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「対北朝鮮制裁 効果と限界」(時論公論)

出石 直  解説委員

今から10年前、北朝鮮が初めての核実験を行って以来、国際社会は北朝鮮に対し何度も制裁を科してきました。しかし核・ミサイル開発に歯止めをかけるどころか、北朝鮮はその後も核実験を繰り返しその技術を向上させてきました。
この時間は、
▽国際社会による制裁措置は果たして効いているのか?
▽北朝鮮の核・ミサイル開発をやめさせる決定打はあるのか?
この2点に絞って考えていきたいと思います。

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まず「制裁措置は効いているのかどうか」
結論から先に申し上げれば、「一定の効果はあるけれども、万能ではない」ということではないでしょうか。

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国連の安全保障理事会はこれまでに5回にわたって北朝鮮に対する制裁決議を採択し、そのたびに、内容を強化してきました。規制する対象も、当初は、核関連物質・弾道ミサイル、大量破壊兵器、それに戦闘機や戦車など一部の武器に限られていましたが、ことし1月の4回目の核実験の後に採択されたもっとも新しい決議では、「すべての武器」に対象が広げられました。北朝鮮の貴重な外貨獲得源となっている石炭や鉄鉱石、レアメタルの取り引きや、ロケット燃料を含む航空燃料の供給も原則禁じられました。アメリカのパワー国連大使の言葉を借りれば「過去20年間でもっとも厳しい」内容だったはずでした。
しかし北朝鮮はこうした国際社会の対応をあざ笑うかのように、決議採択からわずか半年で5回目の核実験を断行したのです。

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日本、アメリカ、韓国は「これまでの制裁が効いていないのなら、もっと効果的で厳しい制裁を科すべきだ」と主張しています。これに対して中国やロシアは「制裁には限界があり、対話による解決を模索すべきだ」と反論しています。「制裁が十分な効果を上げていない」という点では見解が一致しているものの、「ではどうすれば良いのか」という点では、真っ二つに分かれています。

制裁の効果についてもう少し細かく見てみましょう。
▽北朝鮮の貿易額の推移です。核実験を行った後には若干の減少が見られますが概ね右肩上がりで、この10年間で2倍以上に増えています。

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▽国別では、中国と韓国だけで9割以上を占めています。現在、韓国はケソン工業団地の操業を全面的に中断していますので、ことし2016年の韓国との貿易は限りなくゼロに近くなる見込みです。

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▽中国と北朝鮮との貿易も2014年をピークに減少に転じています。ことし4月、中国政府は安保理の制裁決議を履行するための措置として、石炭や鉄鉱石など25の品目の輸出入を禁止すると発表しました。核やミサイル開発とは関係のない民生用の取り引きは
例外として認められていますが、この場合も取引業者が誓約書を税関に提出して審査を受けなくてはなりません。取り引きがやりにくくなってきていることは間違いありません。

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しかし、こうした対応にも限界があります。
▽表向きは民生用であっても、加工の仕方次第では核やミサイル開発にも転用することが可能なものもあります。
▽民生品を輸出して得た外貨を核やミサイル開発に回すこともできるでしょう。
▽制裁決議についての各国の温度差もあります。制裁決議の履行状況を調査している安保理の委員会には、北朝鮮と軍事的な結びつきの強いアフリカ諸国などによる制裁破りの事例が複数報告されています。

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国際社会から厳しい制裁を受けているはずの北朝鮮では、先月、航空ショーが開催され、外国メディアの前でアクロバット飛行が披露されました。航空燃料の供給を禁じた制裁措置は効果を上げてないと強調してみせたのです。これでは制裁の効果に疑念が持たれても仕方ありません。

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先月、ニューヨークで開かれた国連総会に出席した北朝鮮政府の当局者はNHKの取材に対し「核武装は国家路線だ」と強調、核実験の自制を求める声は「気にもしてない」と切って捨てました。党の機関紙である労働新聞も「キム・ジョンウン委員長は、わが国を核強国として高く押し上げた」とする社説を掲げ、核・ミサイル開発の成果を強調しています。

では北朝鮮の核・ミサイル開発をやめさせるための決定打はあるのでしょうか。
現在、国連安全保障理事会では、以下のような制裁強化策が検討されています。

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▽北朝鮮との取り引きを禁じる品目や資産凍結の対象を増やすなど「制裁対象の拡大」
▽例え民生用の取り引きであっても、これが軍事用に転用されないことを証明する義務を業者に負わせるなどの「新たな制裁措置」、
▽制裁破りを許さないための「決議の履行の徹底」。違反した国にペナルティーを科すなどです。
ただ北朝鮮は朝鮮戦争が始まった直後から経済制裁を受け続けており、国際社会からの制裁には慣れっこになっているという指摘もあります。北朝鮮にとって国際社会から制裁を受けることは 最初から織り込み済みだというのです。

ここまで北朝鮮に対する制裁の効果と限界について見てきました。
核やミサイル開発に直結する取り引きを規制するという点では、制裁は一定の効果を上げてきたと評価できます。核・ミサイル開発は許さないという国際社会の意思を北朝鮮に伝えるという効果もあったでしょう。
ただこれまでの国際社会の取り組みが、北朝鮮の核・ミサイル開発をやめさせることにつながらなかったことも厳然たる事実です。「制裁を科せば、いずれ北朝鮮は核開発を諦めるだろう」という甘い考えはもう捨てなければなりません。北朝鮮が初めての核実験に踏み切ってから10年、これまでの苦い経験を通じて私達が学んだのは、制裁を科すだけでは北朝鮮の態度を変えることはできないということではないでしょうか。
結論的に申し上げれば、北朝鮮を変えられるのは北朝鮮でしかありません。北朝鮮が自らの考えを変えない限り、この問題の根本的な解決はありえません。

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制裁は、加える時と緩める時にもっとも効果を発揮すると言われています。北朝鮮が自らの考えを変えるよう仕向けていく、そのために、ある時は制裁を強めて圧力をかけ、また局面によっては逆に制裁を緩めることによって北朝鮮を対話の場に引きずり込むといった柔軟な対応も必要となってくるかも知れません。困難な道のりではありますが、北朝鮮の核・ミサイル開発が完成に近づいている現状を考えれば、私達に残されている時間はそれほど多くないように思われます。

(出石 直 解説委員)

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