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「"辺野古裁判"沖縄県敗訴で基地問題は」(時論公論)

安達 宜正  解説委員
西川 龍一  解説委員

(西川)
沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設先とされる名護市辺野古沖の埋め立てをめぐり、国が沖縄県を訴えた裁判で、最高裁判所は県側の上告を退ける判決を言い渡しました。県の敗訴が確定することになりますが、翁長知事は移設を阻止する姿勢を崩さないうえ、新型輸送機オスプレイの事故によって県民の反発や不信感が一層強まっていて、国と沖縄の溝は深まるばかりという状況です。
政治担当の安達解説委員と共にこの問題について考えます。国は、今回の判決について、どう受け止めていますか?

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(安達)
政府関係者に取材してみましたが、敗訴は想定していなかった。勝訴を確信していました。むしろ、気にしているのは翁長知事の今後の出方です。菅官房長官は「日本は法治国家」と強調し、ことし3月に和解した際の和解条項、「司法判断が示された場合には判決に従って、誠実に対応する」という合意を繰り返し述べています。「あらゆる手段を駆使して、建設を阻止する」という姿勢を変えない翁長知事をけん制しているということでしょう。

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(西川)
沖縄からは、今回、最高裁が弁論を開かずに判断を示したことに対する失望と大きな憤りの声が上がっています。最高裁の判決は、「前の知事が普天間基地の騒音被害や危険性の除去が課題であることを前提に、辺野古沖の埋め立ての規模や位置が適正で合理的だと判断したことに違法性はない」などとして、翁長知事の承認取り消しを違法と判断しました。
県としては、沖縄に過重な負担がかかり、国全体の問題として考えるべき基地問題という性質を踏まえ、最高裁でも翁長知事が沖縄の現状を訴える機会が設けられることを期待していました。しかし、意見を述べる場すら与えられず、門前払いの形となったわけです。
ただ、福岡高裁那覇支部の判決が安全保障上の観点から「普天間基地の被害を除去するには辺野古沖の埋め立てを行うしかない」とまで踏み込んだ部分については、最高裁は触れませんでした。

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(安達)
そういう沖縄県民の声も背景に、翁長知事は辺野古移設阻止を掲げていくということですね。

(西川)
裁判で敗訴が決まったとしても、翁長知事にとって辺野古移設を認めないことが最大の公約であることに変わりはありません。知事が行使できるあらゆる手段を使って移設を阻止する構えは崩していません。具体的には、今年度で期限が切れる辺野古沖のさんご礁の開発許可を更新しないことや、埋め立て工事の設計や工法の変更といった知事の承認が必要な事項について認めないといった方法を検討しています。

(安達)
翁長知事が対抗手段をとってきた場合、政府自民党には沖縄県に対し、損害賠償請求も検討すべきだという声もあります。ここまで工事が遅れた原因は沖縄側にあるという理由からです。ただ、そうなると翁長知事ばかりではなくて、沖縄県民の感情を逆なですることにもなりかねませんので、現実問題としては難しいという意見もあります。
この問題。普天間基地が世界一危険な基地ともいわれ、その危険性を除去しなければならないという認識は国も沖縄県も同じです。平成7年のアメリカ兵による少女暴行事件。当時の社会党の村山内閣で、私も官邸で取材していました。その後の橋本政権、そして歴代政権がアメリカ側と難しい交渉を行った結果、辺野古沖への移設で決着しました。国は「辺野古への移設が唯一の解決策」という立場は変えられない。これを変えることになれば、普天間基地の移設はいつまでたっても、実現しないという思いが強いことも確かです。

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(西川)
その移設が問題となっている普天間基地に所属し、配備への反対が強かった新型輸送機オスプレイが、今月13日に事故を起こしました。防衛省は名護市沖の浅瀬に不時着したとしていますが、機体がバラバラになって大破した様子を見ると、名護市の稲嶺市長が現地を訪れた若宮外務副大臣に「不時着ではなく墜落ではないか」と質したのも当然だと思います。同じ日には、普天間基地に所属する別のオスプレイ1機も飛行中に機械的なトラブルを起こし、基地に帰還した際、胴体着陸していたことも明らかになりました。
沖縄では今月、オスプレイが宜野座村の住宅地の上空で物資をつり下げて運ぶ訓練が確認され、沖縄防衛局が抗議する事態も起きていました。普天間基地への配備から4年が経ってオスプレイが徐々に難易度の高い訓練を導入しつつある、つまり今後、事故の危険性が高まるのではないかとの指摘もあります。

(安達)
在日アメリカ軍がオスプレイの配備を計画していた段階から、国会での議論を取材してきました。オスプレイがほかの輸送機と比べ、事故が多いという問題は当時から取り上げられてきました。ただ在日アメリカ軍の運用、特に平時の場合には日本政府は口出しできないという理由もあって、配備が進んできました。そんな中で起きた事故ですから、「たいへんなことが起きた」という認識は政府部内にもあります。稲田防衛大臣が在日アメリカ軍のマルティネス司令官に対し、事故直後、事故原因の究明と情報提供、安全が確認されるまでオスプレイの飛行を停止するように求めたことは、当然のこととは言え、その表れです。
ただ、いったん、オスプレイの飛行は中止されたもの、原因は空中給油機によるトラブルの結果で機体に問題がある可能性は極めて低いとして、事故から一週間に満たない、わずか6日の19日に飛行が再開されました。これでは沖縄県民は当然ながら、今後、配備が計画されている基地周辺の住民の理解が得られないと考えなければならないでしょう。

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(西川)
その点について、翁長知事は「日米地位協定のもと、日本が主体的に物事を判断できる状況にない。当事者能力がない」と批判しました。

(安達)翁長知事からすれば、その通りでしょう。それに加え、日米の地位協定が壁になって、日本の捜査当局が事故現場や機体の捜索などに加われず、思うように捜査が行えないことを問題視する声もあります。

(西川)オスプレイは、アメリカ軍空軍も東京の横田基地にも配備することが決まっていますし、本土にも複数の訓練ルートがあることがわかっています。また、日本の陸上自衛隊もオスプレイ17機を3年後から順次導入することを決めていて、佐賀空港に配備する計画です。しかし、佐賀県の山口知事は、徹底的な原因究明をうやむやにしてそうした議論はあり得ないという考えを示し、防衛省の計画にも影響が出るのは避けられない状況です。

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こうした状況の中で、沖縄のアメリカ軍トップのニコルソン四軍調整官が、事故後の記者会見で、事故を起こしたオスプレイのパイロットについて、「素晴らしい仕事をした。沖縄の人を危険にさらさなかったパイロットの判断は遺憾に思わない」と述べたことには、大きな違和感がありました。軍用機がトラブルを起こした場合、パイロットが影響を最小限にするためにあらゆる努力をすることは当然のことです。不安を募らせる沖縄の人たちに向かって言うことではありません。

(安達)
その発言。軍事の論理としては正しいのでしょうが、そういう発言が当然のように発せられることは日米同盟にプラスには働かないでしょう。アメリカ大統領選挙で、当選した、トランプ次期大統領がいわゆる「安保ただ乗り論」を述べて、駐留経費の増額を求めたことがありました。日本の防衛だけでなく、アメリカの世界戦略のために駐留しているのに、「いてやっている」という認識が根強いことを垣間見た感じがします。

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(西川)
さて、沖縄の基地問題では、今月22日、日付が変わったので、あすも大きな動きが控えています。本島北部にある海兵隊の北部訓練場の一部の返還です。総面積7500ヘクタールのうち、半分以上の4000ヘクタールが合意から20年近くを経て返還されます。沖縄のアメリカ軍専用施設の20%に当たり、全国の施設に占める割合も74.4%から70.6%に低下することから、政府は、この返還を沖縄の基地問題の中で目に見える負担軽減だと言っています。しかし、沖縄県内の評価は分かれています。一つは、集落近くの返還されない場所にヘリコプターの発着帯6か所が整備されること。もう一つは、原生林で、人が住んでいる場所ではないこと。さらに、国有地であるため、地元の人の土地が戻るわけではないことなどです。

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(安達)
政府としては、負担軽減の目玉という認識でしょう。ヘリパッドの建設は返還の条件で、政府は環境アセスメントで足りないところは、事後調査を実施する。しかも地元自治体も返還を要望しているのだから、大きな問題はないという立場です。ただ、ほかの基地や施設の返還、代替施設が返還の条件となっていることが、問題を難しくしていることは確かでしょう。普天間基地の返還はその象徴です。

(西川)
その建設工事を巡る強引とも言える手法も反発を呼びました。中断されていたヘリパッドの建設工事が再開されたのは、夏の参議院選挙の沖縄選挙区で、辺野古移設を推進する現職の沖縄北方担当大臣が落選した翌日でした。工事用の車両を自衛隊の大型ヘリコプターが現場まで運ぶという異例の措置が取られたほか、警備にあたっていた大阪府警の機動隊員が反対運動をしている人を「土人」と呼んだことも大きな問題となりました。
1つ忘れてならないのは、今回のオスプレイの事故が、北部訓練場での訓練にも直接波及することです。整備されたヘリパッドは、事実上、オスプレイが専用に使うことになるからです。普天間、辺野古、北部訓練場に共通するキーワードが海兵隊のオスプレイということを知る必要があります。
最後に今後の政府の動き、どうなりそうですか?

(安達)
最高裁判決を大義にして、いわば「錦の御旗」として、辺野古沖の埋め立て工事を再開することは間違いないでしょう。そして、工事がさらに遅れた場合には実際に損害賠償を求めることも視野に強硬姿勢で臨むこともあるかもしれません。衆議院解散がなければ、沖縄県内で大きな選挙がないことも、そうした姿勢を後押ししているという見方もあります。一方で北部訓練場の返還に続いて、嘉手納基地以南の基地や施設の返還を進め、負担軽減には努力している姿勢を示す。またことし8月、自民党幹事長に就任した二階氏を通じて、翁長知事との対話の道を探ることも選択肢でしょう。。硬軟織り交ぜながら、進めていくことになるでしょう。

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(西川)
沖縄防衛局は、オスプレイが事故を起こした翌日に、普天間基地の移設予定地に隣接するアメリカ軍のキャンプシュワブの陸上部分の工事を再開させました。埋め立ての本体工事とは別の工事ではありますが、沖縄県民の気持ちに寄り添うと繰り返す政府の言葉からすれば、言っていることとやっていることが違うのではないかと思われても仕方がない状況です。先日私が会った、辺野古移設に反対だという沖縄の20代の男性は、「基地は出て行って欲しいが、基地の苦しみを知っているだけに県外の人に押しつけることになれば、それはそれで心苦しい」と話していました。多くの沖縄の人たちの心情でしょう。たとえ北部訓練場が返還されても、依然としてアメリカ軍専用施設の70%が集中するという事実をどう考えるのか、沖縄に対する甘えとも言える大きな負担は続くことを忘れてはならないと思います。

(西川 龍一 解説委員/安達 宜正 解説委員)

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