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時論公論

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「反グローバル化にどう向き合うか」(時論公論)

二村 伸  解説委員

きょうはアメリカ大統領選挙のトランプ氏勝利に見る反グローバル化の広がりについて考えます。

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まず、アメリカ大統領選挙の結果に対する反応、ヨーロッパでは両極端でした。フランスの極右・国民戦線のルペン党首は、「新しい世界を作る一歩だ」と述べ、ハンガリーのオルバン首相も「素晴らしいニュースだ」とコメントするなど、移民や難民の排斥などを訴えるいわゆるポピュリストからいっせいに歓迎の声が上がりました。

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一方、多くの国の首脳からは警戒感がうかがえます。トランプ氏の言動に吐き気がするとまで酷評していたフランスのオランド大統領は「不確実性の時代が始まる」と危機感を表明、ドイツのメルケル首相は「人権と個人の尊厳は出身地や肌の色、宗教、性別を問わず守られなくてはならない」した上で「こうした価値観を共有するならともに働く用意がある」と注文をつけました。

アメリカの次期大統領に決まったトランプ氏は、選挙期間中、自由貿易に反対し、移民や難民、イスラム教徒を蔑視するなどおよそアメリカ大統領候補らしからぬ排外的な発言が目立ちましたが、それを支持する国民が多かったことも衝撃でした。
貧富の格差や、既存の政治・エスタブリッシュメントへの不満・怒りがいかに強いか、また、社会の分断がいかに深刻かを浮き彫りにしました。

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そのトランプ氏は「偉大なアメリカを復活させる」と有権者に訴えました。実は、同じような発言は今年前半、イギリスでも聞かれました。EUからの離脱か残留かを問う国民投票で、離脱派がやはり「偉大な大英帝国の復活」を訴え、有権者の共感を得ることに成功したのです。
離脱派を主導した1人、イギリス独立党のファラージ党首代行は、先週いち早くニューヨークを訪れ、トランプタワーでトランプ氏の勝利を祝福し、2人の親密さをうかがわせました。イギリスではトランプ氏の勝利を「アメリカ版BREXIT」、アメリカ版EU離脱と伝えたメディアもあります。
この2つの国の有権者の選択は、今年の世界の2大サプライズとして、各国に大きな衝撃を与え世界を揺るがしています。

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解説のポイントは、アメリカとイギリス、両国に共通する問題と、欧米全体に広がる反グローバル化の危うさ、この2点です。

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このグラフは、アメリカの主要メディアが行った出口調査で、どの候補に投票したか、年齢別にあらわしたものです。トランプ氏とクリントン氏の支持は45歳を境に、若い人たちがクリントン氏、中高年層は過半数がトランプ氏支持です。

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一方、イギリスの国民投票でも、45歳を境目に残留と離脱で割れています。若い時からEUの中で移動の自由や就労の自由を享受してきた若い世代は残留、45歳以上の中高年層は、主権国家として古き良き時代の輝きを取り戻すことや移民の流入阻止を求めて離脱を選択しました。

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次に住む地域別に見ると、アメリカは都市部で過半数がクリントン氏、逆に地方ではトランプ氏に6割が投票しています。
イギリスでも世界の金融センター・シティーを抱えるロンドンなどの大都市でEU残留、景気の低迷や過疎に苦しむ地方では離脱が目立ちました。
このようにトランプ氏支持とEU離脱の支持層、クリントン氏支持とEU残留支持層には共通点がいくつかあります。そしてどちらの国も、所得や地域間の格差、世代間の溝は大きく社会の二極化が進んでいます。

なぜ、こうした状況が生まれたのでしょうか、それは、冷戦終結後、グローバル化が急速に進んだことの副作用と言うこともできます。人やモノ、情報が国境を越えて広がり、経済活動が活発化したことで、多くの国に経済成長をもたらした一方、経済発展の恩恵を受けられず取り残された人々も数多く生まれました。そうした現実に政府がしっかりと目を向けず、十分な対策をとらなかったつけが回ってきたのです。

アメリカでは、すでに5年前、ニューヨークで格差拡大などに抗議するデモが連日起きました。一握りの富裕層が富を独占しているとして、自らを「持たざる99%」と呼ぶ市民が金融街のウォールストリート占拠を呼び掛け、格差に反対する動きは世界500都市に広がりました。

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アメリカでは1%の富裕層が金融資産の4割を保有していると言われますが、低所得者層との格差は解消されるどころか、むしろ年々広がっています。世界全体では、わずか62人の富豪の資産が、世界の真ん中から下半分、36億人の資産にほぼ匹敵するという調査結果もあります。富める者はますます富み、貧しい人はますます貧しくなっています。

こうした格差や貧困、移民の流入といった事態に直面し、アメリカやイギリスだけでなくヨーロッパの多くの国々で反グローバル化の動きが広がっています。
その1つがEUの統合・深化に反対する動きであり、もう一つが移民や難民の流入を阻む動きです。

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これらの国々では移民や難民を敵視したり、大衆の不満や不安を煽って支持を得ようとしたりするいわゆる大衆迎合主義、ポピュリズムが台頭し、社会の分断に拍車をかけているといわれます。
一昨年のヨーロッパ議会選挙では、イギリスやフランス、ギリシャ、デンマークで、ポピュリストとされる政党が得票率20%をこえ躍進しました。トランプ氏の人種差別や保護主義、孤立主義的な発言は選挙向けとはいえ、既存の政治やエリート層を打ち破ったことが、これらの政党を勢いづかせる結果となったのも事実です。

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ハンガリーでは難民を加盟国が分担して受け入れるというEUの決定に反対するオルバン首相が、その是非を問う国民投票を10月に行いました。投票は有効投票率に達せず成立しませんでしたが、投票した人の98%が難民受け入れに反対し、異教徒へのアレルギーの強さを見せつけました。

12月4日には、オーストリアで大統領選挙の決選投票が行われますが、極右政党・自由党の候補者が1回目トップで、上位2人による決選投票に進んでいます。

さらに欧米諸国が、トランプ氏勝利の次の激震が起きる可能性があると強い懸念を抱いているのがフランスです。

国民戦線のルペン党首が高い人気を維持し、来年4月から5月にかけて行われる大統領選挙で決選投票に進む可能性が高いとされますが、ルペン党首は、イギリスのように、EU離脱の是非を問う国民投票を行うことを公約に掲げています。イギリスに続いてフランスが離脱となればEUの終わりを意味するだけに、今後のヨーロッパは大きなリスクをはらんでいます。

日本を訪れているドイツのガウク大統領は、16日都内でスピーチを行い、欧米の現状をこう話しています。
「欧米でも民主主義に反対する者が増えています。自由主義対反自由主義、民主主義対独裁体制という理念の優劣が問われる戦争を目の当たりにしていることを認識しなくてはなりません」

戦後の世界秩序が揺らぐ中で、反グローバル化の波をせき止めるのは容易ではありませんが、格差をはじめグローバル化によって生まれた様々なひずみを解消するために雇用や教育、低所得者支援など各国が協調して抜本的な対策をとらないと、保護主義や排外主義が広がり、新たな危機や紛争を招きかねません。大衆の声に真摯に耳を傾けることも大切です。かといっていたずらに不安を煽るような言動は社会の緊張を招きかねません。他者を受け入れる寛容さと、異なる宗教や人種、文化を互いに認め共存する、多様性のある社会を築くことが重要です。2つの大国で起きたサプライズを他山の石とし、政治への信頼を取り戻すための努力が今こそ求められていると思います。

(二村 伸 解説委員)

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