NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「パリ協定発効 日本の課題は?」(時論公論)

室山 哲也  解説委員

●パリ協定発効
今日は、地球温暖化対策の新しい国際ルール「パリ協定」が発効し、歴史に、記録されるべき日となりました。パリ協定は、去年12月のCOP21で採択され、その後米中、インド、EUなど、既定数の55か国以上が批准し、発効に至りました。今後、深刻化する地球温暖化に対して、世界のすべての国が、行動を始めることになります。

j161104_00mado.jpg

●解説のポイント

j161104_01_0.jpg

「パリ協定の中身を再確認」し、
「世界が直面する課題」と
「日本がなすべきこと」について、考えてみたいと思います。

●パリ協定とは
パリ協定が発効したからといって、地球温暖化に歯止めがかかったわけではありません。

j161104_02_3.jpg

これは、世界の平均気温の今年までの変化です。CO2など温室効果ガスの増加で、地球の平均気温は上がり続け、世界各地で異常気象が頻発しています。今後、世界が、厳しい対策を取らなければ、地球の平均気温は2100年で、最大4.8度上昇し、大規模な被害が世界中で起こることになります。

パリ協定は、予想より、早いタイミングで発効しました。
その理由は、今年9月初め、世界のCO2排出の4割以上を占めるアメリカと中国が、そろって協定を締結し発効への動きを加速したからです。背景には、アメリカは「シェールガス」という、CO2の排出が少ないエネルギーが見つかり、中国は、PM2.5などの環境汚染で、低炭素の燃料が必要となったという事情がありますが、風力発電や太陽光発電などの、再生可能エネルギーの技術が、ビジネスとして成立しはじめたことも、大きな追い風となっています。

では、パリ協定の中身をもう一度見てみましょう。

j161104_03_5.jpg

「2020年以降の地球温暖化対策に、すべての国が参加」して、「世界の平均気温上昇を、産業革命から2度未満、できれば1.5度に押さえ」「今世紀後半に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」「参加国は削減目標をたて、5年ごとに見直し、国連に報告する」「温暖化被害への対応、いわゆる適応策にも取り組む」「途上国への資金支援を先進国に義務つける」などです。

●今後の世界の課題は?
世界の温暖化対策は、今、どうなっているのでしょうか?

j161104_04_1.jpg

再生可能エネルギーの導入をみると、この10年で2倍にのび、各国での比率も大きくなっていることが分かります。

j161104_04_3.jpg

日本はアメリカと同じ程度ですが、大規模水力発電の比率が高く、風力や太陽光などの再生可能エネルギーの比率は、低い水準にとどまっています。
今後、各国は、この動きをさらに加速し、目標達成に向けて努力を続ける必要があります。
しかし、パリ協定で、各国が提示している削減目標を、すべて達成しても、まだ「2度目標」には届かず、3度前後にまで気温が上がってしまうことも分かっています。

j161104_05_1.jpg

また最近、地球の平均気温が、なぜか上昇している現象も気になります。
研究によると、いままで、海が大気のエネルギーを、深いところにまで取り込み、地球の平均気温の伸びを抑える仕組みが働いていましたが、その循環が間もなく終わり、今後、再び温暖化が加速する可能性がある。この気温上昇は、そのはじまりかもしれないという見方があります。
いずれにしても、温暖化対策にかかわる状況には、不確定な要素が多く、今後、紆余曲折が待ち構えていることが予想されます。

●日本の課題は?
では、日本の現状はどうでしょうか?
日本は、CO2の排出が世界5位の主要排出国です。しかし、パリ協定の批准が間に合わず、11月7日にモロッコで始まるCOP22の、パリ協定締約国の第一回目の会議に、正式メンバーとして参加できなくなりました。今後は、少しでも批准を急ぎ、メンバーの仲間入りをしたいところですが、温暖化対策のルール作りに、直接かかわることができない状況は、残念としか言いようがありません。

では、日本国内の温暖化対策はどうなっているでしょうか?

j161104_06_2.jpg

省エネや脱CO2エネルギーへの転換によって「2030年度までに、2013年度比で、温室効果ガスの排出を26%削減」し、2050年には、80%削減する目標を掲げています。

j161104_07_3.jpg

これは、その目標の根拠の一つとなっている、2030年の電源構成です。
CO2を出す化石燃料による発電と、CO2を出さない発電に分かれています。
この計画には、問題点が2つ指摘されています。
一つは「石炭火力発電」です。石炭は化石燃料の中でも、CO2排出量が最も多く、世界的には、有効な温暖化対策としては、認められていません。さらに価格が安いため、建設に歯止めがかかりにくい傾向があります。今後は、この比率を、これ以上増やさないよう、規制や方策を確立する必要があります。
もう一つの問題点は「原子力」です。原発の運用は、原則40年と決まっていますが、現在の原発をすべて40年稼働しても、2030年には14~15%にしかならず、20~22%の数字は、運用年数を延長するなどがふくまれていると考えられます。しかし、現在の、原発再稼働を巡る混乱を見ると、2030年までにこの数字が実現できるのか疑問がわいてきます。今後は、再生可能エネルギーの比率をさらに高める努力が必要といえます。

再生可能エネルギーの比率を、拡大することはできるのでしょうか?
可能性は十分にあります。

j161104_08_6.jpg

日本の国土面積は世界61位ですが、排他的経済水域を含めた面積は世界6位。海岸線は3万キロ以上もあります。この海を舞台に、海洋風力発電や温度差発電、潮流発電などを展開すれば大きな可能性が開けます。また地熱エネルギーは世界3位、バイオマス発電を可能にする森林比率も先進国では3位です。このように、実は、日本は自然エネルギーの宝庫で、先端技術と組み合わせて、再生可能エネルギーの比率を拡大する可能性は、十分あります。
又、開発した技術を、途上国と協力して展開し、削減したCO2の一部を、日本の成果としてカウントするアイデアも検討されています。
しかし、日本で、再生可能エネルギーを育てる前提として、電力網の強化、固定価格買い取り制度や電力自由化の促進など、社会制度の充実が欠かせません。

2030年を乗り切っても、その次に、2050年に80%削減という大きな壁が待ち構えています。その壁を越えるには、今までにない革新的エネルギー技術も必要です。

j161104_09_0.jpg

たとえば、自然エネルギーを使って水を分解し、水素に変換して電力を得る「水素技術」。温暖化対策に有効なバイオマス発電と、そこから出るCO2を地中に埋める技術を組み合わせた「バイオマスCCS」。CO2を酸素に変換する「人工光合成」。送電ロスをゼロにする「超電導送電」など、日本が得意とする基礎技術を育て、同時に、成長戦略にも生かす工夫が必要となってきます。

●まとめ
かつて、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のパチャウリ議長は、「温暖化を止める技術は、すでに人類の手の中にある。ないのはやる気だけだ」と述べました。日本にいま必要なのは、まずは、本気で地球温暖化に向き合う「持続する志」ではないでしょうか?
地球温暖化に対する取り組みは、今後数十年、数世代にわたります。地球環境の仕組みはどうなっているのか?なぜ循環型社会が必要なのか?といった科学的知識を、子供たちに教えていく必要もあります。
今から50年、100年たったころ、未来の人間たちは、私達の世代を、そして日本を、どういう目で見るでしょうか?その時のためにも、パリ協定が発効した今、一人一人が現状を再認識し、行動を起こす時だと思います。

(室山 哲也 解説委員)

キーワード

関連記事