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「"トランプ勝利"の衝撃」(時論公論)

島田 敏男  解説委員
西川 吉郎  解説委員
関口 博之 解説委員 / 髙橋 祐介 解説委員

世界をリードする超大国アメリカの次の大統領に、極端な発言が注目を集める一方、これまで政治経験のなかったトランプ氏が決まりました。予想外の展開が続いてきた大統領選挙。接戦と伝えられていたものの、トランプ氏の勝利には、世界に衝撃が走りました。
勝因は何か、これからアメリカはどのような道を進もうとするのか、日本を含む世界にどのような影響を与えるのかを考えます。

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(西川)
トランプ候補は、予備選挙の段階から多くの専門家の予想を覆し続けてきました。それでも、トランプ氏が大統領に当選するのは、これまでの常識では読み切れない番狂わせとも言える結果になりました。発言が過激なこと、政治家として経歴がないこと、そして70歳とこれまでで最も高齢で大統領に就任することなど、異例ずくめです。
世界に衝撃を与えたこの結果について、何に一番注目していますか?

(髙橋)
この1年あまり、トランプ氏は、過激な発言を叩かれながらも、現状への不満、将来への不安をスポンジのように吸収して、ここまで大きくなってきた。いまのアメリカ国民の間に漂っていた閉塞感。そこに一向に反応してくれない既存の政治に対する憤りの大きさを、まざまざと見せつけられた。それが、これからどのように形になっていくのか、いかないのかに注目したい。

(島田)
日本政府関係者に聞くと、「トランプ氏当選という結果を受けても、慌てないことが第一だ」という声が専らだ。日米関係は戦後の占領期から講和条約での独立を経て、丁寧な積み重ねで築いてきた。だから大統領がどういう個人的な考えを持っていても、アジア・太平洋地域で最大の同盟国である日本との関係を壊したならば国益に反し、政権を維持できなくなる。当面のアメリカ国内の議論の収まり具合、トランプ氏の軌道修正を見ながら、日本政府が外交方針をどう調整するのかが注目点だ。

(関口)
まず注目は市場の動き。東京市場の株価は一時1000円を超える下げになった。開票速報と同時進行で大荒れになり、トランプ・ショックだった。
今夜の欧米市場がどうか。トランプ氏の「政策が良く分からない」という不透明感から最初は「リスクオフ」リスクを避ける方向に投資家が動くので、株安・円高方向だろうと思うが、それがいつまで続くのか、あるいはどこかで収まるのかに注目している。

(西川)
では、選挙戦を振り返りながら、それぞれの勝因と敗因を探っていきます。
このトランプ氏の勝ちぶり、一体どう受け止めたらよいのでしょうか。

(髙橋)
かなりの接戦になるとは予想していたが、驚いたのは、トランプ候補が「強い勝ち方」をしたこと。そうした予想外の得票は、具体的にどこの州で生じたのか?今回トランプ候補は、民主党が強いはずの「青い州」のうち、中西部ウィスコンシン州などを赤色にひっくり返し、最後は民主党がことしフィラデルフィアで党大会まで開いて死守しようとしていた東部ペンシルベニア州を奪って、当選を決めた。
ペンシルベニアの西部地域から共和党大会が開かれた中西部オハイオ州も含めて、この一帯は、かつて盛んだった製造業が安い外国製品におされて衰退した「ラストベルト=錆ついた工業地帯」と言われる。そこに住む白人労働者層の中には、みずからの職を奪う自由貿易協定への反発、排外的な機運もくすぶっていた。
共和党は、伝統的に自由貿易は推進すべきという立場。しかし、トランプ氏は、共和党の大統領候補でありながら、そうした一帯で、これまで投票にはあまり行かなかった白人労働者票を新たに掘り起こしたかたち。その中に、事前の世論調査の中には表れないと囁かれていた“隠れトランプ票”があったのではないか。

(西川)
トランプ氏の予想外の大勝と言う評価だと思います。白人労働者層を掘り起こした大きな力、アメリカでどのような変化が起きていたのでしょう。

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(髙橋)
白人労働者層の怒りは、なぜ生じたのか?そこには、年々広がる格差の拡大と固定化という問題がある。
アメリカは基本的に「格差の国」と言われてきた。自由で公正な競争の結果であれば、お金持ちがいて、貧しい人がいるのは、仕方がないことだと言われてきた。「頑張れば報われてトップにいける」というのが、アメリカン・ドリームだった。

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しかし、近年は、どうやっても追いつかないほど、富裕層と中低所得者層の格差は開きつつある。トップ1%がアメリカの富のおよそ3割を占め、トップ10%が7割を占めている。その結果、中間層は、上に行けないばかりか、下に転落する人が増えている。アメリカの繁栄の原動力となってきた「分厚い中間層」はだんだん細り、全体の50%を切ろうとしている。
そうした転落を恐れる中間層には、「既存の政治は、自分たちのためには何もしてくれなかった」という不満と怒りが募っていた。「これまでの共和党は、ひと握りの富裕層のためばかりを考えてきた」「民主党のオバマ政権も、自分たちの職を奪いかねない不法移民に甘い対応をしている」。
アメリカでは、年々ヒスパニック系が増えて、いまや最大のマイノリティーとなり、白人は近い将来、少数派に転落するという危機感もある。そこをトランプ氏はターゲットにした。

(西川)
これを経済の上でさらに分析するとどういうことになりますか?

(関口)
アメリカがいかに格差の国だとしても貧困層の増加は年々深刻になっている。例えば食料品購入の補助を政府から受ける「フードスタンプ」の対象は、2000年に全米の6%余の世帯だったのが、2013年には13・5%に達していると言う。こうした貧困から這いあがれないことへの不満は大きかった。
もう一つ、トランプ氏は確かに共和党主流派との対立もあったが、実は、法人税と所得税を減税し、それによって景気回復をはかる、という政策は、従来あった共和党の政策でもある。かつてのレーガノミクスもそうだったこちらは元々の共和党支持層にも、訴えるものになったのではないか

(西川)
さて、政治経験のないトランプ氏が有権者の心をつかんだそのスタイルの特徴は?

(髙橋)
不動産王のトランプ氏は、ビジネスマン出身だけあって、「誰を顧客ターゲットにするか」というマーケティングに優れていると言われる。しかも、売り込み方も非常に巧み。普段の演説でも、絶対に難しい言葉は使わない。
長年テレビタレントとして活躍した経験か、メディアの使い方も上手い。アメリカの選挙には、空中戦と地上戦があると言われる。空中戦とは、テレビ、ラジオ、ネットなどのメディアを使った選挙広告やキャンペーンのこと。地上戦とは、スタッフを動員した戸別訪問などの集票活動のこと。トランプ候補は、今回の選挙で、地上戦をほとんどやらなかった。空中戦でも、非常にお金のかかる選挙CMなどは従来の候補者よりも少なかった。クリントン候補が、持ち前の資金力と組織力を活かして、大量の選挙CMを流し、大がかりな地上戦を展開したのとは対照的。
そのかわり、トランプ候補は、過激な発言によってお金をかけなくてもメディアの注目を集めた。効率的な選挙戦術を駆使して、まさかの大逆転劇を実現した。

(西川)
では、クリントン候補は、本命と目されていたのに、敗れた敗因は?

(髙橋)
トランプ候補が「何かを変えてくれる」というイメージを上手く演出したのに対して、クリントン候補は、「オバマ政権のレガシーを引き継ぐ」と訴えたことからもわかるように、有権者の間に「何かを変えてくれるかも知れない」という期待感を持たせることに失敗した。
ファーストレディ、上院議員、国務長官と、長年ワシントン政治の中枢にあったことも、豊かな経験と実績と評価する人もいたが、予備選の段階で苦戦を強いられたサンダース氏や今回のトランプ氏のような既成の政治に対する反発、“反エスタブリッシュメント”の風の前には、マイナスに映ってしまった。
2期8年のオバマ政権のあと、さらに民主党政権が続くことに対する「民主党疲れ」を指摘する声もある。
トランプ候補がいつもは投票にいかない人にも共和党支持層を拡げたのに対し、クリントン候補は、民主党が本来期待していたヒスパニックなどのマイノリティーや女性票など、「異文化連合」と呼ばれた支持基盤のうち、とくに若者層の動きが鈍かったという見方がある。アメリカ初の女性大統領の誕生という歴史的な機会への期待も、いまの若者層には「男女平等なんて当たり前のこと」と映り、あまりアピールしなかった。1980年以降に生まれた「ミレニアル世代」と言われる若者層は、従来の世代よりもリベラルで、民主党を支持する傾向も強いが、そうした若者たちに投票に行ってもらえなかったのが、クリントン候補の最大の敗因ではないか。

(西川)
大統領就任は来年1月20日、これに向けてトランプさん、さっそく、今後の態勢づくりに入るわけですけれども、どんな手順で進めていくことに?

(髙橋)
当面の焦点は、トランプ政権がどのような顔ぶれになるのか。いまの段階では、まだ予想できない。すでに「政権移行チーム」というものはある。トランプ氏は、ビジネス界から人材を登用し、自分は“CEO型”の大統領になるのではないかという見方もあるが、政権を切り盛りする“番頭役”が見あたらない。政策ブレーンも、あまり馴染みのない顔ぶればかり。これまでトランプ氏とは距離を置いてきた共和党系の人材も、今回の勝利を受けて集めていくのではないか。
今後の鍵を握るのは、議会との関係。大統領選挙と同時に行われた今回の改選で、共和党は上下両院で多数派を維持することになった。これも、もうひとつのサプライズ。
共和党の主流派と、トランプ氏との間には、依然として溝がある。減税は良いが、財政支出の拡大など、いわゆる「大きな政府」を容認するトランプ氏と、「小さな政府」を志向する党内の大勢とは、相いれない。妊娠中絶や同性婚など、社会的価値観をめぐる問題でも、トランプ候補と、保守派のペンス副大統領候補とですら意見は分かれている。共和党主流派と関係を修復できるかどうかがポイント。

(西川)
政策面の準備状況、特に変えると主張している経済政策はどうですか。

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(関口)
財政についての主張をみると政策に整合性が乏しい。必ずしも練り上げられたものと思えない。こちらがトランプ氏の主な経済政策だが、法人税を35%から15%に引き下げ、所得税も簡素化して税率も下げるとしている。
その一方ではインフラ投資も拡大するという。この方向では財政赤字が拡大するばかりだ。公約の財源も示さないといった所が、場当たり的で、政策の柱がしっかりしていないように映っている。

(西川)
政策はまだあいまいな点が多いようですが、外交政策をめぐって着目しておいた方が良い点は。

(髙橋)
これまでトランプ氏が訴えてきたスローガンは“アメリカファースト”。その底流には、「アメリカはアメリカのことだけを考えていれば良い」「世界の警察官など務めるつもりはない」とする内向きで孤立主義的な考え方が見え隠れしている。外交の機軸をどこに置くのかはっきりしない。「アジア重視」を掲げたオバマ政権とは打って変わって、アジア太平洋地域の安全保障面でも、アメリカのプレゼンス低下に懸念が残る。

(西川)
アジアの中の日本、日本に対しては、トランプ氏からはすでに注文がついていますね。

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(島田)
トランプ氏は、アメリカ軍を駐留させている日本に対し「守ってやっているのだから、もっとカネを払え」と主張していたが、ここには2つの誤解がある。
▽1つは日本の財政負担の事実に関する誤解だ。日本の防衛費は総額5兆円余り。
このうち、日本はアメリカ軍の駐留経費を年間3700億円余り、それにアメリカ軍の再編関係経費として年間1800億円近く、合わせて5500億円以上を支出している。
日本の防衛費の1割以上だ。
アメリカ軍人の給料以外の多く、具体的には基地を置いている場所の土地代、基地で働く日本人従業員の給料などは日本政府の予算で支出している。
▽もう1つは「日本を守ってやっているのだ」とトランプ氏は言うが、日米安全保障条約に基づくアメリカ軍の日本駐留は、それだけでなく極東地域の平和と安定に寄与するため、つまりアメリカ軍が東アジアで行動するための発進基地となることも認めている。
トランプ氏本人と、今後固まる政策ブレーンに丁寧に説明する必要がある。

(西川)
アメリカにもメリットがあることをわかってもらうことが必要だと言うことですね。

(島田)
政権発足後のハネムーン期間を過ぎても「日米同盟の見直しだ」と言い続けるならば、日本が行っている1つ1つの施策が持つアメリカにとっての意味を丁寧に再検討して行く必要がある。その作業は急がずに、細かい部分での見直しは当然のこととして双方で行う必要がある。
同盟管理の実務に関わってきたアメリカ政府の関係者は、昨年まとまった新ガイドラインによって、日米の協力関係が深まったことを良く知っている。こうした人たちと全く異質な実務者が、安全保障政策を担うことは考えにくいので、トランプ氏に徐々に理解を迫っていくことが現実的になる。場合によっては、それに4年かけても良いのではないか。

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(西川)
また、世界の大国、中国やロシアに対してトランプ氏は批判的な発言をしていますが、内向きな政策に関心の高いトランプ氏が外交について今後どのような人選をしていくのか、その陣容が決め手になるとみられます。

次いで、経済については、なんといってもTPPが焦点になってきました。

(関口)
トランプ氏への最大の懸念材料は「保護貿易主義」の色合いが強い事だ。TPP=環太平洋パートナーシップ協定も批准は極めて難しくなったと考えざるをえない。世界経済の成長促進のカギとして、多くの国が精力を注いだTPPが、空中分解ないしは宙に浮いてしまう恐れが出てきている。トランプ氏が他国に譲歩を求めても、日本を含めどこもおいそれと再交渉には応じられない。
クリントン氏も選挙中はTPP反対を掲げていたが、もともと国務長官時代にはTPPを推進する立場だったこともあり、年内の今の議会の最後の会期中(レイムダック会期)に批准することまで妨げることはないのでは、という期待もあったが、この可能性は極めて低くなった。TPPの頓挫は、世界経済や日本経済にとって大きなマイナスだ。

(島田)
しかしながらTPPも安保同様に急ぐ必要はない。日本も国会での承認に手間取っている。経済規模の大きい日米両国が共に承認手続きを終えなければ、発行しない仕組みになっている。従って、TPPに元々積極的だったアメリカ共和党がトランプ大統領にどのような形で承認を迫り、それに大統領がどう応じるかを見守るのが先決だ。
日本では様々な可能性について検討を加えるための時間ができたと受け止めて良いのではないか。

(関口)
もう一つ、産業界にとっての現実的な影響は、トランプ氏がNAFTA=北米自由貿易協定の再交渉も公約にしていることだ。日本企業にとっても例えば自動車産業では、メキシコ等を生産拠点にしてアメリカ市場に完成車・部品を供給している。そうした戦略の見直しを迫られるとなれば大ごとになる。
さらにトランプ氏は、ドルに対し自国通貨安を目指す国や、アメリカの貿易赤字を生んでいる国には厳しい姿勢をとっている。報復的な関税を課すことまでも示唆している日本は中国・台湾などとともにこの範疇に入れられてしまう恐れもある。「対米輸出で稼ぐ」ことが難しくなり、現地生産に切り替えるとなると、国内の空洞化を招く心配もある。

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きのう日中の東京株式市場の日経平均株価は、一時1000円を超える下げになり、終値では919円の値下がりだった。6月24日に英国のEU離脱ショックで1日で1286円下げた時以来の大幅下落だった。それ位の衝撃度だったといえる。
ただ、当確後、最初の演説では、これからは「党派を超えて」「成長を倍にして強い経済を作る」と述べる等「大統領らしい対応」を見せたことで、市場ではやや安心感も出て、欧州市場の下げ幅は小幅に抑えられている。売り一辺倒の流れでもないかもしれない。ニューヨーク市場では現在、小幅な値下がりにとどまっている。
もう一つの焦点は円ドル相場。こちらも東京の時間帯では1ドル101円台の前半まで円高ドル安が進んだが現在海外市場はやや戻す形で、104円台になっている。
為替が動く要因から考えると、まずは市場全体におよぶ。いわゆる「リスクオフ」の流れがある。このため比較的安全な資産とされる円が買われやすくなる。更に、金融・株式市場の混乱が続くようであれば、FRB連邦準備制度理事会が検討している、来月の利上げが難しくなるかもしれないとこれも円高要因になる。
円高になっても日本政府による市場介入や、国際的な政策協調というのは考えづらい。そもそも「大統領選挙の結果」を反映した市場の動きについて「行き過ぎかどうか」を議論すること自体難しいわけで、この先の円相場の動きは引き続き要警戒だ。

(西川)
経済に関しては、成功したビジネスマンであるトランプ氏にはそれなりの期待はないか。

(関口)
当然、別の見方もある。トランプ氏が掲げる法人税・所得税の減税や、政府の歳出拡大によるインフラ投資、道路・鉄道・橋などの公共事業が行われることで成長率が上がれば、逆にプラスにもなりうるというのだ。こうした景気刺激策を中心に、現実的な政策運営が見込めるようになれば、市場の「ショック」は収まり、前向きな評価が出てくる可能性もある。

(西川)
さいごに個々の政策を離れて、自らの針路について「アメリカをまた偉大にする」として「チェンジ」=「変革」を掲げています。トランプ氏の変革は、格差や分断を逆に広げてしまうことになりかねないリスクもあるわけですが、どのように評価していますか。

(髙橋)
確かに、アメリカ社会の分断を広げてしまう心配はあるとは思う。トランプ政権のリスクの中には、いまの仕組みを壊し、いままでのやり方をやめたところで、その先に何があるのか?もしかしたら何もない、まったくの無策になることもあるかも知れない。
ただ、これまで歴代の大統領も、選挙期間中の発言やスローガンと、就任後の実際の政権運営が、まったく別の話になったというケースは、枚挙にいとまがない。トランプ氏は、きょうの勝利演説でも、民主党陣営との融和に重きを置いて、クリントン氏の健闘を称えて見せる余裕も見せた。トランプ氏がどのような大統領になるのか、慎重に時間をかけて見極めることが肝要ではないか。

(島田)
長い間、民主党と共和党の大統領が交代してきたが、トランプ氏は共和党の主流派とは大きく異なる。従来、日本の自民党政権は共和党大統領の方が接点が大きいとしてきたが、今度はそう簡単ではない。
アメリカ社会の変質という問題に、日本の政府も政党も国民も、改めて目を凝らす必要がある。

(関口)
今回のトランプ氏の勝利には、経済のグローバル化への異議申し立てという側面もあると言う点では、イギリスのいわゆるブレグジットとも正に重なる。
そもそも自由経済のセオリーでいえば貿易の拡大は、あまねく諸国民の利益になるはずだ、ということになっているが、現実は理論通りではない。特定の地域や、あるいは階層の人々にとっては大きな負の側面があるのは否めない。こうした疑問符は、今後様々な形で、先進国途上国問わず、出てくる可能性がある。こうした疑念を乗り越える新たな知恵や経済の仕組みを生み出せるか、ということも問われていると思う。

(西川)
世界を政治、経済、安全保障面でリードしてきたアメリカ、経済面では、レーガン大統領以降、自由貿易を掲げ経済を市場の原理に任せ、グローバル化を進めることを原則として世界を引っ張ってきました。この間、国内では所得の格差が拡大するという負の側面が蔓延し、このことに国民の不満が膨れ上がっていたのに、旧来のワシントン政治は十分な治療をしてこなかった。このつけが、今回の選挙で一挙に噴き出し、アメリカをもう一度偉大にすると訴えたトランプ氏が、国民の心をとらえました。今回のアメリカ大統領選挙は、グローバル化が進む世界をもう一度見直してみるいいきっかけかもしれません。

(西川 吉郎 解説委員長 / 島田 敏男 解説委員 / 関口 博之 解説委員 / 髙橋 祐介 解説委員)

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