を思い出すと、当時の前事務次官の逮捕、幹部の更迭という事態に、誰が幹部を刺したのかといった余計なうわさが先行して、襟を正すまでに時間がかかったのを覚えています。今回もそうした内向きの議論が横行し、疑心暗鬼を生まないようにすることが必要です。そのためには、徹底的に膿を出し切らなければなりません。文部科学省にとっては、3年後の2020年に向けて、教育内容や大学入試の改革を進めようという大事な時期を迎えています。そんな中、職員には、足の引っ張り合いに終始して行政が滞ることがないように、心して職務を全うするよう求めたいと思います。

(早川 信夫 解説委員)

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