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時論公論

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時論公論スペシャル「2017年 動く世界 日本の針路」

関口 博之 解説委員 / 二村 伸  解説委員 / 島田 敏男 解説委員 / 西川 吉郎 解説委員長

過激な発言で注目されたトランプ氏がいよいよ大統領に就任するなど今年は世界が大きく動く兆しを見せています。その中日本の針路はどのような方向に向かうのか、西川解説委員長の司会で、国際担当の二村、経済担当の関口、政治担当の島田、の各解説委員と今年の課題と展望を考えました。

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今年の正月一番に入ってきた大きなニュースは、トルコでのテロでした。昨年末のベルリンに続く大規模なもので、テロの不安が覆う中で一年が始まりました。今年の課題と展望を一言で言うとどうなるのかききます。

(二村)
不確実性と不透明さを増す厳しい1年になりそうです。
テロはいつどこで起きても不思議でない時代です。欧米ではイスラムへの偏見や不信感が憎悪と新たなテロを招くという負の連鎖が続いています。トランプ氏はIS対策に力を入れると述べていますが、テロは力づくでは抑えきれません。テロに立ち向かうには国民の結束、各国の連携が不可欠ですが、今の世界は社会の分断や宗教・宗派対立、孤立主義などによってテロに対して脆弱になっています。世界秩序が揺らぐ中で、安全と安定した暮らしをいかに守るか、政治の役割がこれまで以上に大きいと思います。

(関口)
▽年が明けても株式市場は強気です。
東京株式市場の新年最初の取引も終値は480円近い値上がりでした。ただ、今のトランプ相場が、「期待先行」なのは皆分かっています。大型減税やインフラ投資、規制緩和といった政策の「良いところ取り」なわけで、それがある日、見込み違いだったとなって、相場も一変するリスクもあるのです。
だとすれば日本は企業も政府も、複数のシナリオを常に想定して、備えておくことが必要になります。難しい年になりそうです。

(島田)
日本にとっては近隣の国々との関係をどうコントロールして行くのかも課題になりそうです。年末に安倍総理がハワイの真珠湾に慰霊の訪問をし、それに同行した稲田防衛大臣が帰国の翌日に靖国神社に参拝して、中国政府と韓国政府が非難や懸念の声を挙げています。
日中韓3か国の首脳会議を日本で開くことが課題になっていますが、調整が難航する可能性もあります。稲田大臣の靖国参拝は国内のナショナリズムを重視する人たちを意識した行動と見られますが、閣僚ですから近隣外交にも配慮する必要があると思います。

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【解説のポイント】
今回の「解説のポイント」は次の通りです。▼まず、トランプ政権とともに始まる2017年、どのような始まりとなるのか、▼次いで、この中で日本の政治はどのような動きとなるのか、▼そして、トランプ政権を軸に大きく変わろうとする世界の政治と経済を見ていきます。▼特に、世界の秩序の会議を握るアメリカ、ロシア、中国の関係はどのような構図を描き、そこに日本がどのように関わっていくことになるのか、考えます。

【2017年、トランプ政権始動】
(西川)
1月20日のアメリカの大統領就任式は、今年の世界政治の実質的なスタートです。
正式に発足するトランプ政権が、どのような方向に向かうのか、二村さんにききます。

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(二村)
トランプ氏の出方を予測するのは困難ですが、最初の100日間、何を優先し、どう乗り切るかにかかっていると思います。まずは議会での閣僚の承認が最初の関門となります。政治経験のまったくないトランプ氏にとって閣僚に頼るところが大きいわけですが、大手金融会社出身のムニューチン氏など選挙中トランプ氏が批判し続けたウォールストリートの出身者や、大手石油会社CEOをつとめたティラーソン氏など大企業のトップ、それに軍出身者が主要ポストを占める見通しです。格差への反発やエリート層への不満の声をくみ上げて当選したトランプ氏ですが、指名された閣僚には億万長者が何人もいて史上最も裕福な政権とも言われます。はたしてこの陣容で有権者の期待にこたえることができるのか、外交では他国への関与を弱める孤立主義に向かうのではないか、また経済・通商政策では保護主義的な傾向を強めるのではないかと言われますが具体的な政策はまだ見えません。20日の就任演説に注目したいと思います。

(西川)
具体的な政策となるとまだまだ不明の点も多いと言うことで、日本にとっても全く目の離せない状態が当面続きそうです。

(島田)
トランプ大統領は目立つことが命という政治スタイルだから、最初は今までの大統領とは相当違うことを言うでしょう。しかし、経済でも安全保障でも実際に日米関係をコントロールしてきた実務官僚たちは長年の積み重ねの大切さをよく知っています。
トランプ氏は儲けを探すことが信念ですから、日米共通の利益について改めて丁寧に説明をしていけば混乱は避けることができるだろうという見方が永田町、霞が関では大勢です。まあただ、これが希望的観測でなければいいんですけれどもね。

【年明けの経済は】
(西川)
経済に目を向けてみます。マーケットはきのう1月4日から始まっています。まず、日本経済の見通しはどうでしょう、関口さん。

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(関口)
▽日本経済の先行きを見る上で、私が注目するのは為替相場です。こちらはトランプ氏の当選後、米国の景気回復期待から急速は円安ドル高が進んでいます。大統領選挙前の1ドル105円台から足元は117円です。
▽円安は輸出産業を中心に企業の収益を押し上げるという点ではプラスです。それが賃上げに繋がっていけば、消費の拡大、景気回復も見込めます。
ただ一方で、円安は輸入品など物価の上昇も招くので、そちらが強く出てしまうと、消費の節約志向が強まるかもしれません。春闘の時期までに、円安はしばらく続きそうだという見方が経済界で定着し、賃上げムードが高まるかどうかが、一つの焦点になりそうです。

(西川)
円安が賃上げも左右するというわけですね。

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▽そう、そこで問題は、トランプ新大統領がこの円安をどこまで容認するのか、になります。
円安ドル高はアメリカからみれば、輸出には不利で貿易赤字を拡大します。
トランプ氏がこれに批判を強める可能性もあるのです。そうなると相場が反転して、円高に向かいかねません。物価の上昇は抑えられますが、その分デフレ脱却はまた遠のきます。企業収益が減るので、賃上げも期待できないということにもなります。どちらの側に振れるのか、現時点では読み切れません。

(島田)
円高になればアベノミクスの前提が崩れますから、安倍政権への打撃は大きいですよね。

【日本の政治は】
(西川)
年の始まりの動きはこれまで見てきたような動きになっているわけですが、こうした環境の中で、日本の政治はどのように推移することになるのでしょうか。

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(島田)
安倍総理は年頭記者会見でもアベノミクスをふかし経済最優先で臨むと言っていましたが、驚くような成果を出すのは簡単ではないと思います。画面は向こう5年間を示すものです。
2017年の政治の動きを考える時に、自民党の総裁任期の延長と、衆議院議員の4年間の任期との関係を繋ぎ合わせて考えることが鍵になるように思います。
今の自民党の総裁任期は1期3年で2期6年までですが、ことし3月の党大会で3期9年まで延長することを正式に決定する予定です。
安倍総理・総裁は長期政権の実現に強い意欲を燃やしているようですので、仮に来年9月の自民党総裁選挙で連続3期目の当選を果たせば、理屈の上では2021年9月まで政権の継続が可能になり、歴代最長の在任期間が視野に入ってきます。

(西川)
その可能性と衆議院議員の任期がどう絡んでくるのでしょうか。

(島田)
安倍総理が今年の秋以降の解散・総選挙を選び、その結果、自民党中心の政権が継続するということになれば、そこで選ばれた衆議院議員の4年間の任期満了が、自民党総裁の延長後の任期切れのさらに先になります。
その間の2019年秋には消費税率の10%への引き上げという大きな日程があります。
与党内でも「まさに3度目の正直で避けて通ることはできない」という見方が専らですが、増税ですから、その前後には時の政権与党に厳しい逆風が吹く可能性があります。
与党議員の本音は「できれば消費税率の引き上げ前後の厳しいタイミングで選挙になるのは避けて欲しい」というものです。政府・与党の御都合主義と言えばそれまでですけれどもね。
そこで安倍総理の周辺では、今年の早い時期の解散・総選挙に拘らずに、今の衆議院議員の任期満了が来年の年末であることを念頭に置きながら、選択の幅を拡げる検討を始めているようです。

【世界の政治情勢】
(西川)日本の政治は長期的な視点で見ていくことが必要だということですね。ここで、世界に目を向けていきましょう。今年は、アメリカとともに、ヨーロッパの政治の動きがやはり気がかりです。

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(二村)
排外主義や保護主義の広がりは、アメリカとヨーロッパに共通しています。イギリスの経済誌エコノミストの表紙には今の世界を象徴する人物たちが描かれています、トランプ氏の隣で笛を吹くロシアのプーチン大統領、この2人に従うのがイギリスの国民投票でEU離脱を勝ち得たファラージ氏と、フランス大統領の座を狙う極右・国民戦線のルペン党首です。タイトルは「新しいナショナリズム」です。濃い霧の中、笛や太鼓に人々は踊らされるのでしょうか。ポピュリズムとナショナリズムが台頭する中でヨーロッパは今年選挙イヤー、将来を左右する重要な1年となります。

(西川)今年の主な政治日程がこちらです。

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(二村)
3月にオランダ、4月・5月にフランス、そして秋にドイツで重要な選挙が行われますが、これらの国でも、反EUや反難民を掲げた政党が支持を拡大しています。

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そのヨーロッパではすでにイギリスのキャメロン首相とイタリアのレンツィ首相が、去年国民投票で敗北し退陣、フランスのオランド大統領も次の大統領選挙への立候補を断念するなどリーダーが相次いで姿を消しています。世界各国で政治不信が強まり、民意をくみ取らないと手痛いしっぺ返しを食らいかねないのです。
そうしたポピュリズムのうねりは今年も止まりそうにありません。オランダでは極右・自由党が第1党に躍り出る勢いで、フランスでも極右・国民戦線のルペン党首が注目の的、もし勝つようなことがあればまさに第2のトランプ・ショックです。ルペン党首はEU離脱の是否を問う国民投票を公約に掲げでいます。「イギリスが抜けてもEUは持ちこたえられるが、フランスが抜けたら終わり」と言われ、世界の政治・経済への影響ははかりしれません。ドイツでも4期目を目指すメルケル首相に対して、反難民を掲げる右派政党が支持を伸ばしています。
ヨーロッパの経済共同体設立を定めたローマ条約の調印から今年60年を迎えますが、ヨーロッパの特徴だった寛容さと多様性のある社会は変質し統合はかつてない危機に瀕しています。

(西川)
選挙以外にも不安材料があります。その1つがイギリスです。

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(二村)
イギリス政府は3月末までに離脱を通告する方針ですが、交渉は難航必至で、これまで静観していた日系企業の移転の動きが活発化する可能性もあります。さらに、財政危機や銀行の不良債権問題を抱えるイタリアも大きな不安要因です。今年総選挙が行われる可能性もありますが、ユーロ離脱を掲げる野党が支持を伸ばしています。EUの不安定化、弱体化は世界の安定を脅かし、多数の企業が進出している日本にも影響は少なくありません。

【世界の経済情勢】
(西川)
EUは大きな岐路に立たされています。EUの動向は、世界経済を左右する大きなファクターになりそうです。世界経済を考えて行きます。今年の世界経済、どのような観点から見ていったらよいでしょうか。

(関口)
▽今年の世界経済は「景気を押し上げる力」と「足を引っ張りそうな力」のせめぎ合いになりそうです。プラス期待の要素としては、トランプ氏が打ち出している大幅な法人税減税や所得税の減税。それに10年で1兆ドルを超えるとするインフラ投資が米景気を牽引するはずです。
また、他の先進国でもトランプ現象の前から、財政政策を積極的に使おうという動きが出ています。
そして、先のOPECの減産合意を受けた原油価格の上昇も、穏やかに進むのであれば産油国や資源国の経済には恩恵になるでしょう。

(西川)
しかしながら懸念材料もあるわけですね。

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▽そうです。アメリカのFRBは今年も利上げを続けていく見込みです。
その前提である景気回復を見越して、市場金利は既に大きく上がっているのです。だから円安にもなっているわけですが、これは実は新興国には厳しい逆風です。新興国に投資されていた資金が、金利が上昇した米国に還流すれば、新興国は資金の流出と自国通貨安で苦境に陥ってしまいます。
また二村さんが指摘した、ヨーロッパの不安定な政治情勢は経済面でも心配の種です。
ですが、やはり最大の懸念は、トランプ氏の保護主義的な政策です。
自国産業と雇用を最優先し、自由貿易に背を向ける姿勢は選挙中から鮮明で、TPP=環太平洋パートナーシップ協定からの離脱もそうですが、さらにNAFTA=北米自由貿易協定の再交渉なども言っています。本当にこの方向に動くなら悪影響は避けられません。

(島田)
世界経済の動向に詳しい銀行の幹部などに聞きますと、「トランポノミクスは一進一退を繰り返すだろう」という見方が多いですね。
トランプ政権は今までと違う政策を打ち出そうとして、様々な試みにチャレンジして期待を持たせるけれども、結果として失敗するものも多いことを織り込んでおく必要があるという慎重な見方ですね。

【世界の大国関係と日本】
(西川)
さて、国際政治はトランプ次期大統領を軸に、大きく動く兆しが見えています。特に、個別には世界秩序の鍵を握るロシアそして中国と、アメリカの関係、力の構図はどうなるのか、米ロ関係の変化の可能性から。

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(二村)
トランプ氏は、プーチン大統領を評価する発言を繰り返し、プーチン氏とパイプがあるティラーソン氏を国務長官に指名したことから、オバマ政権下で冷え切った米ロ関係は改善に向かうと見られます。しかしその一方で、トランプ氏は、強いロシア、大国の復活を目指すプーチン大統領に対抗して核戦力の大幅強化・拡大を目指す考えを示しており、米ロの協調関係がすんなり進むかは予断を許しません。また、急速なロシア接近は、日本やEUとの軋轢を生む可能性もあります。力による国境線の変更を認めないという原則に基づき対ロシア政策でアメリカのもと結束してきた日本やEUは梯子を外されかねません。

(島田・米ロ)
新たな冷戦とならないように米ロが接近するのは悪くないが、2大核大国として君臨し、オバマ大統領が進めようとした究極の核廃絶をあざ笑うようなことになるのは不幸です。権力を掌握していることを核兵器の保有で象徴的に示そうという姿勢は、歴史の流れを逆行させるものですので、日本が厳しい目を向けるべき点だ。

(西川)
アメリカ・ロシアのはざまで、日本は、ロシアに対して平和条約や北方領土の交渉はどのようになるのでしょう。

(島田・日ロ)
安倍総理の周辺に聞くと、先の山口県長門市の2人だけの会談で、将来の平和条約の締結に向けて相当踏み込んだ所まで話し合ったようです。しかし、北方領土をどういう姿にするかまでは詰めていない。「4島の帰属」という問題を強調しなかった点では、安倍総理の譲歩に他ならないので、ことしの日ロ間の交渉こそが正念場だと思います。

(西川)
次いでアメリカと中国はどうでしょう。

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(二村)
トランプ氏はロシアへの態度とは対称的に、中国には選挙中から為替操作や南シナ海での活動などを批判し、大統領就任後も厳しく臨む姿勢を見せています。中でも中国に衝撃を与えたのが、歴代政権が順守してきた「1つの中国」政策に疑義を唱えたことです。中国では今年秋、5年に1度の中国共産党の重要な会議が開かれるだけに、権力基盤固めを図る習近平国家主席にとって看過できない問題です。アメリカの調査会社が3日発表した今年の世界の10大リスクのトップはトランプ氏のもとで「独自の道を進むアメリカ」、次いで「中国の過剰な反応」。米中の対立を懸念したものです。中国をいたずらに刺激、挑発しては地域の緊張が高まり、日本に跳ね返ってくるおそれもあるだけに日本としても傍観できません。

(島田・日中)
「1つの中国」の問題に対して、トランプ政権がどういう姿勢を示すのかは、まだ不透明ですけれども、台湾を「利益をもたらす大事なパートナー」と位置づけるならば、次第に中国は我慢できなくなり新たな火種になりかねないでしょう。
日本としても、尖閣諸島周辺の東シナ海での中国の行動が眼にあまるようならば、台湾との関係を深める牽制球を繰り出すことも選択肢に入れて行く必要性が出てきます。
東シナ海への中国の進出は、安全保障上、厳しく監視しなければいけないポイントです。

(西川)
日本が中国にどう向き合うかは、さらに難しくなる懸念がありますね。

【米中間の通商問題】
(西川)
さらに、その中国とアメリカとの関係では、通商面でも十分に注意しておく必要がありそうです。

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(関口)
▽アメリカの保護主義が、最初に吹き出しそうなのが、米中の通商摩擦問題だと思います。中国の対米貿易黒字は2015年で3600億ドル・日本円で42兆円にのぼります。
トランプ氏はこれを、アメリカから富と雇用を奪っていると批判しています。
輸入品に45%もの高関税をかけることや、中国が通貨人民元を意図的に安く誘導している「為替操作国」に認定する構えも見せています。
ただこれは、直近では中国自身が資本流出を怖れ、人民元安をむしろ止めようとしているので、トランプ氏の認識はややずれているところもあるのだが・・いずれにせよ、為替操作国に認定出来なくても、使える手段という点では他にも、ダンピングやセーフガードの発動等もあります。
現に、トランプ氏は新たに設ける酷寒通商会議のトップに、「対中強硬派」で知られる大学教授のナバロ氏を指名しました。また通商代表にも同じく対中強硬派のライトハイザー氏を決めています。
案外、早い時期に、こうした手だてを打ち出してくる可能性もあると思います。

(西川)
トランプ氏は日本にも通商問題では注文をつけてきている。

▽日本としては、まずは中国に対するアメリカの出方を見極めるという手でしょう。
ただ、日本の成長戦略の柱のTPP=環太平洋パートナーシップ協定については、トランプ氏を説得し、翻意させるのは当面難しそうです。
逆に、どんでん返しのシナリオも考えれば、対立していたはずの米中で、取引が成立し、を結ぶという可能性もゼロではありません。その時は今度は、日本がトランプ氏の攻撃の矢面に立たされるという事態も起こりえます。
「トランプ政権についての予測の難しさ」とはそういうことなのです。

(二村)
トタンプ氏が言う一国主義と違い、日本には多国間主義が必要であり、その1つがEUとの関係です。EUは危機に瀕しているとは言いましたが、人口5億    、世界のGDPの22%を占め、日本にとっても米中に次ぐ輸出相手、輸入は中国に次ぐ存在であるばかりでなく、アメリカとならび民主主義や価値観を共有するパートナーです。TPPの発効が当面見通せなくなった中で、EUとの経済連携協定は大きな意味を持ち、今年初めの大筋合意をめざし重要な局面を迎えています。もちろん日米同盟が軸であることは変わりませんが、世界秩序が塗り替えられようとしている中で、アメリカ一辺倒ではなく独自の外交戦略を打ち出していくことも必要だと思います。

【今年の日本の課題まとめ】
(西川)
いずれにしても、世界は今年大きく動ことは間違いありません。改めて、その世界の中で、日本の課題は何か、まとめてもらいます。

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(関口)
▽世界経済がトランプ政権に振り回されそうな中で、日本としてやるべきは、むしろ地道に自ら出来る改革を進めることではないかと思います。
例えば「働き方改革」です。これまで切り込めなかった労働・雇用環境の問題にじっくり取り組むいい機会です。働き方改革の現状はどうかといえば、女性が働きやすい社会のために掲げた「配偶者控除」の見直しでしたが、結局、新年度の税制改正では中途半端な結論に終わりました。
一方、「同一労働同一賃金」については、正規非正規の間で格差を付けてはいけない点等がガイドライン案にまとめられ一歩前進、これをどう具体化するかです。 
さらに「長時間労働」をどう減らすのかという問題にも本格的に取り組まなければなりません。
民間企業を巻き込み、働く人たちの意識も変えていく、そういう「腰を据えた政策」が大事だろうと思います。

(西川)
日本については、日米関係もそう簡単ではなさそうです。

(島田)
沖縄の普天間基地の移設問題でトランプ政権が従来の政権とは違う方針を示すことがあるかどうかが鍵です。ただ、それが日本に対し防衛費や在日米軍の駐留経費の大幅な増額を求めるだけの変化であれば時間をかけて修正を求めなければならないでしょう。
日本国民の中には、トランプ政権はアメリカ軍と自衛隊の一体化を強引に進めようとするのではないかという根強い懸念の声があります。
アメリカが本音をむき出しにして要求を突き付けてくるかもしれませんが、日本は冷静にできることとできないことを説いて聞かせる必要があると思います。

(西川)
あと外交面で気がかりなのは、日本の南スーダンでのPKOです。

(二村)
南スーダンのPKO活動は今年も論議を呼びそうです。国連は南スーダンが全面的な内戦に突入し虐殺が起きる可能性があるとしているだけに、今後情勢が悪化したときに難しい対応を迫られる可能性もあります。リスクを覚悟の上で活動を続けるのか、どの段階で撤退なのか幅広い議論と説明が求められます。

(島田)
南スーダンのPKOは、現地の安全が確保できない状態になったら、粛々と活動を終了し、撤収するのが政治の責任です。

(西川)
国内政治的には、やはり解散・総選挙の時期が焦点になります。

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(島田・2017年の政治)
先ほど今年はこの先数年の先行きを展望しながら政治が動くだろうと申し上げましたが、ことしの主な政治日程を見ると、不確定で流動的な面が浮かんできます。
5月には最高裁判所から求められていた衆議院の一票の格差を是正するために、小選挙区の新たな区割りが審議会から勧告されます。これを受けて国会で法改正の手続きが取られ、そうすると夏の終わり以降には、新たな区割りで総選挙が行われることになります。
解散権の乱用だという批判もありますが、そこまで待って安倍総理が年内の解散・総選挙に踏み切るのかどうか。
そして総選挙に向けた民進党や共産党など野党4党の小選挙区での候補者調整がどこまで進むのかも焦点になってきます。1人を選ぶ小選挙区で、有権者に対し分かり易い明確な絞り込みができるかどうかが野党側に問われています。

(西川)
今夜は、「動く世界と日本の針路」をテーマに考えてきました。日本の国内政治は、総選挙のタイミングをはかりながら進んでいきそうです。一方、トランプ政権の登場は、特にヨーロッパで排他的な勢力を勢いづかせ、負の連鎖を広げていくことになるのでしょうか。今年、反グローバル化の波が一層広がることになるのか、世界は大きな転換点を迎えています。ただ、グローバル化によって生じた弊害は、排他的なナショナリズムでは解決できず、グローバルなやり方でしか解消できないことは自明のように見えます。日本は、この大きなうねりの中でどのように国際協調の道を探っていくのか、試される年にもなりそうです。

(西川 吉郎 解説委員長/二村 伸 解説委員/関口 博之 解説委員/島田 敏男 解説委員)

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