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「なぜ崩れた 福岡 大規模陥没」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

福岡市のJR博多駅前で、2016年11月8日、道路が大きく陥没しました。現場のすぐ下で行われていた地下鉄のトンネル工事が原因とみられています。国土交通省は、立ち入り検査をして、陥没の原因や工事に問題がなかったのかどうかなどを調べています。

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今回は
▽現場で何が起きて、なぜこれほどの大規模な陥没になったのか、
▽今後、原因の究明や再発防止を図る上で、何が焦点になるのか考えます。

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まず、当日何が起きたのかみてみます。
陥没は、午前5時15分に起きました。穴は、駅前の大通りの幅いっぱいまで広がりました。縦横およそ30メートル、深さ15メートルという大規模な陥没になりました。道路の下には、上下水道や電気、ガスなどが通っています。停電や銀行のオンラインシステムの障害、さらには周辺の建物の基礎の地盤も崩れるなど、影響が広がりました。

陥没地点の下では、福岡市営地下鉄の七隈線を延伸するためのトンネル工事が行われていました。この工事が原因で陥没したとみられています。

では、地下では何が起こっていたのでしょうか。
地下鉄の工事は、地下20メートルほどのところで行われていました。掘削工事は一度に掘るのではなく、3つの段階で行う計画にしていました。

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すでに、第1段階である、やや小さめのトンネルは掘り終えていました。

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事故は第2段階の工事をしているときに起きました。トンネルの高さを6メートル近くにするなど全体的に広げる工事を行っていました。トンネルは、これが上半分です。

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このあと下半分を掘って掘削は完了します。

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8日は、第2段階で掘っていたとき、岩盤の表面が欠け落ちてきたということです。
さらに、異常な出水があったので、作業員は避難するとともに、上の道路を通行止めにしました。地下で作業をしていた9人は、全員無事でした。

なぜ、これだけ大きな陥没になったのでしょうか?
ポイントは出てきた水がどこから来た水なのかという点です。

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トンネルを掘っているとき、地盤のヒビから水が出てくることがあります。トンネル周辺の水がしみ出てきたものであれば、勢いもなく抑えることができます。

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しかし、今回は違いました。

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出てきた水は、地表面から2メートル下のところまである地下水だったとみられます。トンネルの上には、水を通さない地層があり、地下水はその上にたまっています。この地層には、高さ14.5メートルの水が乗っていますので、高い水圧と土の重さがかかっています。

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トンネルに地下水が入ってきたということは、この地層に穴があいて、高い圧力の水が入ってきたことを示しています。

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勢いのある水は、トンネルを大きく壊し、土砂を巻き込んでトンネル内に入ってきたため、大きな陥没になったと考えられます。

それだけ、地下水を支えている地層は重要です。工事によって、この地層が損傷しないようにする対策をどのように取っていたのかが問われます。

では、トンネルの上の部分から出水した原因は何だったのでしょうか。
まだ、詳しい原因はわかっていませんが、これまでの福岡市交通局の説明から、次のようなことが考えられます。

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現場では、NATM工法という方法でトンネルを掘っていました。NATMは、オーストリアで考案されました。山岳トンネルで使われ始めた方法で、岩盤にトンネルを掘ることを前提にしています。1メートルほど掘り進んだら、表面にコンクリートを吹き付けて固め、補強を行って、再び1メートル掘る、ということを繰り返して進みます。

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トンネル周囲の岩盤が安定していることが必要ですが、水が出たトンネル上部が何らかの理由で弱かったとみられ、圧力の高い地下水が、土砂とともにトンネル内に入ってきた可能性があるということです。

では、こうした事故を起こさないために、どういった対策がとられてきたのでしょうか。
そのポイントとなるのが、地盤調査です。
特にこのトンネル上部は、弱点になりやすいだけに、岩盤の厚さや強度が十分かどうかを、調査をもとに慎重に判断する必要があります。

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福岡市交通局によりますと、施工する前にトンネルの左右両側でボーリング調査して、岩盤の深さを調べ、トンネルの上の岩盤の厚さが2メートル以上確保できるようにしていたとしています。さらに、施工中も、上部の地盤を調べ、水が出てこないか確認するとともに、薬液で補強するなどして十分な強度を持たせるようにしていたと話しています。

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ただ、福岡市内は、地層の深さが一定でないケースが比較的多い地域とされています。
それだけに、
▽地盤の調査をさらに細かくする必要はなかったのか、
▽岩盤の補強は十分だったのか、
など検証する必要があります。
そして、こうした対策をするための地盤調査や施工が適切に行われるようにする管理が十分行き届いていたかどうかという点も、調べることが必要です。

もうひとつ指摘されているのが、適切な掘削方法を選んだのかという点です。
NATM工法は、比較的費用が安くすむとされています。岩盤を掘り進むことを前提にしている方法であるため、岩盤の上に軟弱な地盤や地下水を含んだ地盤がある今回の現場で採用すると、技術的な難易度は高くなります。

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掘削方法には、他に都市のトンネルに多く採用されている「シールド工法」があります。
筒型の掘削機で円形の穴を掘るもので、掘削と同時に壁を取り付けるため、地下水が多い軟弱な地盤にも対応できます。
これについて、福岡市交通局は、今回の現場は駅に近いため、トンネルの形を次第に変化させる必要があり、掘削する形を変えられない、つまり自由度がないシールド工法は適さないとしています。

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そうなると、採用が考えられるのが「開削工法」です。
地上部から必要な深さまで掘って、トンネルを作り、上を埋め戻すという方法です。いったん土を取り除いてしまうという古くからある方法ですが、大量の土砂を掘削しなければならない上、工事の間、道路の交通に支障が出るだけに、今回の現場が駅前であることを考えると問題があります。
どれも、一長一短です。

ただ、掘削方法の選択は大きな判断であるだけに、立ち入り検査を行っている国土交通省は、NATM工法が妥当だったのかどうかにも注目して調べています。

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福岡市営地下鉄では、過去、2000年と2014年にも、NATM工法の現場ではありませんが、陥没事故を起こしています。交通局では、事故防止の委員会を設けて、今回の工事についても対策を検討していたということですが、事故を防ぐことができませんでした。
地下鉄工事では、ルートは、なるべく私有地を通らないようにするため、主に道路の下に限られます。さらに、他の地下鉄や埋設されているライフラインを避けるなど、建設には多くの制約を受けます。
その中で、地下水や、場所によって性質が異なる土を扱うため、一層難しい判断や技術が求められます。
陥没現場では、ライフラインの復旧と、道路の通行再開を目指して、作業が進められていますが、地下鉄については、工事再開の前に安全に施工できるよう余裕を持った設計がされているのか、過去の教訓を生かす態勢になっているのかなどの検証も十分行うことが求められます。
         
(中村幸司 解説委員)

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